第1章 14話
「ん……」
ベッドから体を起こす。 酒を飲み過ぎた日特有の体の重さはあるが、顔を洗って水でも飲めば治るだろう。 日は完全には登りきっていない。 まだ教会の人間も寝ている時間だろう。
……俺は何故、昨日ライラに生まれのことを話したんだ……。 俺としては軽率に話したいことじゃ無かったはずなんだ。 たが、話さなきゃいけない気がした。 信用されたいから? 仕事のためだから? 分からないな。自分の事ながら不思議なもんだな。
――コンコン
そんな答えのでないだろう事を考えているとドアがノックされた。
「入ってくれ」
「う〜〜。 頭が痛いわ……。 昨日食事の途中から記憶がないのだけど……何があったのかしら……」
「そりゃあ可哀想に。 教えてあげよう。 昨日我がプリースト様はワイン二杯で夢の国に召された。 その後馬車で教会まで送られて、俺の上着を涎の海にして幸せそうにベッドに運ばれたのでした」
「うぐぅ……ごめんなさい……」
「そこは、ありがとうと感謝して欲しいな。 それで二日酔いプリースト様は何の用かな? 二日酔いなのにこんな早起きして俺と話したかったのかな」
「仕事よ。 勇者様達がクエストに行くから私達も行くのよ」
「1ヶ月は遊べる金が入ったっていうのに勇者様は働くのか! なんて真面目なんだろうな。 もっとゆっくりしてて欲しいもんだ」
「軽口叩いてないで早く準備しなさい。 馬車は待たせてあるから」
「あいよ」
すぐに準備を整えて馬車に乗りギルドに向かった。 俺の準備は万端なんだが……ライラがな。 二日酔いで馬車の揺れは相当キツイ。 ギルドまでは短い距離だが、それでも顔を真っ青にしていた。 乙女のプライドか、口から光を出すことはなかったがな。 そんなライラの顔色変化を見ているとギルドに着いた。
「おい、行くぞライラ」
「うぷ……さ、先に行ってて」
杖にしがみついて、よたよた歩いてるライラを置いて先にギルドに入った。 どうやら、まだ勇者達は来てないようだ。 二階にある食事処で待つことにしよう。
「はあ……はぁ。 勇者様達はまだみたいね」
しばらくすると死人みたいな顔したライラが階段を登ってきた。
「ほらよ。 これ食べて、水飲むんだな」
「な、なにこれ?」
「ピントの実だ。 二日酔いに効くぞ」
「 気が効くわね。ありがとう……かっら!! ちょっと、お水! 」
ピントの実を食べたライラが顔を真っ赤にしている。 ピントの実はよく粉末状にして香辛料として使われているが、気付け薬や二日酔いの薬としても使われる。 一粒まるまる食べたら相当効くんだろうなぁ。 ライラなんて辛過ぎて涙流してる。
「ちょっと何よこれ! とっても辛いじゃない!」
「まぁまぁ、そんな怒るなって。 ちょっとは良くなっただろ?」
「そうかもしれないけど! もっといい方法があるでしょ!」
ピントの実のお陰ですっかり元気になったライラを宥めていると勇者達がギルドに入ってきた。 クエストボードに行って、クエストを決めている。 事前に決めていたらしく、すぐにクエストを決めると受付に向かった。 うん? 何か貰っているな。 ギルド証か。 一回クエストを成功しただけでランクアップか。まあ、高位種を狩れる人間が木目級ってのは変だからな。 ギルド証を貰った勇者達はすぐにギルドを出て行った。
「勇者達は行ったみたいだぜ」
「分かってるわ。 私達もすぐに行きましょう」
俺とライラもすぐにギルドを出て勇者達を追う。 馬車にも乗らず門から出たところを見ると、行き先は前回と同じで豊穣の森のようだな。
「勇者様達の今回のクエストは何かしら?」
「今回はファングボアがお目当てのようだな。 アイツの肉は美味いんだよなぁ」
「どうして貴方がクエストを知っているのか聞かなけれど、ファングボア……美味しいのね」
美味いって行った瞬間ライラが元気になった。 食いしん坊プリーストだな。
ファングボアは巨大な牙を持つモンスターだ。その牙で素早く破壊力抜群の突進をしてくる森の厄介者だな。 軽装備だと牙で装備ごとグサリ。 まあ動きが直線的だから慣れればそんなに問題じゃない。 畑を荒らすから常にクエストボードに駆除依頼が出てる。 勇者達はそれを受けたから、俺も分かるってのが今回の種だ。
豊穣の森にはすぐ着いた。 朝早く日も登りきっていないので、森は暗い。 人もいなく森は静かだ。
「少し眠いなぁ。 なんでこんなに朝早くしたのシャルロット?」
「ファングボアは朝に泥浴びをしますの。 ですから泥の溜まった場所に行けば、わざわざ探しに行かなくて済みますのよユウト」
前で勇者達が話している。 シャルロット王女の方は少しは知識があるみたいだな。 一般的にファングボアを狩るのに最適なのは泥浴びをする前だと言われている。 泥浴びが終わったファングボアは毛皮が泥でコーティングされて、硬さが増す。 そうなると刃が通り難くなるし、火属性魔法の効きも悪くなる。
「おっと、モンスターだ!」
「ビックホーンラビットですわ」
前方で勇者達の戦闘が始まった。 大したモンスターではないので戦闘はすぐに終わる。 その後1時間程歩いて5回程戦闘があったが、どれも最下級のモンスターだっため勇者達は何事もなく処理した。 前回のゴブリンがおかしかっただけで、豊穣の森は新人にとって美味しい狩場なんだ。
「二日前は全く見かけなかったが今日はモンスターが多いな」
「そうね。 高位種が居なくなって、戻ってきたんじゃないかしら」
「そんなとこだろうな。 ここがゴブリンの森にならなくて良かったぜ」
更に30分程歩く。 日も高くなってきて木の間から日差しが漏れる。 ようやく森の中も明るくなってきた。
「あ、あそこですわ!」
「でっかい水溜りだな。 あそこで泥浴びするのを待ち伏せするって作戦だっけ?」
「そうですわ。 ファングボアのお肉は絶品と聞きますので、是非お土産に持ち帰りましょう!」
「まじ!? めっちゃ楽しみだなあ」
ファングボアは銅級が狩るモンスターではかなり上位の方だが、勇者達からすれば美味しい食材ってことなんだろうな。二人とも余裕たっぷりのようだ。 勇者なんて待ち伏せ中なのに呑気に欠伸してやがる。
待ち伏せしてから1時間程すると水溜りにファングボアが現れた。 相当な大きさだ。 牙も大きく、相当長生きしている個体だろう
「お! 来たよシャルロット」
「来ましたわね。 では作戦通り私が魔法で足を止めている間に、ユウトが倒してくださいね」
「オッケー!」
「では行きますわよ。 3,2,…1……捉えましたわ!」
「よっしゃあ!」
「プギッ!」
シャルロットが合図を出し、勇者が飛び出した直後、水溜りの奥の草むらから何かが飛び出し、勇者より先にファングボアを攻撃した。 太い前脚から繰り出された攻撃は、動けないファングボアの首をへし折り一撃で絶命させる。
「おいおい……豊穣の森の上位捕食者様のお出ましか!」
「ブルートベアね……。 それもかなり大きい個体」
ブルートベアは紅の毛をしたモンスターだ。 太い四肢、強靭な顎から繰り出される攻撃は人間が食らったらひとたまりもないだろう。 それに加えて下級だが火属性魔法を使う非常に凶悪なモンスターだ。高位種ではないが相手をするなら銀級以上になるだろうな。 ブルートベアの強さは大きさで変化するが、今回のブルートベアは体長5ガレリを超えている。 ブルートベアでも大型だな。これ大きさだと強さは高位種のゴブリンと同等かそれ以上だ。 普段は森の最奥にいるはずだが、何故こんな浅い場所にいる!?
「高位種の次はブルートベアか? 勇者の下には強いモンスターが集まるってか」
「 ……私も少しそう思っちゃったわ」
草むらから飛び出した勇者とブルートベアが対峙しちまってる。 こりゃあやり合うしかない。
今回のクエストも大変なことになりそうだな……。




