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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
8月.夏休みの合宿
12/51

2日目!


 朝、俺が目を覚ますと部屋に若林と井上の姿はなかった。

 俺は妙に重くスッキリとした身体を起こすと、部屋を見渡した。

 あいつら先に起きてたのか…ってか俺の身体びしょびしょなんだが。めっちゃ寝汗すげぇ…後で風呂入ろ。

 それよりも俺が寝ていた布団以外は使われた形跡がないんだが…あの2人はどこで寝てたんだ?まぁ俺が寝たあとすぐに寝ていたことを祈ろう。うん。今日は川遊びするらしいしな。

 俺はそんなことを考えながら自分の寝ていた布団を畳んでいると、不意に部屋の扉がガチャリと開かれた。

「たっだいまぁー!」

「あ、はじめおはよう」

 若林と井上は朝風呂に行っていたのかタオルを持って若干火照った姿で…そう、なんかエロい。

 いや、そもそも同じ部屋に男1人女2人ってのがおかしいんだろうけど。ってことは寝汗すごいのがバレてるのか…恥ず。

 俺はそんな邪念を振り払うように首をブンブン振ると、できるだけ爽やかな笑顔で挨拶をした。

「お、おはよう2人共。い、いい天気でよ、良かったね」

「おはよういっちゃん。どうしたの?なんか慌てたみたいに頭振ってたけど…」

「はじめおはよう。私達朝風呂浴びてきたからはじめも行ってきたら?昨日は暑かったし寝汗すごいでしょ?」

 さすが若林…俺が考えていたことを的確に当ててくるな。

「ん、了解。じゃあ俺も風呂行ってくるわ」

 俺はそんな若林達に甘えて風呂に入ることにした。



「お、にのまえではないか!」

「吉田、おはよ。朝からそれだと疲れないのか?」

 俺が男湯の暖簾をくぐろうとすると、ちょうど吉田も朝風呂を浴びにきたのかバッタリと鉢合わせた。

「いやぁ…こんなテンションにしとかないと頭がおかしくなりそうだから…」

「吉田…お前一体何があったんだよ…」

「はじめは昨日我が早くに寝落ちしてたのは知っているよな?」

「そうだな。お前らが部屋に行ったときはもうダウンしてたもんな。で、それと何か関係あるのか?」

 俺がそう言うと、吉田はより一層げっそりした様子になった。

「我…夜に目が覚めちゃってさ…そしたら渡部と八代さんが…」

 あっ…これは多分そういうことなんだろうなぁ…

「我、何も見なかったように寝ようとしたんだけど…結局朝まで寝れなくて…」

「ま、まぁ…ドンマイ?あの2人も付き合ってるわけだし…そこに巻き込まれたのは仕方ない。うん。きっとそういう運命だったんだよ」

「はじめ、ソレはフォローになってないぞ…」

 少し前の俺だったらそんな状態目の前にしたら同じようになるだろうなぁ…まぁ今は明と椿ちゃんがよくやってるし…慣れって怖いね。てか渡部あの後起きたのか…

 俺はそんなことを考えながら汗だくになった浴衣を脱ぐと、吉田がこっちを見たまま固まった。

「おい吉田。なんだよ急に固まって…俺がどうかしたのか?」

「い、いや…はじめ?その胸についてる赤い点々は一体…」

「赤い点々?」

 吉田に言われて俺が目を落とすと、俺の上半身に赤い虫刺されのような跡が大量に付いていた。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁ⁉︎」

 あれか、昨日の夜めちゃ暑かったし…浴衣も多少はだけてたから蚊に刺され放題だったのか?でもそこまで痒くないし…

「ま、まぁ虫刺されならとりあえず風呂に入ればなんとかなるだろ」

 今日は川遊びするとはいえ幸いラッシュガードで隠せる範囲だから問題ないだろ。

「あ、いや…それ多分キスマークなんじゃ…」

 吉田が何かブツブツ言っていたが、俺はタオルをとるとシャワーを浴びにその場を後にした。



にのまえ!川だ!川だぞ!川が我を呼んでいる!」

「それはないな」

 朝食を食べ終え、渡部の運転でとある川へとやってきた俺達は、沢山の子供達が遊んでいる様子を眺めながら女性陣の着替えを待っていた。

「なんだよはじめ…せっかく我が盛り上げていたというのに…」

「いや、誰が『我を呼んでいる』だよ…お前はまだ課題が終わってないんだろ?」

「あ…」

「『あ』じゃねぇよお前…昨日渡部が言ってた歌詞とやらも作んなきゃいけないんだろ?」

 俺がそう言うと、吉田は絶望感したたような表情で固まった。

「吉田。お前ちょっと来い!」

「ハイ…」

 一部始終を聞いていたのか、音もなく現れた渡部は吉田の腕を掴むと、渡部がいつのまにか建て終わっていた拠点テントに吉田を連れ込んだ。

 ってかマジでいつ完成してたんだよ…

 俺が川の方へ視線を戻すと、後ろからパタパタと足音が聞こえてきた。

「はーじめ!」

「ひゃん!」

 俺を呼ぶ声とともに背中に柔らかい感触が…

 ヤベェ…変な声でちまった…

「わ、若林…いきなり抱きつかないでくれ…心臓に悪い…」

「じゃあいきなりじゃなきゃいいのね?」

「まぁ…それくらいなら…」

 若林は俺の返事を聞くと嬉しそうにその場をくるりと回った。

「どう?はじめ」

「?どうって何が?」

「水着だよ!み、ず、ぎ!私の水着どうかって聞いてるの!」

 若林に言われ、俺が視線を落とすと、若林は恥ずかしそうに顔を赤らめながら手をもじもじさせていた。

 水色のシンプルなビキニを身に纏った若林は、その大きな胸部を強調させていて…そう、エロい。

「ねぇ?どうなの…?」

 若林サン、その上目遣いは反則です。可愛いくてエロいです。はい。

 俺はそっと目を晒すと、徐に口を開いた。

「その…すげぇ似合ってるぞ。目のやり場に困るくらいに」

「ホント⁉︎やった!」

「だから急に抱きつくな!」

 胸の感触がダイレクトに…ッ!押さえろ俺…!

 若林に俺の声が聞こえてないのかしばらく抱き付かれていると、不意に背後から冷たい視線を感じた。

「いっちゃん。何やってんの?」

「い、井上…」

 俺が振り向くと、よくわからんが何故か不機嫌オーラ全開の井上とどこか楽しそうに笑っている八代さんが立っていた。

「はじめ。井上の水着も褒めてあげなきゃ」

「わ、わかったから一旦離れてくれ…」

 若林は俺の耳元でそう囁くと、意外にもそっと離れてくれた。

「ど、どう?いっちゃん…コレ、似合ってるかな?」

 井上は先程までの不機嫌オーラを消すと、恥ずかしそうに後ろで手を組んだ。

 井上の纏っているフリルの付いたワンピースのような黒色の水着は、どこか幼さを感じさせながらも、そのスレンダーな体型をより強調しているように見えた。

「俺はその水着似合ってると思うぞ。いつものはっちゃけた井上とはまた違った感じがして」

「ちょっといっちゃん!それどういうこと!?ねぇ!」

「いや、幼い感じがするなぁと思って」

「幼いってなによぉ!」

 あ、やっぱいつもの井上だ。

にのまえ君。ちょっといいかな」

 俺がポカポカと叩いてくる井上をかわしていると、八代さんが声をかけてきた。

 八代さんは白いビキニか…髪も下ろしている姿はとても綺麗で渡部が恋に落ちたのも納得だ。

「はじめ。今変なこと考えたでしょ」

「そうなの?いっちゃん…」

「あ、あはは…すんません」

 どうやら若林にはバレバレらしい…

 2人の目線が俺に突き刺さる中、八代さんはそれを見て楽しそうに笑っていた。

「本当に2人はにのまえ君が好きなんだね。大丈夫だよ。ボクは取ったりしないしあっちゃん一筋だからね」

「そうだよはじめ!私ははじめ大好きだからね!」

「あたしだっていっちゃん好きだよ!…っは!うぅ…やっぱ無し!今の無し!」

「よかったね。にのまえ君」

 八代さんの一言に若林と井上が声を上げたと思うと、井上は何か恥ずかしくなったのか俯いてしまった。

 友人としてでも女子に『好き』と言われるのはこんなに嬉しいとは…

 まぁ渡部も言ってた若林達と仲良くなるってことは達成できてるし、何より俺も彼女達と友人になれてよかったと思う。

「あ、ありがとう。俺も大好きだぞ!若林も井上も」

 


 午前中、俺と若林、井上の3人は、川で遊び尽くした。

 コレがよくアニメなどである『青春』というものなのかはわからんが、水遊びでこんなにはしゃいだのは小1の頃由良と遊んだ時以来か…

「…じめ?はじめ?おーい、聞こえてる?」

「お、おう。なんだ?若林」

 びっくりした…若林が俺の顔の前で手を振っていた。俺、そんなに考え込んでたのか…

「大丈夫?さっきからいくら呼んでも反応しないんだもん」

「いや、悪い。ちょっと小さい頃を思い出してただけだ」

「そう?ならいいんだけど…って小さい頃ってあの鈴木って雌との思い出?」

「ま、まぁそんなとこかな」

「…ふぅーん…」

 ちょっと若林サン?いつものことだけどその言い方は酷いと思います。

 そういえば今日は井上のこと『あの女』とか『メス』とか呼ばなかったな…井上も何故かいつも以上に機嫌が良かったし。水着の件を除いて。

「おーいお前ら!昼飯ひるめしできたぞー!」

 渡部の声が聞こえ、俺は立ち上がると、若林に向かって右手を出した。

「…行くか」

「…うん」

 若林は俺の手を取りゆっくりと立ち上がると、井上達のいる拠点テントへと足を動かした。



「疲れたぁ…」

 日が傾き始め、拠点テントを片付けて宿に戻った俺達は、宿にある露天風呂に入っていた。

「吉田、お前は今日一日何してたんだ?川遊びにも来ないし…」

「いやぁ…先生に呼ばれて行ったらさ『夏季課題終わらせろ。遊びはその後だ』って」

「あー…それは…ドンマイ?」

 俺ががっくりとしている吉田の肩をポンと叩くと、身体を洗い終えたのか渡部が入ってきた。

「悪かったな吉田…まさかそんなに残ってるとは俺も思わなかったから…」

「まぁ吉田だしそんなもんだろ」

「ちょっとはじめ?それ我のこと馬鹿にしてない?」

「してないしてない。ってかそんな元気あるなら大丈夫だろ」

 俺が少し興奮気味の吉田を静止すると、渡部が口を開いた。

にのまえ、さっきから思ってたんだが…その上半身の赤い点々はなんだ?すごく痛そうなんだが」

「あ…忘れてた…いや、コレは朝起きた時からずっとなんですよ。浴衣も乱れてたしきっとそれで虫に刺されたんだと思いますよ。夜暑かったみたいだし」

 俺がそう言うと、吉田と渡部はお互いに目を合わせて固まってしまった。

 …俺、またなんか変なこと言ったのか…?

「先生。ちょっといいっすか」

「おう」

 吉田と渡部は何故か俺から離れると、何やらヒソヒソと話し始めた。

「…ッ!このリア充どもめ!ふざけんなぁぁぁぁッ!」

「あ、おい!吉田お前走るんじゃねぇ!」

 吉田は急に立ち上がったかと思うと、俺と渡部に向かって捨て台詞を吐くように浴槽を出て行った。

 …なんだったんだアイツ?

「先生、吉田になんて言ったんすか?」

「いや、お前に話すことじゃないさ。それよりにのまえ。腹上死はするなよ?」

「えっ?はっ?」

 渡部はそう言うと、浴槽を出て行った。

 …いや、俺童貞だし、マジで意味わからんのだが?

 もしかしてこの虫刺されってキスマークだったりとか…?そんなわけないか。若林も井上も俺のことただの親しい友人と思ってるみたいだし。

「…何考えてんだ俺は…飯食ったら早く寝よ」

 俺は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、脱衣所へと向かった。



 夜、夕食を食べ終えた俺達は、話し合いをする為に再び103号室へと集まっていた。

「…じゃあこんな感じで大丈夫?」

「フッ…我に任せろ」

 吉田が無駄にかっこいいポーズをとりながら八代さんに返事をすると、渡部がそれを待っていたかのように首を縦に振った。

「よし…コレで歌詞と曲は完全した…あとは誰がどの楽器をやるかということだ」

 渡部はそう言うと、俺達の顔を見渡した。

「みんな何か楽器やったことあるか?」

 渡部の言葉に俺達は顔を合わせると、吉田が口を開いた。

「我はドラムなら叩けるぞ。中学の頃練習したからな!」

 吉田のドラム…中1の頃に俺と早乙女先輩の3人でバンドをやろうとしていた時期があった…

 俺がベースで早乙女先輩がギター。我ながら馬鹿なことをしていたとは思うが。

「あの…あたし、キーボードならできます」

 井上は少し恥ずかしそうにそう言うと、若林のほうをチラリと見た。

 若林は小さくため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。

「私は歌を歌うくらいなら…楽器はリコーダーくらいしかやったことないし」

「そうか。じゃあ吉田はドラム、井上がキーボード、若林はボーカルって感じで大丈夫か?」

 渡部がそう言うと、3人はコクリと頷いた。

「先生。俺は何をすれば?」

にのまえ。吉田から聞いたが、お前はベースが弾けるんだろ?」

「あ、はい。そうですけど…その言い方だと俺にベースをやってくれってことでいいんですか?」

 俺がそう言うと、渡部は大きく頷いた。

「さすがにのまえ。話が早くて助かる。まぁお前にはベースの他にサブボーカルもやってもらいたいんだが…」

「いいっすよ別に。サブってことはあんま歌わないんでしょ?なら問題ないですよ」

「ホントかにのまえ!?よし、コレで文化祭の出し物は大丈夫だな!」

 渡部はそう叫びように喜ぶと、手に持っていた飲みかけのビールを勢いよく飲み込んだ。

「うーん…」

 渡部は唸るように声を上げると、酔いがまわったのか八代さんにもたれかかるように倒れた。

「ちょ、先生!?」

「大丈夫っすか!?」

 お前と吉田が慌てて駆け寄ろうとすると、八代さんが右手を出してそれを静止させた。

「大丈夫。あっちゃんお酒飲むといつもこうだから…昨日はなんか変な酔い方してたけど。すぐに起きるよ」

 八代さんの言葉は変に説得力があった。

 まぁ倒れる地点で絶対大丈夫だとは思わないが…少なくとも俺達よりも渡部のことを知っている八代さんなら大丈夫だろ。

「今日はもうこの辺にしよう。あっちゃんが起きたらボクが状況を説明しとくから。じゃあみんなおやすみなさい」

『おやすみなさい』

 八代さんはニッコリと笑うと、俺と若林、井上は会釈をすると103号室を出た。



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