あふたーざみにらいぶ
「俺は彼女の財布じゃねぇ!」
俺の叫ぶような声とともに演奏が終わると、体育館にわーという観客の拍手や声援が響き渡った。
うーん…歌詞の台詞とはいえ凄い台詞だよなぁ…これで終わらせるように作る吉田のセンスもそうだけど。
俺は呼吸を整えると再びマイクを構えた。
「えー…ネタ感が拭えない曲ですが、最後まで聴いてくださりありがとうございました。俺達陸上部(仮)の発表はこれで終わりですが、引き続き文化祭を楽しんでいただければ幸いです」
俺の言葉が終わり、俺達がお辞儀をすると、再び体育館内に拍手が響き渡った。
「おー!よくやってくれたお前ら!」
「ボクの想像を超えるいいステージだったよ!」
幕が下がり、ステージを降りた俺達が体育館を出ると、満遍の笑みを浮かべたバカップル(渡部と八代さん)が立っていた。
ってか八代さんいつの間に…
「やっぱりあっちゃんが選んだだけあって凄いよかったよ。ボクも自分で作った曲を弾いてもらえるのはとても嬉しいしね」
「体育館に集まってた先生方からもお褒めの言葉をもらったからな…!誇っていいぞ!」
ダメだ…俺、この2人のテンションについていけない…
八代さんはもっと大人しい人だと思ってたけどこういうところは渡部と似てるんだなぁな…以外、でもないか。
「やったねいっちゃん!あたし、なんか自信が持てそうだよ!」
「一体何の自信だよ…ってか俺そろそろ着替えていい?この格好だと色々と辛いんだけど…」
特にお手洗いとかお手洗いとかお手洗いとか…うん、それしかないな。早乙女先輩によく女装させられてたし、視線は慣れたからな。
「そうか。あ、これ部室の鍵ね。俺的には一にはもうちょいその格好でいてほしいんだが…」
「お断りします」
「あ、うん」
「それでは俺達はこの辺で…」
俺は2人に会釈をすると、若林、井上を連れて部室へと向かった。
「…うん、こっちの方が動きやすい」
2人に手伝ってもらい、メイド服を脱いだ俺はいつもの制服着ると馴染ませるように体を動かした。
「メイド服のいっちゃんもよかったけどねー?こっちのいっちゃんもやっぱ落ち着くなぁ…」
「井上、それは褒め言葉として受け取っていいの?」
「あったりまえじゃん!」
井上が声を張ってそう言うと、不意に背後から俺の肩をトントンと叩かれた。
「ん?どした若林?」
「はじめ、手伝って」
そんな若林の声に俺が無警戒に振り向くと、俺の視界に服を中途半端に脱ぎかけた若林の姿が飛び込んできた。
「わ、若林!?おま、その格好…」
「手伝ってよはじめ。後ろのチャックが引っかかっちゃったみたいで…」
「いや、男の俺に頼むなよ…」
せめて井上に頼んでくれよ…女同士なんだし。
俺は心の中でそう叫ぶと、チラホラ見えている下着とか素肌とか…出来るだけ意識しないように若林の服のチャックを開けた。
何とは言わないが色々と引っかかって大変なんだろうなぁ…
「よし、これでいいか?」
「ん、ありがとはじめ」
パサリと服が地面落ちる音とともに下着姿になった若林に、俺が目を晒そうと振り返ると、ちょうど服を脱いだ井上とバッチリ目があってしまった。
「い、いっちゃん?そんなにしっかり見られるとあたし…」
「い、いやすまん!まさか井上まで脱いでるとは思わなくてだな」
何か言いたげだった井上の言葉を遮るように俺は叫ぶと、慌てて両眼を瞑った。
害がないとはいえ男である俺がいるのに着替える2人って…俺も人のこと言えないけど。
「はじめ、もう大丈夫だよ。私も井上さんももう着替え終わったから」
「…本当に着替えたんだよな?」
「大丈夫大丈夫。私を信用して」
前にそれで一度痛い目見たことがあるからな…役得だったけど。
俺はゆっくり目を開けると、制服姿の2人が立っていた。
「あとはいっちゃんだけだよ」
「え?何の話?」
「メイクの話。私達はもう落としたけどはじめはまだついたままでしょう?」
そういえばそうだった…着替えた云々で忘れてた…
「あたし達が落としてあげるからそこに座って」
「ん…じゃあよろしく頼むよ」
俺は若林の出した椅子に腰掛けると、2人に身を任せた。
「お兄さん!」
俺達が3人で校内を回っていると、不意に背後からそんな声が聞こえてきた。
「おぉ!メアリー、来てくれたのか」
俺が振り向くと、満遍の笑みを浮かべたメアリーが勢いよく俺の腕に飛び込んできた。
「はじめ、良いステージだったよ」
「あ、ヘンリーおじさん。お久しぶりです。たしか…5月以来ですか」
おじさんはコクリと頷くと、後ろにいる井上と若林のほうへ目を移した。
「なんですかおじさん?あたし、顔はよくてもいっちゃん以外興味ないんで」
「あ、いや…そんなつもりはなかったんだが…」
ジトっとした眼を向ける井上におじさんはそう返すと、若林の方を見た。
「霞…?やっぱり霞だよな…?」
ヘンリーおじさんの予想外の一言に、俺達が固まると、若林が汚物を見るようにな目でおじさんを睨みつけた。
「は?なんで私の名前知ってるの?ストーカー?」
「いや、知らないならいいんだ。うん…」
ヘンリーおじさんがどこか寂しげにそう言うと、不意にドタドタと慌ただしい足音がこちらに近づいてきた。
「一!貴様に来客だぞ…!フッ…この我が案内してやったのだ!ありがたく思うがいい!」
「いや、来客って誰だよ…お前以外見当たらないんだが?」
「えっ?」
何やら叫びながらやってきた吉田は、俺の一言にいつものテンションを忘れたように慌てて振り返った。
「あれ?たしかに連れてきたはずなんだが…」
「だーれだ!」
困惑している吉田を見ていると、そんな声とともにいきなり視界が塞がれた。
…なんか背中に柔らかい感触が…
「お姉ちゃん誰ー?お兄さんは今から私と遊ぶのー!」
「違うよー!これから私と五十嵐は2人だけでオトナなイイコトするんだよー」
「えー!」
ん?五十嵐?
「お前、鈴木か?」
「おー!大正解!さっすが私の旦那様!」
『え?』
俺の顔から手をどけた鈴木の台詞に、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。
「いっちゃん…?」
「お兄さん…?」
「オイ、2人ともそんな目でこっち見んな…メアリー?そんなに強くしがみつかないで…割と洒落にならないくらい痛い」
俺は、井上とメアリーの視線を逃れるように吉田のほうへ向けると、吉田は口を開けたまま固まっていた。
「ハハハ!はじめもやるじゃないか!さすがだな!」
「いや、感心してる場合じゃないですよおじさん…」
俺は陽気に笑うおじさんにジトっとした視線を送ると小さくため息をついた。
…ってかなんで鈴木がくるとなんでこんなにピリピリするんだ?15年付き合ってきたがこの理由だけが未だにわからん…
「じゃ、みんなに宣戦布告も済ませたし私はこれくらいで。五十嵐!いいステージだったよ!カッコ良かった!」
「お、おう…ありがと」
鈴木はみんなを見渡し、一瞬口元を歪めると嵐のように去っていった。
「…ほんとムカつく害虫…」
若林はボソリと呟くと、去っていく鈴木の背中を睨みつけた。
一途な愛を永遠に。(挨拶)
どうもみなさんこんにちは。赤槻春来です。
と、いうわけで9月編、いかがでしょうか?
文化祭の時期は学校によって違うので早かったり感じる方もいると思いますが、はじめ達の学校では9月下旬でしたね。
一ちゃんのメイド服姿…何故かとても絵になりそう。主に髪型のせいで。
登場するキャラもいよいよ多くなってきて…カオスな空間になってしまったような気もします。はい。読みづらかったらごめんなさい。(謝罪)
気を取り直して…次は10月編!明確なイベントはないのでそこそこ短くなりそうです。
感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。
またのんびりと更新していく予定なので気長に待っていただければ幸いです。
それでは皆さん、またどこかであいましょう。
バイバイ!




