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光源郷記  作者: じゅんとく
第2章
30/42

広望 5

 車に揺られていた孔喜は、車の中でジッと一人、考え事をしていた。周囲は建物が立ち並ぶ市街地から、木々が生い茂る平野へと向かう。辺りには灯は無く細い路地が長く続いていた。時折虫達の鳴声が車の中へと聞こえてくる。土面の道が続く中、車内に座っている孔喜は居心地の悪い揺れに耐える必要があった。

 永遠に続くのか…と、思わされる揺れが、ようやく収まると運動手が、後方を除く窓から顔を見せて「先生、到着しましたよ」と、声を掛ける。


 車から降りた孔喜は、夜景の空気を軽く吸い、前方に見える大きな古びた建物に目を向ける。建物付近は何処か喉かな感じのする、自然の雰囲気を醸し出す場所であった。遠くから人達のざわめきが聞こえてくる。 孔喜は、大勢の人達のざわめきがする古びた建物へと一歩ずつ進んで行く。夕闇の中、古びた建物から漏れ出す灯りは、周辺の空を紅く照らしていた。

 前方に木製の巨大な扉が見えて来た。その扉の前には門番をしている背丈の逞しい男性が二人立っていた。孔喜は二人の男性達に挨拶をして中へと入ろうとすると男性達に止められた。


 「失礼ですが、ここからは関係の無い方への入場は出来ません」

 「失敬な…私は、招かれてきたのだぞ」

 「お名前を、申しつけ下さい」

 「学舎永連学園長孔喜である」


 それを聞いた男性達は、ひれ伏せて頭を下げる。


 「失礼しました。どうぞ中へ、お入り下さい。主が貴方の来るのを待っておいでです」


 二人は巨大な扉を押し開けて孔喜を屋敷の中へと迎えさせる。屋敷の中は、高価な装飾に色取られていた。人の身の丈を遥かに越える天井、そこから吊る下げられている電灯。数百人の人が詰めいったとしても、まだ余裕の広さを感じさせる巨大な廊下。別世界に迷い込んだ様な雰囲気を感じながら孔喜は、一歩ずつ奥の広間へと歩いて行く。巨大な扉の開く音が聞こえたのか、前方に見える広間から屋敷の中で一人際立って見えた中年男性が、孔喜の姿を見るなり近付いて来た。


 「今晩は来和殿、この度はお招きありがとうございます」


 そう言って孔喜は深く頭を下げる。 来和と言う男性は、笑みを浮かべながら孔喜を見て嬉しそうに話す。


 「おお…孔喜殿、我が友よ今日は祝賀会に来てくれてありがとう。君が参加して頂く事で、この会場は大きな盛り上がりを見せてくれるよ」

 「いえ…私などは会場の華にはなりませぬ」

 「何を言っている、貴方は私達には欠かす事の出来ぬ人物、何より私の母校であり現在は娘が通う学舎の学園長を務める偉大な人物ではありませぬか。さあ…どうぞこちらへ」


 来和は孔喜の肩を押して、中央の広場へと連れて行く。周囲には何十人もの中高年の男女の姿があった。どの人達も高価な衣装に身を包み込み派手やかな雰囲気を漂わせていた。来和は、その人々が集う中央の階段を少し駆け上がり大声で話す。


 「皆さん、今宵は特別な来客者が現れましたよ。何と学舎永連の学園長を務める孔喜殿であります」


 その言葉に集まっていた人達は、孔喜の方へと視線を向けて盛大な拍手が沸き起こる。


 「さて…皆さん孔喜殿は、これまで私が幾度となく祝賀会で彼を招きながら、ことごとく断れた方である。何故だか分かりますか?」


 その言葉に、答える人は居なかった。


 「彼は、とても厳格な方なのです。その為に電報を一本送っただけでは決っして動いてくれません。誘うなら直接会って自分の口から伝えなければなりません。ちなみに私が何時伝えに行ったのかと言うと、たまたま学舎に行く用があり、その時に学舎の廊下ですれ違いざまに、お願いしたのです。その時、返事をしてくれたのですが、もう一度承知してくれたのかを確認しようとした時には既に影も形も無かったのです。それ程までに忙しい方が今日私の祝賀会に参加してくれたのです。これ以上の喜びは無いでしょうね」


 周囲は来和の話で多いに盛り上がっていた。彼の話はその後もしばらく続いた。彼の話の内容は、途中誰かが付け加えた意見により、孔喜の事から話がそれてしまい別の方面へと向かっていた。その間に孔喜は、中央の間から少し遠ざかった場所で、提供された肴を口にしていた。孔喜が一人食べ物の味を堪能していると「お隣宜しいですか?」と、声を掛ける者がいた。

 振り向くと、そこには体格の良い男性の姿があった。「どうぞ」と、孔喜は向かいの空いている席に手を差し述べる。


 「すみません…」


 男性は一礼をして席に腰掛け、向かい側の席に座ると男性は孔喜に話し掛ける。


 「初めまして今晩は、私は国政局事務官を務めます塊矛(かいむ)と言う者です。学舎永連の学園長殿、今宵は、我が国政局総長来和様の祝賀会に出席頂き有難うございます。あの方の喜ぶ顔が見れただけで自分は嬉しい限りです」


 「それは、どうも…」


 孔喜は相手に一礼を述べる。 塊矛は近くで食材を配っている者を呼び止めると、自分達のいる席に酒を持って来る様声を掛ける。しばらくして二人の前に高級な果実酒が入った瓶が置かれて、塊矛は瓶の栓を抜くと、お互いの盃に果実酒を注ぐ。


 「時に学園長殿、私は、国政の安定を満たす者として、我が白陽国、四郷(しきょう)に関して、常に様々な情報を仕入れています」


 塊矛は、そう言って果実酒を一口飲む。


 四郷とは、白陽国にある四つの地名…平原郷、川上郷、静丘郷、峰嶂郷…を称して言う言葉である。広望は、平原郷にある清豊半島と呼ばれる縦長に伸び出た地形の半島にあり、平原郷との境目の場所にあった。白陽国の経済の中心でもあり広望が白陽国の発展を大きく握っていた。


 「それは、誠に立派な仕事でありますな…」


 孔喜は、相手の顔を見て軽く返事をする。 塊矛は、孔喜の表情を見て、少し間を置いてから、再び話し始める。


 「そんな情報の中で、私は貴方が異類人種と交えて国に対して良からぬ企みを抱いているでは無いか…などと言う噂を聞きました。誠でしょうか?」

 「噂は、常に形を変えていくものです。安易に聞き入れると自らも貶める事に成りかねません。一時の噂なら忘れるのが良いでしょう。もし…仮に、その様な事実があったとして塊矛殿はどうなさるおつもりですか?私を国に害を及ぼす者として捕えるおつもりですか?」


 「私の立場では仮にその様な事実があったとしても貴方を捕える事は出来ませんが…相手の不正な行為に対しての事実究明に当たり徹底的に相手を追求します。それが私の仕事なので…」

 「立派な仕事ですな…」

 「いえ、貴方程の者ではありません」


 塊矛は、孔喜の顔を見て言う。

 しばらくして腰を上げると「今宵、貴方と話が出来て良かったです」と、手を差し伸べる。孔喜は、それを見て自分の手を差し出して握手をした。塊矛は、軽く笑みを浮かべると、そのまま何処かへと行く。


 何時しか時間が過ぎてしまった事に気付いた孔喜は、来和に別れを申し出る。来和は、それに気付くと玄関先まで見送りに付き添う。


 「いやぁ…今日は本当に来て頂き、誠に嬉しい所存で有ります」


 来和は、笑顔で何度も言う。


 「私も招かれて嬉しい限りです」

 「孔喜殿よ…お互い立場さえ異ならなければ、盃を交わす良い友になれたのに…少し残念です」


  孔喜は、後方で待っている運転手の姿を見て


 「そう…であるな国の基準を整える者と、それに対して水を指す者では立場があまりにも違い過ぎるからな」


 来和は、その言葉に少し笑みを浮かべながら


 「また、来てください。次は娘の璃明を誘って話がしたいです。旨い酒も用意しますので…」

 「分かりました。その時は是非とも参加出来るように心掛けます」


 そう言って孔喜は、来和に一礼をして別れる。

 孔喜は、運転手が待つ車へと向かって歩いて行く。来和は、その姿をじっと見守り続けていた。主人が招いた一風変わった来客者の姿を見て門番をしていた男性が来和に話しかける。


 「風変わりなお客様でしたね。ご主人様とは、どの用な関係なのですか?」


 来和は、フ…と、笑みを浮かべて答える。


 「まあ…古き友とでも言うべきものかな…。違う言い方をすれば…国の存続を異なる観念から意見し合う者同志とでも言っておこう…。もしかしたら次に彼と会うのは法廷の前で争う側で会うかもしれんしな」


 その言葉に、門番の男性は呆気に取られた表情を見せていた。


 「その様な方を、お招きして宜しいのですか?もしかしたら彼が、我が国軍の重要機密を他に伝える様な行為をするかもしれません」


 「フ…お主達は若いな、孔喜も私も、そう言う行為で相手を蹴落とす様な如何わしい行為は一切しない。ぶつかる時は正面からぶつかっていくさ。彼はそうして今まで生きて来たのだ。だからこそ人望があり多くの者からも慕われるのだ。あの様な人物はこの国には最も必要な人間でもある…それに…」


 来和は顔を上げて表を見る。孔喜を乗せた車は、既に夜の闇へと消えていく。


 「私は、あの男が好きだ。できれば何時までも良き友であって欲しいと願う…」


 来和は少し物悲しげな表情で夜の闇を見ていた。


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