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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
9月.高1の文化祭
16/51

文化祭‼︎



 朝、目を覚ますと珍しく若林がいない布団を畳んで俺は台所へと向かった。

 若林が泊まりにきてるのが当たり前になってきたせいで妙に寂しい気分になったのは内緒だ。

「あ、義兄おにいさん!おはようございます!」

「おう。今日は早いな椿ちゃん」

 俺が台所に着くと、エプロンを身につけた椿ちゃんが朝食の卵焼きを焼いているところだった。

「今日、義兄おにいさんが文化祭だと聞いたので朝食でもと…」

「お、ありがと椿ちゃん。んじゃ俺はお言葉に甘えてちょっと支度でもしてくるかな」

 朝食を作らないというのはどこか違和感があるが…まぁ椿ちゃんも俺を気遣ってくれてるみたいだしたまにはいいか。作ってるのが明や早乙女先輩じゃなくてよかったと思っておこう、うん。

 俺はひとりそう考えると、荷物の置いてある空き部屋(むしろ最近はこっちが自室)に戻った。


「おはようはじめ!」

「おう、おはよう」

 俺がバス停に着くと、まるで見計らったかのように若林が背後から声をかけてきた。

「はじめ、いよいよ今日から文化祭だね…!明日八代さんが衣装を作って持ってきてくれるみたいだからシフトもないし今日は一緒にまわろ?」

 若干上目遣いになりながらそう言う若林に、照れ臭くなった俺はそっと目をそらすとコクリと頷いた。

 …上目遣いは反則だよ…若林の場合はそれを意識してない分破壊力が…

「よし、これで井上アレよりリードできる…!」

「?若林…?さっきからぶつぶつ何いtt…」

「いや、なんでもないなんでもない!こっちの話」

「あ、そう」

 若林が言うならそうなんだろう。まぁ部外者の俺が立ち入る内容でもないだろうしな。

「まぁ…なんか心配事とか相談とかあれば言ってくれよ。協力できるかはわからんが話し相手くらいにはなってやるから」

「…!ありがとはじめ」

 俺達はそんな会話をすると、やってきたバスへと乗り込んだ。


『お前ら!用意はいいかー!』

『おー!』

『全力で楽しむ準備はできたかー!」

『おー!』

『それではただいまより文化祭、開ッ!祭ッ!しますっ!』

 マイク越しに響く若干割れ気味の文化祭実行委員長の声に、集会所に集まった生徒や教師が声を上げると、いよいよ文化祭が始まった。

 文化祭ということもあり、普段は化粧をしない生徒も化粧をしていたり、それぞれの教室から楽しむような声や悲鳴のような声が響き始めた。


 昼過ぎ、俺は若林に連れられて食べ物巡りをしていた。

「うーん…これもちょっとイマイチ…」

「またか?俺はこのパンケーキ文化祭の出し物としては美味いと思うけど…」

「違う、違うんだよはじめ。はじめの作った料理と比べたら全然美味しくないんだよ!」

「あ、うん」

 若林の真剣な表情に、俺は思わずそんな声をあげて一歩後ろに下がった。

「あー…若林?俺の料理を美味いと言ってくれるのは素直に嬉しいけど、わざわざそれを出したクラスの前で言う必要はないと思うぞ…」

「あっ…」

 若林の反応に苦笑いするクラスの人達を横目に、俺は反射的に若林の手をとるとそのまま、人の少ない中庭へと連れ出した。

「どうしたのはじめ?ちょっと強引だったけど…」

「なんかあの場にいたらよくない気がしたからな。そしたら勝手に身体が動いてた」

「そう…」

 そういえば若林はちょっと難ある人だったっけ…4月に渡部が俺と合わせたのはそれをみんなと馴染めるようにするためだったっけ。

「5カ月か…あっという間だなぁ…」

「はじめ?急にどうしたの?」

「いや、もう若林と会ってからもうそんなに経つんだなと思ってな。高校入ってから若林と一緒にいる時間が1番長いかもしれん」

 そう、よく家に泊まりにくる若林はもはや俺にとって当たり前の日常で…早乙女先輩が失踪してからポッカリと空いた穴をその存在が埋めてくれた。

「若林、その…いつもありがとな」

「…?なんの話?私何かしたっけ?」

「いや、なんでもない。こっちの話だ、忘れてくれ」

「もー!何よそれ!余計に気になるじゃない!」

 ぷくっとふくれる若林に、俺は苦笑すると雲一つない空を見上げた。


 文化祭2日目。渡部考案のミニライブ当日である。

 学校に着いた俺はすでに教室に来ていた若林、井上の2人と教室で話をしていると、不意にトントンと肩を叩かれた。

にのまえ、若林、井上。ちょっとこっちに…」

「…?あ、先生、おはようございます。どうしたんすか」

「いや、伊吹から衣装が届いたからな。『部室に置いておいたから着替えて』って」

 渡部はそう言うと、俺に部室の鍵を渡してきた。

 八代さん、仕事早いなぁ…別の学校だっていうのに早すぎだろ…

 若林と井上はどんな衣装か気になるのか若干ソワソワしている中、俺はふと、吉田が呼ばれてないことに気が付いた。

「先生、吉田は?あいつの分も衣装あるんでしょう?」

 それを聞いた渡部は、しばらく黙り込むとふっと息を吐いた。

にのまえ、俺はたまにお前が怖いよ」

「は?どうしたんすか急に…」

「いや、にのまえは俺が考えてることを簡単に当ててくるからな。吉田は…まぁ先に着替えてるよ。お前達も着替え終わったら見ればわかるよ」

 渡部のよくわからない日本語に、俺はしばらく頭を捻ったが、要するに吉田は一緒じゃなくても大丈夫ってことだろ。

「はーじーめー!早く!」

「いっちゃん?早く行こ?」

「お、おう」

 俺はテンションの高い2人にそう返事をすると、部室へと向かった。


「…ねぇ2人とも」

「ん?」

「どうしたの?いっちゃん」

 俺は部室に置いてあった衣装の入っているであろうダンボールを開けると、その中身を見て反射的にそんな声を漏らしてしまった。

「いや、これって俺達3人分の衣装が入ってるやだよな?」

「そうだよ」

「はじめと私達の分しか入ってないはずだよ」

 俺は2人の声を聞くと、ダンボールの中に入っていた衣装を全て取り出した。

「なぁ…これ本当に俺の分あんの?俺にはサイズの違うメイド服が3着入ってるように見えるんだけど…」

 しかもそれぞれ間違わないように名札がピンでとめてあるし…マジでこれ着ろっ言うの?

「はじめ」

「いっちゃん」

「ん?」

 俺の名を呼ぶ2人の声に俺が振り返ると、何故か2人の手には化粧のようなものが握られていた。

「えっと…もしかして俺、女装させられるってこと…?」

 本能的に危機を感じた俺は持っていた衣装を置いて部室を出ようとすると、右手を若林、左手を井上に掴まれた。

「いっちゃん…」

「それじゃあ…」

『お着替え始めるね?』


「おぉ…!に、にのまえ、その格好は一体…?」

「おい、仲村。そんなにこっち見んな」

 2人にメイド服着させられ、メイクアップまでしっかりとされた俺(変えられてないのは髪型くらい)はミニライブに向けて体育館に楽器を運び込んでいると、手伝いをしているのかちょうどそこにいた仲村にばったりと鉢合わせた。

「いつものにのまえもいいけど…これはこれで…」

「やめろ仲村!俺のスカートめくろうとするんじゃない!」

 俺はしきりにスカートをめくろうとする仲村を引き剥がすと、一歩後ろに下がった。

「いいじゃないかにのまえ。男同士なんだし」

「いや、全く良くねぇよ。男のスカートの中なんてキモいだけだろ…」

「ふむ…にのまえはそう思うのか…なら仕方ない」

 何が仕方ないだよ…

 仲村は何か考え込むように腕を組むと、俺の方に向き直った。

「俺はいつでもウェルカムだからな!ミニライブ、楽しみにしてるぞ!」

「あ、おい!ウェルカムって何だよ!?」

 仲村は吐き捨てるようにそう言うと、満遍の笑みを浮かべてその場を去っていった。

 …うん。その言葉にどんな意味が孕んでいるかはわからないが、どうやら仲村なりに応援してくれているらしい。それと、今日もライトに反射して頭光ってたなアイツ。


「よし、この演奏が終わったらいよいよ俺らの番だ!お前ら!準備は万全か!」

 軽音部が演奏しているステージの裏で、渡部は集まった俺達3人に向かって小声でそう言った。そう、吉田以外の3人に向かって…

「先生、吉田がまだ来ていないんですが…」

「えっ…マジ?」

 いや、気付いてなかったのかよ…一応部活の顧問だろあんた。

 渡部は俺達のほうを再度見渡すと、困ったような表情をした。

「いやぁ…さすがにひとりで着付けるのはマズかったかなぁ…」

「…先生?一体吉田に何を着せたんです?」

「ん?執事服だけど?」

 俺の質問に渡部はキョトンとした様子でそう言った。

 いや、執事服て…できれば俺もメイド服よりそっちがよかったんだけど…

 俺がそんなことを考えていると、不意にバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。

「はぁ…はぁ…わ、我!只今参上!」

 ステージ裏に入ってきた吉田は、息を切らしながらポーズをとると俺達を見渡した。

「あれ?なんか反応してよ!」

「えっ…あ、あーすごいねー」

「井上さん、そんな棒読みで言わないで…って若林様はそんな冷たい目線を我に向けないでくださいお願いします。我、そこまで心強くないっす…」

 女性陣の反応に吉田はガクリと肩を落とすと、何か言いたげに俺のほうを見つめてきた。

「いや、いつものことだろ。ってかなんでこんな遅かったんだお前?」

「はじめまで冷たい!?…いや、たしかに遅れた我が悪いんだけどさ…」

 吉田がそう言うと、先程からステージのほうを覗いていた渡部がこちらに向かって手招きをしていた。

 どうやら軽音部の演奏が終わったらしい。

にのまえ、若林、井上、それと吉田。お前らの出番だぞ…!全力でやってこい!」

『はい!』

 俺達陸上部(カッコカリ)のメンバー一同はそう返事をすると、幕の下がったステージへと足を踏み入れた。

『それでは、次は陸上部(カッコカリ)によるミニライブです』

 放送委員のアナウンスとともにステージの幕が上がると、体育館いっぱいの観客が俺達の視界に飛び込んできた。…ってかみんななんで『陸上部(カッコカリ)』って名前に反応しないの?てっきり拍手じゃなくて笑い声が聞こえてくると思ってたんだけど。

 俺はそんなことを考えながらマイクを構えると、すぅ…と息を吸った。

「あ、あー…こんにちは。陸上部(カッコカリ)のにのまえです。こんなふざけた名前の同好会ですが、一生懸命演奏するのでよろしくお願いします」

 俺がお辞儀をすると、体育館は再び拍手に包まれた。

 いや、この雰囲気の中であの曲名を叫ぶのは抵抗がありすぎるんだが…

 俺がそんなことを考えていると、カチッというマイクの音と、吉田の声が体育館に響き渡った。

「それでは聞いてください。我ら、陸上部(カッコカリ)で『俺は彼女おまえの財布じゃねぇ!』」

 俺には吉田の声に孕んだリア充へのヘイトが聞こえるみたいだ…

 吉田はそう叫んだのち、スティックをならすと俺達の文化祭1大イベントが始まった。


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