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第1章 横浜来訪者失踪事件 第4話

結城と澁澤。

二人は監視カメラの映像を観ていた。

結城はモニターの前の椅子に座り、手元にある書類と照らし合わせながら。

澁澤はそんな結城の後ろに立ち、肩に手を乗せて。


「翠川琉夏」


モニターの中では翠川が体術で兵を薙ぎ倒していっている。


「マフィアの幹部候補。体術遣いでマフィアの中でもその実力は随一を誇る。異能力は『to the tarnished sorrow』。重力遣い」


次に、二丁拳銃で的確に相手の武器のみを狙い、前線ではなくサポートに徹している久瀬を観る。


「久瀬蒼夜。マフィアの下級構成員。二丁拳銃遣いで人を殺さないマフィア。然し実力は突出している。異能力は『Flawless』。少し先の未来を予見出来る」


冷めた目を送る先には、久瀬と同じく二丁拳銃で的確に急所を貫いているドストエフスキー。


「フョードル・ドストエフスキー。元レクレールの長で最近マフィアに入った。二丁拳銃遣い。異能力は『Crime and punishment』」


結城は手元の資料をデスクに置き、澁澤を見やった。


「手練れだね、三人とも。…この程度の兵力じゃあ心もとないんじゃないのかい?正直、抑えられるとは思えないな」

「それはそうなんですけどね。生憎、あの三人に減らされてしまったんで此れが今の限界です」

「へぇ?既に一度やりあってる訳だ」

「はい。…撤退を余儀なくされてしまいましたが」

「君が指揮をしていたんじゃあないのかい?君が後れをとるような相手なの?」

「…その時は、別の目的があったのですよ。そちらを最優先にした結果ですね」

「ふぅん?まぁいいけど。…にしても、流石だね澁澤。相手の異能力の詳細まで調べてあるなんてさ。私の欲しい情報は凡て揃っている」

「当然でしょう?ぼくは貴方の理解者、、、なのですから。貴方の欲しいものくらい分かりますよ」

「…理解者、、、、ねぇ」

「えぇ。そしてぼくの理解者は、貴方だけだ。そうでしょう?」

「まぁ、君の複雑な頭の中なんて、早々理解出来る人がいないことだけは確かだね」

「それ、貴方にだけは云われたくありませんよ」


心底可笑しそうに、然し嬉しそうに澁澤は笑った。

そして座っている結城の背後から首もとに手を回し、抱き締める。


「ねぇ結城くん。貴方ならこの兵力でも何とか出来ますよね?」

「…買い被りだよ。この手練れ達相手だとちょっとねぇ。まぁ、やれるだけやってみようかな」


結城はインカムを手に取り、はめた。


「聞こえるかい?今から指示をだす。全員、云われた通りに動いて」



****



「何か、変じゃねぇか?」


翠川は辺りを警戒しながら呟いた。

久瀬とドストエフスキーも、警戒しながら弾倉を替える。


「そうですね」

「動きが変わりましたね」


三人が此処に入ったとき、兵達に襲われた。

それは別段可笑しいことではない。

だがそれが、急に動きを変えた。


「さっきまではただ侵入者を追い払う、という動きだった」

「あぁ。だが、今は違うな」


久瀬とは異能力を発動した。

遠く、知覚出来ない位置からの狙撃。

それを予知した久瀬は翠川とドストエフスキーを連れ、物陰に隠れる。

数秒後、其処に銃弾が放たれる。


「指揮官が変わった、のでしょうか?」

「「……」」


ドストエフスキーの呟きに、翠川と久瀬は無言で返した。

二人は、感じていた。

漠然とであるが、確かに感じていた。


「…行くぞ」


翠川の言葉に二人は頷き、物陰から出て先へと進む。


「「!!」」

「おいっ、大丈夫か!」


先程の最初の狙撃は、確実に中てるつもりで三人を狙っていた。

だが今の狙撃は、違う。

今のは、ぎりぎり中らない・・・・位置への狙撃。

それによって、二人の異能力は発動しなかった。

ぎりぎり中らない、足下への狙撃に一瞬動きを止められ、その隙に第二撃。

避けきれず、銃弾は久瀬とドストエフスキーを掠めた。


「えぇ、何とか」

「掠めただけです。けど」


今の攻撃は、数秒先の未来を予見する二人にとって有効な手段。

直接狙わないことで異能力発動を阻止している。


「どうやら敵さんは、俺達のことを調べ上げているようだな」


そして、この攻撃は二人に対してだけではない。

翠川にも有効ということだ。

重力遣いである翠川には、接近戦より遠距離からの方が有利だ。

勿論、遠距離であっても弾にさえ触れられれば重力操作で落とせる。

然し、時折わざと外す・・弾を入れることで、上手く分散させていて隙を作っている。

このままでは何れ、中るだろう。


「厭な手管だな」


久瀬が呟いた。

翠川とドストエフスキーは漠然と感じていたものが、確実となった。

そしてその事実に、冷や汗を流す。


「「まるで、結城を・・・相手にしているようだ(です)」」





「へぇ、やるね」


インカムをつけてモニターを見ながら、結城は嬉しそうに呟いた。

口角を上げて嗤っている。


「あの三人は手練れですからね。何せ、ぼくの兵達を蹴散らしてくれたのですから」

「三人の異能力に対抗するなら、この方法が一番だと思ったのだけれどね」

「ぼくも同じ考えです。このまま行けば、上手くいくのでは?」

「…否、無理だね」


モニターの中では、翠川を先頭にして隠れることをせず突っ走る三人。

どうやら翠川が常に異能力を発動させることで避けるのではなく、凡て落とすことにしたようだ。

外す弾も、凡て。


「全くもって脳筋がやるような単純な策だが、有効だ。矢張この戦力では止められないね」


結城はモニターから視線を外して、澁澤を伺う。


「却説、どうする?」

「貴方はどうしたら良いと思いますか?」

「…分かっているのでしょう?」

「そうですね。同じ考えだと思いますよ」

「私の銃は?」


澁澤は二丁の拳銃を結城に渡した。

受け取った結城は動作を確認する。


「行きましょうか、結城くん」

「……うん、行こうか」





「広いところに出たな」


狙撃手を蹴散らし、他の兵達も沈めた三人は広いホールに辿りついた。

太い柱が何本かあり、大きなシャンデリアが吊ってある。


「静かだな」

「えぇ」

「そうですね」


先程とはうってかわって、辺りは静まりかえっている。

警戒を解かないまま、三人は進む。


と、


「っ、翠川さんっ!」


久瀬の異能力が発動し、久瀬は翠川に叫んだ。

翠川はハッとしてその場を飛び退く。

瞬間、翠川がいたところに短刀ナイフが刺さる。


「よく此処までこれましたね」


そう云いながら奥から現れたのは、澁澤。

結城を拐った張本人。


「…出やがったな」

「結城を返して貰おうか」

「零くんは何処です?」


三人は澁澤を睨み付ける。

それを意にも介さず、澁澤は嗤う。


「そんなに会いたいですか?」


その言葉に、三人は厭な予感がした。

翠川と久瀬は、先程のことを思い出していた。

厭な手管だった。

まるで結城を相手にしているような・・・・・・・・・・・・・・・・。


「やぁ、マフィアの諸君。お目にかかれて嬉しいよ」


足音を立て現れたのは、三人が探していた、結城零。

その人だった。


「ゆ、うき…?」

「おや?私のことを知っているのだね。中々の情報通のようだ」

「なにを、何を云っているんだ…?結城…?」


久瀬は震える手を結城に伸ばす。

然し、其の手が取られることはない。


「ぼくの結城くんに、気安く触らないで頂けますか?」


その光景に、澁澤は嗤いながら云った。


「ぼくの…だと?おいおい、随分な云いようだな?」


翠川は口を引きつらせながら云う。

翠川も久瀬もドストエフスキーも、もう理解していた。

何らかによって結城が、操られていると。

今の結城は、敵である・・・・と。


「マフィアの諸君。君達の目的が何なのか、正直分からないし興味もない。けれど、邪魔をするなら容赦はしない。……覚悟は、いいね?」


結城は三人に向かって、銃を構えた。

三人は結城から距離をとる。


「おい結城っ!!」


呼びかけに、結城は嗤うだけだった。

そして、結城は遂に、翠川に向けて発砲した。


「!!ちっ」


翠川は咄嗟にかわそうとした。

が、それの軌道に動きを止め、振り返った。


「避けろ!!」


「「!!」」


銃弾は翠川より、少し後ろにいた二人に向かった。

二人はそれを避けたが、柱に中った弾が跳ね返り二人を掠める。

跳弾だ。


「余所見をしていいのかい?」

「!!」


振り返ってた翠川はハッとして正面を向いた。

目の前には翠川が迫っていて、身構える。


「ぐっ」


思いっきり、蹴り飛ばされた。

本気であるそれは、いくら結城に膂力がなく翠川が武術家であるといってもそれなりにダメージは負う。


「…へぇ。防いだか。流石だね」


翠川と、それから二人を見る。


「跳弾銃リフレクショット。よく避けたね。手練れ相手には中々有効な手段なんだけど」


三人を相手に引けをとらない結城は、流石としか云いようがない。

抑、結城を助けにきた三人に、本気でやれるわけがない。


「おい澁澤!!こいつに何をしたんだ!?」

「おやおや、結城くんを相手に余所見をする余裕があるんですか?」


結城は再び攻撃を仕掛けてきた。

しかも直接ではない。

先程の狙撃手のようにわざと外す弾を混ぜながら、隙を狙って直接、更には跳弾まで混ぜている。


「こ、れは」

「キツイ、な」

「ちっ、結城!!手前本当に俺達が分からないのか!?」


『結城の敵の不幸は、敵が結城であること』


三人には今正に、それを身をもって味わっていた。


「っ、仕方ねぇっ!!」

「翠川さん!?」

「琉夏!?」


翠川は駆け出した。

結城に触れなければ無効化はされない。

向かってきた弾は凡て落とし、最短で結城の元へ駆ける。


「結城っっ!!」


そうして結城の前に迫った中原。

其処で、結城は口を開いた。


「    『    』」


結城が翠川に向けて発砲。

翠川はそれを落とさずに・・・・・跳び上がってかわした。

その弾は柱に中り、跳ね返って目標に中る。

そう。

物陰に隠れていた・・・・・・・・影を遣う異能力者に。

澁澤はそれに目を見開いた。


「結城くんっ!?」

「余所見をしてていいのか?」


澁澤の眼前には、翠川が迫っていた。

翠川は跳び上がった後、組まれていた結城の手を踏み台に澁澤へと一足で跳んでいた。

そしてその勢いのまま、澁澤を殴り飛ばす。


「がっ!?」


澁澤は壁に激突した。

然し寸前で防御したらしい。

よろけながらも立ち上がった。


「…ゆ、うきくん。貴方、いつから…」


結城は悠然と微笑んだ。


「初めて会ったとき」

「?」

「初めて会ったとき、思ったのさ。どれだけ策を労そうが、どれだけ先を読もうが、何れ何処かで必ず私は君に捕らえられるとね」

「…」

「最初に君は云っていた。私の手を借りたいと。なら、捕らえた時にすることは何かを考えた。私には薬も拷問も誘導も、異能力も効かない。残るは一つ。暗示だ」

「…最初から、効いていなかったのですか?」

「いいや違うよ。掛けられると判っていても、タイミングが分からなければ防げない。そしてそれを悟られるような真似を、君は絶対にしないだろう。私は其れを回避出来ないと思った。だから、発想を換えたのさ」

「…発想?」

「そう。掛からない方法ではなく、掛かった後に・・解く方法を考えたのさ。そして、実行した」

「掛かった、後…。ま、さか…」

「私は前以て、自分で自分に・・・・・・暗示を掛けておいたのさ。君に掛けられたら発動するようにね。或る言葉によって暗示は解けるようにし、その暗示が解けたら君のも解けるようになっていた」

「…言葉?」


「『ぼくは貴方の理解者、、、ですから』。君の口から『理解者、、、』と云われることが条件だったのだよ」


「…それを、ぼくが云うと、思っていたのですか」

「君なら絶対に云うと思っていた。私達が同類なのは隠しようがないし、どうやら随分と執着されているようなのでね」

「ふ、ふふふ、成る程。流石ですね。他に言葉がない。完全にやられました」


澁澤は苦笑いで目の前にいる翠川に目を向けた。


「どうして、結城くんが正気だと分かったのですか?」

「…厭な手管だと思った。結城を相手にしているようだとな。けど、だから違和感があった」

「?」


「結城が本当に敵ならば、俺達は此処に辿り着いてねぇ・・・・・・・」


「では、最初から?」

「否、疑ってはいたが確信があったわけじゃねぇ。…が、俺が目前に迫った時に彼奴は云った」

─「作戦暗号コード『恥と蟇蛙』」


「そんな一瞬で」

「これくらい出来なきゃ、彼奴の相棒とは云えねぇからな」

「…澁澤。確かに君は私の理解者だ。そして君の理解者は私なのだろう。けれどね。私に必要なのは理解者ではないのだよ」


結城は翠川を見る。


「意図を組み、対等であろうとしてくれる相棒と」


久瀬を見る。


「闇の中でも、寄り添ってくれる友達と」


ドストエフスキーを見る。


「命を預け、信じ着いてきてくれる側近」


そして澁澤に視線を戻す。


「私に必要なのは、彼等だ」


「…そうですか。では、彼らがいなければ…」


澁澤は翠川に向かって手を伸ばそうとしていた。

それに気がついた結城は叫ぶ。

「琉夏!!触るな・・・!!」


翠川は手を避け、結城のところまで飛び退いた。


「残念」

「おい結城。どういうことだ?」

「…彼は、異能力者だ。詳細は分かってないけど、迂闊に触れない方がいい」


澁澤は懐から何かを取り出した。


「ぼくには目的があります。ですのでもっと資金と戦力を集め、また此処にくるとしましょう。…そうですね、四年後といったところでしょう」


そして澁澤は取り出したものを、押した。


それは、爆弾のスイッチ。


「崩壊させる気かっ!!」

「琉夏、蒼夜、ドストエフスキー!!逃げるよ!!」


澁澤を残し、四人は急いで其処から脱出した。


「結城くん。また四年後、お会いしましょう」



****



何とか脱出した四人は、外から崩壊する建物を見ていた。


「彼奴、澁澤は死んだのか?」

「真逆。どうせ用意周到に逃走経路を確保しているに決まっているよ」

「にしてもヒヤヒヤしたぞ、太宰結城」

「蒼夜の云う通りです。本当に敵になったかと」

「はは、それは悪かった、ねぇ…」


「結城!!」


結城がふらつき、側にいた久瀬が咄嗟に抱き止めた。


「…ごめん。ちょっと」

「おい結城。手前大丈夫なのか?」

「うーん、流石にキツイかなぁ、二重の暗示は。頭の中がぐっちゃぐちゃだよ。疲れた…。…三人とも、来てくれてありがとう」

「俺は手前の相棒だ。当たり前だろう」

「零くん。ぼくは零くんの為に此処にいるんです。もっと頼って下さい」

「守るって、云っただろ。…もう休め結城。ちゃんと連れ帰るから」

「…うん。頼んだよ」


そう云って、結城は意識を手放した。

久瀬は結城を横抱きにし、歩き出す。


「おい久瀬。代わるぜ?」

「いいえ、大丈夫ですよ翠川さん。お気遣いなく」

「蒼夜。ぼくが」

「却下だ」





此れから暫くは、日常を過ごすことになる。

然し二年後。

マフィアとは関わりのないところである事件が起きる。

その犯罪者は追い詰められ、ある施設で軍警を巻き込んで自爆をした。

そして、その後。

それに関連する事件が起き、マフィアは意図せず巻き込まれていくことになる。

自爆した犯罪者の名前は、


───『緋王』。

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