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第1章 横浜来訪者失踪事件 第5話

「蒼夜と零くんはどういう風に出会ったんですか?」

「は?」


久瀬とドストエフスキーはある飲み屋に来ていた。

澁澤の一件があって以降、結城、翠川、久瀬、ドストエフスキーの四人はプライベートでよく集まっていた。

今日は双黒での仕事があるから後で合流するということで、久瀬とドストエフスキーが先に飲んでいた。

そこでドストエフスキーはいい機会だからと、気になっていたことを久瀬に質問した。


「いきなりなんだ?」

「いきなりではありませんよ。以前から気になっていましたが、貴方達は余り接点があるように見えませんから。無理にとは云いませんが」

「否、…結城との出会い、か」


──実に素晴らしいね。


思い出すのは、対面した日の事。

あの頃から、結城は結城であった。


「俺と結城が会ったのは、彼奴がまだ10の時だったな。準幹部であり、幹部候補と云われていた」

「10で幹部候補ですか。優秀だったのですね」

「あぁ。…俺はまだ、マフィアには入っていなかった」

「?なら、どうやって」

「俺と結城は、暗殺者とその標的ターゲットだったんだ」


──残念。実に残念だ。


──君は素晴らしいけれど。


「…零くんを殺そうとしていたのですか?」

「あぁ。そういう依頼を受けていた。だが」



──君では私を殺せない・・・・・・・・・。




「見事に、してやられたな」

「負けた、ということですか?けれども蒼夜。貴方は彼の戦いを見て驚いていなかったですか?」

「俺と相対したときは一挺しか遣っていなかったからな。二挺を彼処まで遣えるのは知らなかった。…今にして思えば、俺の時は手加減していたのかもな。彼奴は、何時だって死を求めているから」

「蒼夜相手に、手加減…。興味がありますね。零くん達が来るまでまだ時間があるのでしょう?教えてくれませんか」

「そうだな…」


久瀬は酒を煽りながら、振り返る。


あの頃、久瀬にとって結城は只の標的ターゲットでしかなかった。


実際に、結城と対峙するまでは…。



****



「マフィアの準幹部、結城零。こいつを暗殺すればいいのか」

「あぁ」


あるバーの一角。

久瀬は其処で依頼人と顔を合わせていた。


「頼めるか」

「期限は?」

「特には。だが、疾めに頼む」

「判った」


其処で、依頼人は帰っていった。


「マフィアの幹部候補、か」


久瀬は残り、酒を煽りながら資料を見ていた。

結城零。10歳。

マフィアの最年少幹部候補。


「まだ、子供だな」


写真に映る結城は所々包帯で巻かれていたが、端整な顔立ちが際立っていた。

(何でこんなに包帯だらけなんだ…?)

少し気にはなったが、どうせこれから死ぬ人物。

あまり興味を持つ必要はない。


「それにしてもこんな子供相手に暗殺者を遣うとはな」


依頼人は標的の少年と同じくマフィアの準幹部。

どうやら長年仕えていた自分と少年が同じ地位にいるのが気に食わないらしい。

其れだけではなく、少年は依頼人より先に幹部への昇格が囁かれている。

それは何としても、殺してでも阻止したかった。

だが、直接手を出せばそれは組織に対する謀叛と取られる恐れがある。

そこで外部の暗殺者、久瀬に依頼したということだ。

久瀬には分からなかった。

マフィア準幹部とはいえ、まだ子供。

何を其処まで警戒しているのか。

マフィアとは、そんな簡単に幹部になれるものなのかと思ってしまう。


「…とりあえず、やるか」


簡単な仕事だと、この時は思っていた。


それが間違いだったと知るのは、相対してすぐのことであった。





久瀬蒼夜は暗殺者である。

何時から殺しを専門としているのか、それは忘れてしまったが、もう長いことだけは確かだ。

だからと云って、殺しが好きな訳ではない。

只、裏社会で生きていくための手段として銃を取り、そして久瀬には才能があった。

其れだけだ。

少なくとも、そう思っていた。

今までは。


「…おや?君は、誰だい?」


気づかれていた。

気配は完全に消していた筈なのに、標的に気づかれていた。

カマを掛けているとかそんなのではない。

少年の視線は確実に久瀬を捉えていた。


(仕方ないか)


姿を見られることは問題ではない。

殺せればいいのだから。

そう思い、久瀬は少年の前に姿を現した。


「結城零だな?」

「確かに私は結城零だけれど。君は一体誰なのかな?」


結城は姿を現した久瀬に、いつの間にか手にしていた銃を向けた。


(…速いな)


銃をいつ出したのか、久瀬には分からなかった。

久瀬は気を引き締め、結城と相対する。


「…」

「…」


沈黙のあと、久瀬の異能力が発動した。

久瀬の異能力『Flawless』は、5、6秒先の未来を予見できる。

先を見た久瀬はその場から横に避け、結城に向かって走り出した。

瞬間、久瀬の居た場所に銃弾が放たれる。


「!?…へぇ」


太宰は感心したように呟いた。

そして、銃をおろした。

結城の目の前に立った久瀬は、結城に銃を突きつける。


「悪いが、死んでもらう」

「…ふ」


結城は微かに震えていた。

マフィアとはいえ少年。

流石に恐いのかと思った。

ほんの少しだけ罪悪感が沸いたが、仕事だ。

仕方がない。

そう思い、改めて結城を見る。


「ふふ、うふふふ」


恐怖していたのではない。

結城は、嗤っていた。


「素晴らしい。実に素晴らしいね。君はとても優秀な暗殺者のようだ。気配の消し方も、身のこなしも。今まで会った誰よりも素晴らしい。此の分だと銃の腕前も相当なものだろう」

「!?なにを」


結城は手を伸ばし、銃を構える久瀬の手に添えた。

そして自身の眉間に照準を合わせた。


「だからこそ、残念。実に残念だ。君ならば苦しまずに殺してくれるだろうに」


久瀬は動揺した。

結城は何をしているのだろうか。

自分がやっていることが分かっているのだろうか。


此れではまるで、自殺だ。


思わず久瀬は結城と目を合わせていた。

そしてゾッとした。

結城の目は、とても暗い色をしていた。

暗殺者である久瀬よりも暗く、まるで闇のようだった。


「君は素晴らしいけれど」


結城は僅かに足を引いた。

久瀬が其れに気をとられた、瞬間。


「!?っ、ぐぅ」


「君では私を殺せない・・・・・・・・・」



銃弾が、久瀬の足を貫いていた。

久瀬には何が起きたのか理解できなかった。

結城は撃っていない。

其れに、異能力が発動しなかった。


「な、何で…」

「『何で』其れは何のことだい?銃弾の出所かな?其れだったら簡単だよ。今君を貫いた弾丸は、私が先程撃ったものだ。君は素晴らしい身のこなしで避けたけれど、私の狙いは君の後ろにある鉄柱だったのだよ。反射して私の前に来た君の足に中るよう調節したのさ」

「跳弾…」


勿論、跳弾を知らないわけではない。

けれども実際に此処まで的確に狙って出来る人間がいるとは思わなかった。

だがそれでも、久瀬なら避けられる筈なのだ。

本来なら。


「どうやら君は異能力者のようだね?」

「!!」

「最初の銃弾を避けたのは、異能力ということかな。恐らくだが、『5、6秒先の未来を予見できる』、といったところだろう。成る程、あの身のこなしにも納得がいくよ。実に佳い異能力だ。君は本当に素晴らしい」

「何故…」


何故、分かったのか。

久瀬の異能力など、看破出来る筈がない。

それをこんな細部まで明らかにされてしまった。


「『何故』それも簡単なことだよ。最初の銃弾は後ろの鉄柱を狙っていたのは本当だけれど、勿論君のことも狙っていた。それを君はあっさりとかわしたね。それは素晴らしかったのだけれど。君の反応は速すぎた・・・・のさ。だから異能力の可能性が浮上した。それを確かめる為に、私は君に触れたのさ」

「どういう、ことだ…?」

「二撃目を君は避けられなかったね?それは見えなかったからだろう。…私の異能力『No Longer Human』は、触れたものの異能力を無効化するのさ」

「異能力を、無効化!?」


それは、資料には書いてなかったことだ。

否、きちんと調べていれば分かったかもしれない。

だが久瀬はそれを怠った。

簡単な仕事だと、思っていたからだ。

侮っていた。


マフィア最年少幹部候補、結城零を。


「…、殺せ」

「え、何。君は死にたいのかい?」

「は?」

「惜しいね。此れで君が女性なら、心中に誘っていたところだよ!」

「心中…。否、普通殺すだろ?死にたいと思ったことはないが」

「何だそうかい。…まぁ確かに、通常は拷問して依頼人を確認した上で殺すのだけれど。今の私は機嫌がいいからね!見逃すとしようか!」

「…え?いいのか?」

「いいとも!君のような素晴らしい暗殺者を喪うなんて勿体無いしね!また何時でも殺しに来たまえよ!」

「えー……」


何て云っていいのか、久瀬は返答に困ってしまった。

今までに会ったことがない人種である。


「本当に、いいのか…?」

「勿論だとも!是非是非また殺しに来てくれ給えよ」


そう云った後、結城は久瀬がゾッとしたあの暗い色の瞳をした。



「この酸化する世界の夢から醒めさせてくれ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」




暗い瞳なのに、何処か泣き出しそうな表情が印象に残った。

気がついたら、口を開いていた。


「…俺は久瀬。久瀬蒼夜だ」


標的に名前を名乗るのは、初めてのことだった。







それから久瀬は、結城のことを徹底的に調べることにした。

この前のような失敗を避けるために。


「…これは」


そして心底驚いた。

若干10歳でありながら、打ち立てた功績は恐ろしい数だったのだ。

此れなら幹部候補というのも頷ける。

正直、依頼人よりも相応しいだろうというのが久瀬の結論だ。

だが一度受けた依頼。

破棄するわけにはいかない。


「はー…」


気が重い、と思った。

長く暗殺者をしていてそう感じたのは初めてだ。



「溜息を吐いていると、幸せが逃げるよ~?」

「?……!?」


思わず二度見をしていた。

久瀬に気さくに話かけてきたのは、結城零だった。


「な、んで…」

「うふふ。君が私を調べているのに、私が君を調べてないと思ったのかい?」


それは確かにそうだろうが、暗殺者に話しかける標的が何処にいる。


「…何の用だ?」

「ん~?此処数日君を待っていたのだけれど、中々殺しに来てくれないから此方から来ちゃった」

「来ちゃったって…」


まるで語尾に音符でも付いているような云い方だ。


「暗殺者に会いに来る標的が何処に居るんだよ…」

「此・処・にねぇ、それよりさぁ」

「何だ」


「美味しいお店、知らない?」


「………は?」





「ん~、やっぱり蟹は最高だねぇ~」

「そうか」


久瀬は結城とランチをしていた。


「…如何してこうなった」

「うん?」

「何でもない」


改めて結城を正面から見る。

相変わらず包帯だらけだ。

けれど、こうしてちゃんと見るとよく判る。

結城は本当に綺麗な顔をしている。

暫く観察していると、久瀬はあることに気がついた。


「…お前、包帯増えてないか?」

「ん?」


結城の包帯は、久瀬が襲撃した時より増えているように見えた。

真逆、あの後も別の人に襲われたというのだろうか。

だが結城の手腕は本物だ。

早々後れをとるとは思えない。


「君も可笑しな人だねぇ?標的の怪我が増えていようが関係ないでしょう?」

「それは、そうだが…」


結城の云う通り、織田には関係ない。

何れ結城を殺すのだから。

そんなことは判っている。

けれども、久瀬は結城が気になっていた。

あの暗い瞳を見た時から。


「…まぁいいけど。此れはねぇ、君が危惧しているようなものではないよ。ただ、ちょっとシュッパイしてしまってね」

「シュッパイ?」

「そう。今度こそ、死ねると思ったのだけれどねぇ」


あの瞳だ。

暗い暗い瞳。

そして、孤独に一人取り残されているような、寂しい子供の瞳。


「結城」

「なぁに?」

「この後、空いてるか?」

「え?」





久瀬は駄目だと思いつつも、結城と交流を持ってしまった。

何れ殺さなきゃいけない。

それは判っているが、放っておくことは出来なかった。

あの寂しい子供を何とかしたかった。


「如何してこうなった」


けれども、気分は悪くない。

むしろ良かった。

こんな職業をしているせいか、久瀬には誰かと行動するという経験がなかった。

然し、結城と行動するのは中々悪くない。


「結城を、殺す…」


出来るのだろうか。

今の久瀬に、それが出来るのだろうか。

だって。

だって久瀬にとって、結城はもう、只の標的ではない。

太宰は、そう。

云うなれば…。


思案していると、久瀬の携帯が鳴った。

知らない番号からだ。


「もしもし?」

『やぁ久瀬くん』

「…結城?」


相手は結城だった。

番号を教えた覚えはなかったが、結城なら仕方ないと思う。

もう久瀬は、結城という人間がどれ程優秀か知っていた。

久瀬は自分には才能があると思っていた。

裏で生きていく才能が。

だがそれはとんでもない間違いだったと、結城と関わってから痛感していた。

裏社会で生きる才能なんて、結城の為にあるような言葉だ。


「どうしたんだ?」

『あのさ、今日会う約束していただろう?』

「あぁ」


色々なところに連れ回していて判ったことだが、結城は表の世界に疎いところがある。

知識としては頭に入っているようではあるが、兎に角経験がないのだ。

遊ぶという、本来ならある筈の経験が。

珍しいことでもないのに一々目を輝かせる結城が面白くて、今日も出掛ける約束をしていた。


『悪いのだけれど、仕事が入ってしまってね』

「そうか」


結城はマフィアの準幹部。

忙しいのは仕方がない。


「なら、また今度」

『ねぇ久瀬くん』

「…なんだ?」

『色々なところに連れていってくれて、私と遊んでくれて嬉しかったよ』

「…結城?」

『どれも経験したことが無いものばかりだったからね。とても楽しかった』

「それは、良かった。お前さえ良ければ、また今度」

『ありがとう』


其処で、電話は切れた。

結城の様子が可笑しいと思ったが、かけ直しても繋がることはなかった。

恐らく、結城なりのけじめみたいなものだったのだろう。

それが判ったのは、もう少し後だった。


久瀬は時間が空いてしまったので、久々に読書に勤しむことにした。

カフェでの一時。

久瀬にとって安らぐ時間。


そして其処で、久瀬は或る男に出会ったのだ。





本を読み、男と話して。

久瀬は、小説家になりたいと思った。

その為には知らなければならないことがある。

だから、人を殺すことをやめようと思った。

そうすれば、結城を殺すことを止められる。

依頼人とは一悶着あるだろうが。

其処でふと、結城の様子が可笑しかったことを思い出した。

仕事があるから会えない、というのは判る。

だが、その後に続いた言葉に違和感があった。

まるで、別れの言葉のようだったのだ。


「真逆…」


仕事。別れの言葉。

そして久瀬の依頼人。

マフィアの準幹部。


それらを繋げると、判る。


「くそっ」


久瀬は走り出していた。

一刻も早く、結城を見つけるために。


(依頼人は、結城を殺したがっていた。そして結城なら其れが誰かを調べていて可笑しくない。もし今日の仕事が、それに関連していたら)


結城が、危ないかもしれないと。

そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。


(無事でいてくれ、結城!)





「結城っ!!」

「……久瀬くん?」


久瀬が其処に辿り着いた時、一触即発の状態だった。

結城を囲う兵に、依頼人である準幹部の男。


「今更何の用だ。こんな子供一人殺せない殺し屋が」


痺れを切らし、結局自分で手を下すことにしたらしい。


「これは立派な謀叛ですよ?準幹部である貴方が、敵組織と通じるなんて」

「問題はないさ。君はこれから死ぬのだからね。彼等は君に恨みがある。だから協力してもらった」

「成る程」


こんな状況においても、結城は余裕の笑みを浮かべていた。

そして久瀬を一瞥したが、何かを云うことはなかった。


「丁度いい。来たのなら手伝え殺し屋」


其処で、ようやく結城の別れの言葉の意味に気がついた。

結城は判っていたのだ。

こうなることを。

だから、暗殺者と標的に戻る為に、あんなことを云ったのだ。

凡てを断ち切るために。

だが。

だが久瀬は。


─バンッ


「え…。久瀬くん?」


久瀬は、兵に向けて発砲した。

そして結城の、そばに駆け寄る。


(此れが最後だ。人を殺すのは、最後だ)


「久瀬くん、どうして…。」

「どうして?」


久瀬は少し可笑しくなった。

結城は何でも見透かすのに、久瀬の行動の意味が判らないらしい。


「…友達を助けるのに、理由がいるのか?」

「とも、だち…?」


話して、出掛けて、遊んで、一緒にいて楽しい。

此れが友達でなくて、何だと云うのだ。


「却説結城。片付けてまた何処かに遊びに行こう」

「…うん!」


結城は拳銃と短刀を遣いながら、時折久瀬に指示を出した。

それがまた的確なものだから心底感心してしまった。


(まるでマフィアになるために産まれた男だな)


人殺しを止める。

裏の社会で生き続けるなら、それはキツいことだろう。

けれども久瀬は決めた。

例えそれがどれだけ大変な生き方になっても。


結城の傍に、居ることを。



「ま、まて。俺を殺したらお前が疑いを掛けられるぞ!?」


気がついたら、生きているのはその男だけとなっていた。

その男の命乞いに結城は嗤いながら対応する。


「安心してください。既に手は打ってありますよ」

「な、に…?」


結城の携帯が鳴り、それをとった。


「もしもし?」

『結城か?此方は完了したぜ』

「そう。ご苦労だったね、琉夏」


その会話を聞いて、男は青褪めた。

自分の末路が分かってしまったのだろう。


「私は貴方と違って、無能ではないんですよ」


ニッコリと笑みを浮かべ、結城は男を殺した。

久瀬はそんな結城に声を掛ける。


「結城」

「なぁに?」


結城は、久瀬との関係を切ろうとした。

けれどもそれは厭だった。

そんなのは許せなかった。

結城と一緒に居たいと思った。

だから、


「どうすればマフィアに入れるんだ?」




****



「まぁ、こんな感じだ」


語り終えた久瀬は、酒の追加を頼んだ。

言葉を挟まず聞いていたドストエフスキーは、感心したように息を吐く。


「零くんは、凄いですね。本当に。私だけでなく、色んな人に影響を与えます」

「あぁ。それが結城の魅力であり、厄介なところでもあるな。…彼奴の魅力は、俺だけが知っていればいいのにと良く思う」


久瀬は自分の独占欲に苦笑した。

思えば最初から惹かれていたのだろう。



「何々、何の話?」



いきなり声を掛けられて、久瀬もドストエフスキーも驚いた。

全く気配を感じなかったのだ。

振り向くと、結城が満面の笑みで其処にいた。

少し後ろに中原翠川もいる。


「結城」

「零くん。仕事は終わりましたか?」

「まぁね。退屈な仕事だったよ」

「良く云うぜ。殆ど俺に押し付けやがって」

「えー?作戦考えたのだから、後は琉夏の仕事でしょう?」

「あぁ、相変わらず敵の心臓をくり貫くような策だったな。流石に相手が気の毒だぜ」

「何云ってるのさ。琉夏だってノリノリだった癖に」


結城と翠川は席につき、其々酒を注文した。


「それで、何の話をしてたんだい?」

「俺と結城が初めて会った時の話だ」

「…あぁ。懐かしいねぇ。蒼夜は実に優秀な暗殺者だった」

「お前に云われてもな。…俺がシュッパイしたのは、あれが初めてだった」

「うふふ。成功していればあの時死ねていたのに。残念だったなぁ」

「零くんは今までに死にそうだと思ったことはあるのですか?」

「んー、ないっ!!」


あれだけ自殺未遂を重ねて無いとは。

つくづく結城の悪運の強さを三人は思い知った。


程無くして酒が四人のもとに届いた。

結城はグラスを手にし、掲げる。


「其れじゃあ、琉夏の幹部昇格を祝って。乾杯っ!!」

「「「乾杯っ!!」」」


四人は笑いながら、実に楽しそうに酒を煽るのだった。



「零くんと琉夏の出会いはどんなだったんです?」

「それは俺も気になるな」

「は?俺と結城?」

「それはまた、随分懐かしい話だね」


こうして夜は、更けていく……



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