違うの、こういうのじゃないの
暑い。
前世の記憶が俺にはある。
世界の大多数がそれを正常と呼ぶのであれば、異常というものは、ずれてしまっているという事なのだろうと思う。
緑色をした、ソレ以外は人にしか見えないものの内蔵をぶちまけさせながら、そんなことを思う。
「おいおい、俺のディナーも残しておいてくれよっ!」
チームメンバーであるハゲが、同じくチームであるチビとの連携で多くの緑色をしたものの内蔵をぶちまけた。
最後のチームメンバーである火使いであるネクラ女がそれらを火葬。
「はっはー、ミンチでハンバーグってなぁ!」
ハゲが面白くもないことを抜かすと、チビとネクラはケラケラクスクス笑う。
ちくしょう。
面白くないのは、俺だけだ。
この世界は狂ってやがるんだ。俺以外は俺が狂っているっていうんだろうがな。
「あー、今日も疲れたよねぇ」
馬の頭を持ち、ソレ以外は人と変わらない体のチビ――名前を、バサシという。これは冗談ではない。
牛の頭を持ち以下同文なのになぜかてっぺんだけ禿げているハゲ――名前を、ステーキという。これも冗談ではない。
やたら髪の毛は長い頭がジャガイモのネクラっぽい女――名前をビシソワーズという。これも冗談ではない。ジャガイモに髪が生えていて、目がついていて口もついている。ぶっちゃけ最初はホラーにしか見えなくてだいぶ正気度が削られた。そういうのが多すぎて今は慣れた。緊張するなら人を野菜と思いなさいってこういう意味じゃないから。
そして俺の名はチキンカレーである。
おい。馬鹿かよ。
そう何度思ったことだろうか。
理由や流れはさておき、俺は前世の記憶を持っていることが、こんなにも生きづらくなるなんて考えもしなかった。
「今日はがっつり肉食べたいねぇ、肉」
チビが言う。
おい草食動物。
ココロの中でツッコミをいれる。口には出さない。無駄だからだ。
「はは、おめぇは疲れなくても肉ばっかだろうがよ!」
「オマエがいうなよぉ。いっつも俺の倍以上の肉塊にくらいついてんだろぉ? 俺がレアならオマエはウェルダンだ」
「おいおい、俺はいつでもミディアムレアだぜ!?」
『ははははは』
ちくしょう。笑いどころがわからない。
いつもはクスクスと不気味に笑うネクラですら吹き出してやがる。何がそんなにおもしろポイントだったんだよ。会話として正しいのかそれは。そもそもが草食動物ヘッド共が基本肉食で肉の話ばっかしやがる事がおかしい。
おい、ハゲ。オマエが昨日食ってたステーキ、牛だろ? 共食いかよ。ていうか、なんで料理名そのままなんだよふざけんなよ。料理名そのまま名前が世界全体でデフォルトってどういう感性なんだよ。
「……それにしても、途中で出てきた赤い絶命陣鬼百零は強かった」
「ああ、固かったな! 今朝くったベーコンみたいだったぜ」
「だからたまには柔らかめにしとけって忠告してやったってのによぉ」
「ああ、だから卵が半熟だったろ!」
『ははははは』
ちくしょう。だから何が笑いどころなんだ。半熟だからどうした。三流以下の映画よりもわかりにくい。というか理解できる気がしない。翻訳をミスされあそばれているのではないでしょうか。
絶命陣鬼百零って呼びにくいんだよ。ゴブリンとか、せめて緑人間もどきとかでいいだろうが。なんだよ、なんでスライムっぽいというか、まんまゲームで見るような雑魚スライムなのに名前が『流動しせし鼓動持つ生命の侵略者』って。長ぇんだよいいにくいんだよ覚えにくいんだよ中二なんだよ。
いや、いいんだよ? 前からするとファンタジーな世界だし? モンスターなんてものがいるんだから、レアな奴には俺からすれば中二地味た名前でもいいと思うんだよ?
基本モンスターの名前が大体それってどういうこったよ。だとしても略して言うとかしろよ。なんで全員正式名称でしか呼ばないの? なんで? めんどくさくない? 俺が略して言おうとしたら『おいおいこいつマジかよ』みたいな目で見た村の連中忘れないからな。
「しかし、最後のハンバーガーバサシサンドは決まったな!」
「その前のハンバーガー手捏ね剣と、ビシソワーズのじっくりコトコト中火がキモだったけどねぇ」
頭が混乱する。
こいつらがいってるのは所謂『技、もしくは魔法の名前』だ。信じらんねぇ。どこまで料理名が好きなんだこの世界の住人は。
ていうか、中二はっきるする場所逆じゃないんですか。料理名のほうがカッコイイ感性ってどこで売ってるの。いや長すぎ中二名はそれはそれで困るけどさぁ!
「お? おいおい、今回は活躍できなかっただけだろ? そんなに昼間っからトサカおったてるなよ」
「下ネタはよせよ。レディーもいるんだぜ。こねるならひき肉のネタにしておきな」
「おっと、そうだった」
こっちみんな。トこの流れでトサカおったてるっていったらダメ目の下ネタになるの……? そっちの塩梅もわかんねぇ……
次、台詞どうぞ。みたいな目でこっちみんな。口数が少ない奴とけなげにコミュニケーションとろうとする優しさを見せるな。
「別になんてことはない。活躍はしたさ、付け合わせのポテト程度はね」
「はは! いなきゃ困る名わき役じゃないか!」
ふぅー! みたいな目で見てくるな、言うな実際に。自分でも何それ? ってなる台詞でウケるな。悲しくなってくる。
クソめ。
俺が昔夢見たのはこういうファンタジーじゃないんだ。違うんだよ。
勝手にトサカが動くのどうにかしてくれよ。チキンカレーで頭チキンってどういうことだよ。鶏肉がなんか食えなくなっただろ。
前世の記憶が俺にはある。
こんなものなければいいと、最近毎日思う。
世界の常識は、別の世界の非常識。
そんな当たり前のことを、死んだ後に実感する羽目になってはどうしようもない。
いまだ馴染めない俺は、こけこっこーと鳴くくらいしかできなかった。
だからウケるな。笑いどころがマジでわかんねぇ。
うるせぇ、酒おごってやるから肩組んでくんな牛と馬くせぇんだよ。
打ち水はいいらしい。