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光源郷記  作者: じゅんとく
第1章
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はじまり 4

 網の中に居た異類人種は、人の姿をしていて、頭部には人と同じ髪が生え…皮膚には動物と同じ体毛が生えている、頭部に猫の様な耳があり、動物の尾が見えた。


(これが異類人種…。猫狸人種と言う者なのか…)


 軽和は思って間近でよく見ると、その異類人種の者は、顔立ちや着ている衣装からして、人で言えば…まだ年端もいかない若い娘とも窺える。

 異類人種の者は、罠に掛って、逃げられなくなったせいか、フー、フーと、息が荒く興奮している様子であった。

皆は、異類人種を、網から出して身動き出来ないように体に縄を縛りつける。


 「これでお前も、年貢の納めどきだな」 


 集まった人達の誰かが言う。


 「先生から盗んだ物を返せよ」


 側に居た若い男性は、異類人種の娘の腹部に足蹴りを喰らわした。

 他の男性も、後ろから異類人種の娘の長い髪を掴み引っ張り上げる。その行為に、異類人種の娘は「ウー…」と、唸り声を上げて男性達を睨み付ける。


 太新は、それを見るや「こらこら…、暴力は、いけない」と、声を掛けて止めに入る。 


 「すまなかったな…、嫌な思いをさせてしまって…」 


 太新は一礼して侘びを入れて改めて異類人種の娘を見て話し掛ける。


 「…お主は言葉は分かるか?」


 しかし相手は太新から顔をそむけて何も答えようとはしなかった。

 (困った者だ…)

 太新は呟くと周りを見て


 「すまないが、誰か、ありったけの食べ物を持って来てくれんか?」


 それを聞いた周囲の人達は不思議な表情で言われる通りに食べ物を取りに行く。

 少し間を置き、大きな籠に山盛りに積まれた食べ物が広間に運ばれてきた。大人の男性2人位で担いで来る程の量であった。籠の中には、果実類や新鮮な魚介類、野菜、保存食等…ありったけの物が沢山入っていた。

 異類人種の者は、それを間近で見ると、すぐにでも身を乗り出して飛びつきそうなしぐさをする。


 「私の質問に答えてくれれば全部食べても良いぞ」


 その言葉を聞いた異類人種の者は太新を見上げて険しい表情で


 「その言葉に偽りは無いか…?」

 少し嗄れたような声で言う。


 (話せるのか…)


 軽和は少し驚いた。そして鉱山に居た異類人種の事を思いだした。


 (あの鉄皮人種の者は、僕達とは会話はしなかったな…)


 「私の質問に答えてくれればな…」


 太新は、顔に笑みを浮かべながら言う。そして、異類人種の者に近付き相手の目を見ながら話しかけた。


 「先程この民宿に入ってきたのは、お主であろう…」


 その言う葉に異類人種の者は、


 「いや、違う…」

 少し嗄れた声で答える。その言葉に周囲からざわめきが走る。


 「お主でなければ、一体誰が私の大切な宝物を盗んだと言うのだ?」

 「知らないな…」


 異類人種の者は天井を見上げながら答える。その表情には少しばかり笑みが浮かんでいる様にも思えた。


 「そうか、なら…仕方がない」 


 そう言って太新が食べ物を異類人種の者から遠ざけようとすると「ああ…」と、異類人種の者は物悲しげな声を出す。


 「これが欲しいのかな?」


 太新は異類人種の者に尋ねると異類人種の者は黙って頷く。


 「なら私の質問に正直に答えてもらおうかな?お主が私の大切な宝物を盗んだのであろう…。違うか?」 


 異類人種の者は、しばらく黙っていたが少し間を置いてから小声で囁くように「そうだ…」と、答えた。

 異類人種の者が、こうもあっさりと口を割る事に対して周りにいる人達は少し驚いている様子であった。


 「こ…、これだ…」


 異類人種の者が両手が縄で縛られていて上手く出せなくなっていた。近くにいた人が腰の所にある包み袋を見つけ、それを太新に手渡す。

 太新が中身を確認する、袋の中には赤い石があった。それを見た太新は皆の前で安堵した様子で

 

 「これだ、間違いない」


 と、答え…その言葉に、周りにいる人達も皆、ホっと胸を撫で下ろした様な気持になれた。


 「素直に答えたのだ。早くその食い物をこっちによこせ」


 異類人種の者は、太新に向かって言う。その言葉に、近くにいた若い男性は…


 「この者、自分のした事まるで分かっていないようだな…」

 「まあ…盗まれた物は戻って来たのだ。食べ物を与えよう」 


 太新は、周りにいる人達を見て、


 「皆さん、迷惑を掛けて申し訳なかった。御覧の通り盗まれた物は戻ってきたし…もう心配する事はありません。あとは全て我々にまかせて下さい」


 そう言うと、その場にいた大勢の人達は嵐が去ったかのように広間から離れて行く。


 騒ぎが一段落して軽和が広間を見渡すと今朝の様に、辺りは静まり返っていた。


 「まるで、ついさっきあった出来事が嘘のような感じがしますね」


 その言葉に太新も苦笑する…。


 「そうだな、帰国前にちょっとした騒動が起きるとは私自身驚きだったよ」


 そう言って二人は目の前にいる夢中で食事をしている異類人種の者をじっと見ていた。


 「この様な事をして、本当によかったのですか…先生?」

 「この様な事とは?」

 「盗みをした者に対して、食べ物で返してもらうなんて事ですよ」


 「確かに、お主の言う通りかもしれぬが…この者自身、自分が悪いことをしたとは思ってはおらぬ。異類人種の者の中には、この者のように罪悪感の無い者が多い。この者の場合、私の見立てでは、少し精神年齢が低く感じられる。まあ…今回の事は少しだけ運が悪かったと思うしか無いだろう」


 そう言う太新の言葉に、軽和は、どこか腑に落ちないものを感じた。


 「ところで、お前等、それを何に使うつもりなのだ?」


 異類人種は、干し肉を噛みながら二人に問いかけて来た。


 「何に使おうと、我々の、勝手であろう…」


 軽和は、素っ気無い口調で答える。その態度に異類人種の者は笑いながら…


 「お前等が、その石を持っていたところで、その石は何の役にも立つことはないぞ。それを知っていての事なのか」

 

 その言葉を聞いた太新は驚いた表情で、


 「お主には、この石がどういう物なのか分かると言うのか!」



 異類人種の娘は太新の驚いた表情を眺めながら、


 「上手くは言えないが、その石を持った時…温かさを感じたね」


 太新は異類人種の娘が、平然とした口調で言っている事を見ると嘘を吐いていないのだと感じた。異類人種の娘はそのまま食事を続けていた。


 「他には何か、感じられなかったかな?」


 食事を続けていた、異類人種の娘は食べ物を口に運んでいた手を休めて少し考えた様子で言う


 「そうだな…。あえて言うのなら、まるで…母の腕の中で抱かれている様なそんな感じがした位かな…」


 その言葉に二人は何も言えなかった。自分達は石を持っていても温かさなど感じはしなかったからだった。


 「ふう…さすがに、これ全部は食いきれないから後は貰って行くよ」


 異類人種の娘は腰を上げて、食べ物の籠を持ち上げ二人を見る。


 「お前達は案外良い奴だな。他の人間も、お前達位に良い奴だと嬉しいな…」


 そう言うと、異類人種の者は素早い動きで、宿を飛び出して行く。


 「あいつ…」


 軽和は後を追い掛けようとしたが後ろで太新が「放っておけ」と、言う


 「そんな、先生…。我々は結局あの者に良いように使われたのですよ」


 軽和は後ろを振り向く、すると太新は軽和の言葉が聞こえていなかったのか一人何か呟いているようであった。


 「先生…?」


 軽和が側へ行き、太新の顔を見ると、太新は軽和が不思議そうな表情で、自分を見ている事など、気にせず嬉しそうな表情で、


 「素晴らしい発見だ…。あの者は我々にとても溜めになる事を残してくれたぞ」

 と、嬉しそうに言う。


 「何が…ですか?」

 「気付かなかったのか?あの者は、石を持った時に温かさを感じたと言った…。これは我々に取って大きな発見なのだよ」

 「そう…、なのですか…?」

 「そうだよ、そもそも今回のこの石探しも、ある異類人種を探すのが目的であるのだからな…。系列等は異となっていても、やはり同じ人種の仲間であるのならば感じる取る物は皆全て同じと言うことだな…」


 太新は、自分の筆と用紙を取りに行く、


 「あ…そうだ学舎永連マナビヤ・エイレンへの連絡が先だったな…忙しくなるぞ」


 と、筆と用紙を放り投げて、宿の使用人の所へと走って行く。軽和は、太新の嬉しそうな様子を見て(そんなに、凄い事だったのか…)と、一人呟く。


 少し、間を置いてから太新が戻って来て軽和を見るなり、


 「こら、何をそこで突っ立っておる。することが無ければ帰国の準備をして置け。今日中には、この国を出発する予定だからな…わし等には時間が無いのだぞ」


 太新は筆と用紙を拾い上げ、使用人のいる所へと走って行く。


 「帰れるのか…白陽国ハクヨウコクへ…。学舎永連に…」

 「早くしろよ!」


 太新の大声が、聞こえてくる


 「はい!」


 軽和は、急いで自分の借りている部屋へと戻る。


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