テスト明けの1日
9月中旬。夏休み明けに行われた前期末試験が返されると、教室内はお祭り騒ぎとなっていた。
「吉田、なんであいつらはあんなに元気なんだ?さっきまでテストの点数見てこの世の終わりみたいな顔してたのに」
「ふふふ…一よ。学年一位の貴様にはわからんだろうな。奴らは今テストで下がったテンションを文化祭というイベントで上書きしようとしているのだ!」
「文化祭…?あ、そういや今月末だったな…ってかお前だって学年三位だろ。全然点数悪くないじゃんか」
「いや…我たしかに学年三位だけどさ?また赤点とって追試が待ってるんだよ…それにほら、高校の文化祭って青春の1ページだぜ?楽しむ以外ないよな!」
吉田は1人テンションを上げたり下げたりしていたが、クラスが騒がしいのはどうやら文化祭があるかららしい。
文化祭ねぇ…中学の時はろくに参加もしなかったし早乙女先輩も「彼女だと思ってた人にやっぱり財布としか思われてなかった」って嘆いてたし…やっぱ参考にならないな。
高校の文化祭がどんなものかは知らないがどうせリア充どもが騒ぐだけのイベントだろ。非リアの俺には関係ない。
「はぁ…」
俺は浅く溜息をつくと周囲の雑音を遮るように机に突っ伏した。
「おーい、起きろ一!」
ゆさゆさと肩を揺らされ俺が顔を上げると、満遍の笑みを浮かべた仲村が俺の顔を覗き込んだ。
「なんだ仲村か…ってことはもうLHR終わったんだな?」
「うん。俺は渡部先生に起こすように言われただけだけどね。…まぁ寝顔を見れて役得だしね」
仲村の言葉は後半若干聞こえなかったがどうやら渡部が起こすように言っていたらしい…
「理由はともあれありがとな。起こしてくれなかったらずっと寝てたかもしれん」
「気にしないで。一と俺は運命で結ばれてるからね。俺をそこら辺の男と比較してもらっちゃ困るよ」
「いや、比較とか全然してないんだけど…」
俺達がそんなことを話していると、終礼を知らせるチャイムが鳴り出した。
「おいお前ら!文化祭の季節がやってきたぞォォォォ!」
『オォォォ!』
教卓の前に立っていた渡部がみんなに問いかけるようにそう言うと、クラスのノリのいい男子達(吉田を含む)が雄叫びを上げるように声を上げた。
「んじゃ、今日から放課後に文化祭準備をしていいことになってるから、学級委員の佐藤や文化祭実行委員の2人を中心に始めてくれ!はい、俺からは以上!」
「起立、礼!」
『さようなら』
流れるように終礼が終わると、クラスのみんなは何やら机を動かし始めた。
「はじめ、部室行こ?」
「おう…で、なんでみんな机動かしてるの?」
あいさつの直後、荷物を持ってやってきた若林は俺の言葉を聞くとあたりを見渡した。
「ほんとだ。なんでだろ?」
「渡部の話なら文化祭の準備ってことになるのか…?ってか俺このクラスが何やるのか知らないんだけど…」
そう、夏休み前には決まっていたハズの文化祭の『出し物』。俺はその時寝てたからなぁ…
「まぁ渡部のことだし俺達はクラスで積極的に行動しなくてもいいだろ」
「?なんでそう思うの?」
「いや、俺達の前だといつもあんなだけど渡部って意外とクラスのみんなのこと見てるぞ。じゃなきゃクラスに馴染めてない俺達を引き合わせたりなんてしないだろ」
俺がそう言うと、若林は考えるような動作をとった後納得するように小さく頷いた。
「そうだね。理由はともかくはじめと関われたことに感謝しないと」
「えっ?なんで俺が出てくんの?」
「いや、こっちの話。それより!早く部室行こ?」
「あ、ちょ、引っ張らないで!?ってか若林力強ッ!?」
若林は流れるように俺の手をとると、俺を引きずるように教室を出た。
俺も多少鍛えてるハズなんだけどなぁ…
荷物を回収して部室に着くと、既に井上、吉田、渡部の3人が一つの机を囲むように座っていた。
「お、来たか一、若林。待ってたぞ」
渡部がそう言うと、俺達は空いていた席に腰掛けた。
「で、なんですかこれは?なんかまた話し合いするって雰囲気ですけど」
「おう、さすが一!呑み込みが早くて助かる」
渡部はうんうんと頷くと、バッと立ち上がった。
「文化祭でお前達が演奏することに許可がおりたぞ!」
無駄にテンションの高い渡部の台詞に、俺達は一瞬言葉を失った。
いや、今まで許可おりてないのに練習してたってことかよ…
「先生、話ってそれだけですか?」
「あ、いや…うん」
若林の言葉に渡部は自信なさげそう言うと、どこからともなくため息が聞こえてきた。
「…日程とか時間とかまとめといたから後はこの紙見といて…俺は教室でみんなの様子を見に行ってくるから…」
渡部はめちゃくちゃ低いテンションでそう言うと、数枚の紙を置いて部室を出て行った。
「結局先生は何のためにここに来てたの?」
「さぁ?」
井上の言葉に俺達は首を傾げると、プリントに目を向けた。
「とりあえず練習するか」
俺達はプリントをしまうと、各々担当する楽器を弾き始めた。補足だが、吉田のドラムや井上が使うキーボードは軽音部から借りてきたものである。
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
練習を終え、帰宅した俺は持っていたエレキを部屋に片すと部屋着に着替えた。
「はじめ、今日は何作るの?」
当然のように家に上がり込んだ若林は、リビングで椿ちゃんとゲームをしながらそう言った。
夏休み前に家に来て以降、若林はなにかと家にいることが多い気がする…まぁ椿ちゃんも女子同士話せる相手ができて楽しそうだし全くもって問題はないが。ってか改めて考えると若林我が家に馴染みすぎだろ…
「今日はキノコが安かったしキノコを使った和風スパゲティかな」
「スパゲティ?はじめ、そんなの作れるの?」
「いや、俺伊達に8年間台所に立ってないから。若林の前ではたしかに始めて作るけども」
そしてスパゲティは俺の中では割と簡単な方だと思ってるまである。
俺は若林と椿ちゃんの遊んでいる声をBGMにすると夕食の支度をはじめた。
翌朝、俺はいつものように目を覚ますと、しがみついている若林の腕から抜け出して台所へ向かった。
そういえば合宿のときの虫刺され二週間近く治らなかったな…よく見たら内出血っぽかったしどんな虫だったのか未だに謎である。
俺はそんなどうでもいいことを考えながら手を動かすと、いつものように5人分の弁当を詰め込んだ。いつのまにか2人分増えていたが、もうこの作業も慣れたもんだ。
「おはようございます!義兄さん!」
「お、椿ちゃんおはよう」
俺が弁当を詰め終わると同時に、ドタドタと階段を降りたきた椿ちゃんは、元気に挨拶するとそのまま洗面所へとかけていった。
「椿ちゃんもここに来てからもう2年か…もうこんな義妹のいない日常は考えられんな」
俺はひとりそう呟くと、未だに寝ている若林を起こしに台所を出た。




