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光源郷記  作者: じゅんとく
第2章
38/42

緑谷島 7

 「成る程…人間の子なのか…」


 周囲が驚き喚く中、一人穏やかな口調で答える人物が居た。


 「曽信殿、心当たりでもありますか?」


 側に居た人物が、隣に居る八十代過ぎの男性に言う。曽信と言う男性は頭の頭部に髪は無く、周辺に…わずかに白髪が残っているだけの老人だった。彼は背が曲がっていて、背丈も低く体は痩せていた。


 「以前にな…島の住人とは異なる雰囲気のある人物に会ったのだよ」


 それを聞いた孔喜が「おお!」と、声を上げる。


 「して…その者はどの様な方でしたか、もし宜しければ教えて頂きたい!」

 「彼は少年でした。名は新良と…言います。とても真面目で純粋な子でしたよ。無邪気で汚れを知らなく、何よりも強い信念に満ち溢れていると…感じました」


 曽信の言葉に周囲の長老達の中にも頷く者達がいた。


 「やはり…彼がそうであったか…」

 「あの子は強くて逞しいしな…」

 「人間の子にしては、不思議な魅力があるとは思っていたが、やはりそうであったか…」


 期待が膨らむ中…一方で不安な表情をする者もいた。


 「しかし…もし彼と会えたとして、彼を連れ出すのは困難かもしれぬぞ…」

 「そうであったな…樹王様の事があったばかりだからな、あの事件が無ければ彼等の生活も安定していたのに…まことに残念だ…」


 側で長老達の会話を聞いていた孔喜には、話の内容が今ひとつ理解出来なかった。少し後ろに下がって砂甜に声を掛ける。


 「何を話しているのだ、彼等は?」

 「半年程前に、島の守り神、樹王様に無断で立ち入った者達が居たのです。樹王様は怒り、島全土を揺るがす程の騒ぎになったのです。それに関わった者の中に新良君の父親がいたのですが…不幸にも彼は亡くなられて、彼の家族は現在苦しい環境の中に居るのです…」


 それを聞いた孔喜が唖然とした表情を隠せずにいた。


 やがて長老達の集会が終わると、若い姿の女性の異類人種が一人現れる。


 「今夜、お泊まりになれる小屋を案内します」


 その時、女性はチラッと砂甜を見た。一同は女性に付き添われて、少し離れた場所にある借家へと案内された。彼等は、その借家へと向かい荷物を下ろして少し休んだ。長いと思われた1日が過ぎて、旅に出掛けた彼等はようやく、落ち着いた場所にたどり着き目的の場所も見つけられて一安心の様だった。


 借家に着くと砂甜が女性に引っ張っられて何処かへと行く。


 孔喜は一人、呆然として部屋の隅で座っていた。


 聡悸が皆の分の食事を作り、食台に並べる食事が用意されると朗戒が待ってました…と、言わんばかりに飛びつく。


 「あの…先生は大丈夫ですか…さっきから落ち込んでいる様ですが…」


 聡悸が不安そうな表情で孔喜を見る。


 「別に良いんじゃないの、僕としては煩いのが何も言って来なくて助かっているから…」

 「そうですが…」


 聡悸は、そう言いながら孔喜を見る。


 その時、コンコン…と、借家の戸を叩く音が聞こえた。


 「はい?」


 聡悸が玄関の戸を開けると曽信の姿があった。


 「孔喜殿と話がしたいのであるが…宜しいかな」

 「はい、どうぞ…」


 聡悸は曽信を借家の中に入れる。その時、曽信が奥で考え事をしている孔喜を見る。


 「先生…お客さんですよ」

 「あ、ああ…」


 少し落ち込んだ表情で孔喜は曽信の近くへと向かうと、側にあった木の椅子に腰掛ける。


 「先程の話、貴方には少々驚きが大きかったと思われますな…」

 「我々が探している人物に出会えても、連れていけないと思うと…ここまで来た理由が意味が無くなりますので…」


 それを聞いたは曽信フッと笑いながら孔喜を見る。


 「何を迷っています、貴方に与えられた役割は、個人的な理由で押し返される程度の物ではないでしょう?」


 それを聞いた孔喜がハッと我に帰る。


 「『大いなる約束の為に…』私は、自分でこの島に来る事を志願したのだった…」


 曽信は孔喜が自信を取り戻したのを見て微笑んだ。


 「彼等の一家は悲劇に遭って、現在は母子三人で生活しております。その中で新良君を連れ出すのは正直言って困難かもしれませんが…決して諦めずに頑張って頂きたい」

 「助言感謝します。自分を見失う所でした」

 「いえ…我々は貴方に期待しているのです。広世から聖なる光が失われて、既に三〇〇年以上の月日が経過した…。今、この時期に浄創様を復活させなければ…多分、未来永劫我々は、その光を見る事は決して無いでしょう」

 「真にそうですな…その為にも浄創人種を復活させる為の鍵となる人物に出会わなければならないのが…今回の旅の目的なのです」


 曽信は孔喜を見て笑う。


 「あと…貴方にもう一つ教えて置く大事な事があった」

 「それは、何でしょうか?」

 「新良君一家が住む家は、中央樹の外れ南側にある一本だけの樹木の幹の上にある。そちらの聡悸君なら知っているかもしれんが…流栄と言う、トビトカゲを飼育している家の近くにありますよ…」


 それを聞いた聡悸が「ああ…!」と、声を出して驚く。


 「知っているのかね?」


 孔喜が隣で声を掛ける。


 「ええ…思い出しました。半年前の誕生祭でウチのトビトカゲと競り合って、僅かな差で勝った時に、相手のトビトカゲに乗っていた選手が彼だったのですよ!」

 「ほお…意外な所で繋がりがあるものだね」

 「あの時は、ウチのトビトカゲが優勢だったのに…」


 聡悸は悔しそうに誕生祭の時を思い出して言う。

 それを見ていた曽信は微笑みながら孔喜を見る。


 「先日…樹王様の近くに無断で立ち入った物達は人間達で、浄創様を地上から根絶やししたのも…また人間達…。彼等は、過ちと言うのをあまり学習しないのであろうかな…?」

 「恥ずかしい話ではありますね…」

 「まあ…人間達の中にも、貴方の様に我々の事を真剣に考えてくれるのがいるのは、嬉しい事である」


 曽信は立ち上がると、借家を出て行こうと玄関まで杖を付きながら歩く。


 「来て頂いた上…色々な助言をしてもらい感謝します」


 孔喜は曽信を見送りに外に出る。


 「では…明日からの旅、応援しておりますよ」

 「有り難うございます」

 「我々が手助け出来るのは、この位でしかない…。あとは貴方達に全てが掛かっているのです…、良き未来が訪れるのを待っていますよ…」

 「わかりました」


 孔喜は曽信に向かって深く礼をする。

 曽信が立ち去ったあと、借家の近くに人が居る事に気付き、孔喜はその場所へと向かう。

 そこには砂甜と、借家を案内してくれた女性の姿の異類人種が見つめ合っていた。


 「何時戻ってくるのよ!」

 「もう少しだけ待って欲しい…」

 「貴方…何時もそうやって私の側から離れるわね!」

 「今回のは仕方ないよ…」


 そう言うと女性は腕を組みながら後ろを向く。


 「前回も同じ言葉を聞いたわよ、それ…」

 「ご…ごめん」

 「本当に今回だけって、信用して良いの?」

 「え…何で?」


 その瞬間、パシンッ!女性の平手打ちが炸裂した。


 「もう、知らない!」


 そう言って女性は走って何処かへと行ってしまう。


 「ちょ…ちょっと!」


 砂甜は声を掛けるが女性の姿が見られなくなると…諦めて借家に戻ろうとした時、孔喜と出会す。やや気まずい雰囲気の中、孔喜は砂甜を見るなり話し掛ける。


 「すまないな…話を聞いてしまったよ」

 「いいえ構いません、自分が悪いので…」

 「彼女を追わないのか?」

 「自分には、貴方達を送る役割があります。今はそちらに専念します」

 「旅立ちは明日だ、今宵は彼女の側に居てやると良い」

 「ですが…」

 「彼女は、お主を必要としている。相手の気持ちに応えてやるのも大事な使命だぞ…。私は身勝手な者に旅の協力は求めたくは無いものだ…」


 その言葉を聞いた砂甜はハッと息を呑み深く礼をする。


 「彼女の側へ行きますので、明朝まで待っていて下さい!」


 そう言うと疾風の如く砂甜は走り出して行く。その姿を見た孔喜は微笑みながら彼が向かった先を見ていた。しばらくして借家に戻った孔喜は聡悸が用意してくれた食事を頂こうと食台に向かうと、食事が見当たらなかった。


 「おい…朗戒よ、私の分の食事はどうした?」

 「え…?先生は食べないと思って…おいらが全部食べちゃったよ…」

 「お前と言うやつは~…」


 呆れ返った表情で怒る孔喜は、先程砂甜に向けた言葉は朗戒に言うべき言葉だった…と、今になって後悔し始める。

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