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光源郷記  作者: じゅんとく
第1章
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はじまり 2

 森の中へと進むと木々から雨粒が滴り落ち、辺りからは鳥達の囀りが響き渡っていた。

 二人は、しばらく薄暗い森の中を進んで行く。やがて前方に光が差し込み大きな赤茶けた岩山が視界に広がって見えて来た。岩山の近くへ行くと寂れた小さな小屋に似た建物が幾つも立ち並んでいた。鉱山で働く作業員達の宿泊施設のようであった。現場で作業を行っている大人達は数十名程だった。


 岩山に大きな穴を空けて、地下に眠る天然の鉱物の発見を夢見て開拓された鉱山は、一時期は活気に満ち溢れていたが…現在は勢いを失いつつあった。幾ら穴を掘り進んでも天然の鉱物は見当たらず、その上発掘機関が長すぎて、作業する人達にも疲弊が見えて来たのであったからである。


 この発掘現場を先代から受け継いだ皇季コウキと言う人物は、そろそろ発掘も潮時かな…と考えて鉱山の閉鎖を思っていた時だった。その時、彼等の前に現れて来たのが太新達であった。

 彼は皇季に詳しい調査の場所を示した地図を見せて、その付近の発掘を依頼したのであった。皇季は顰めた面をして答えた。


 「二週間だけ引き受けてあげましょう」


 その言葉に太新は表情一つ変えずに


 「では…その様に、お願いします」


 そう言って交渉が成立したのは、ほんの数日前の事であった。

 二人は、その場所を通り抜けて行く、その先の大きな岩山の側へと行く二人は岩山一角にある巨大な穴の側へと行く、まるで口を開けて入る者を飲み込むかのように大きな穴の手前に二人は辿り着いた。

 穴の手前には木材で作られた橋が設けられていた。


 「しかし…いつ来ても背筋が凍る様な場所だよ、ここは…」

 「そうですか、僕は、もう慣れましたけどね」

 「俺は、どうも慣れなくて…」


 二人が話をしていると後ろから…


 「おや…太新先生来ていたのですか」


  二人が振り向くとそこには五十代位の一人の男性の姿があった。


 「おお…、皇季殿、貴方も来ていたのか」

 「はい昨夜から、そちらの軽和君と一緒に残っていました」

 「なんだ、そうだったのか」

 「そうです」


 皇季は太新に向かって少し嬉しそうな表情で話し掛ける。


 「実は私の部下が今朝早くに例の物を発見したのですよ。まあ…その場に私や軽和君も一緒でした。私が太新を呼びに行こうとしたら彼がどうしても、この吉報は自分がしたい…。と、言うので彼に貴方を呼びに行かせたのですよ…。しかし…正直、我々は皆驚いています。数日前に、この地に訪れた貴方達の指示で指名された場所を掘り進んだら本当に言われた様な石に出くわすなんて…それも、こんな短期間で狐に化かされたとしか思えませんね」

 「まあ…正直、私自身驚いていますよ。とりあえず先に、その場所まで案内をして下さい。話は歩きながらしようではありませんか」

 「そうですね、最初は目的の物をお見せしなければなりませんね…」


 皇季は、側を歩いている背丈の大きな者を呼び呼び寄せる。


 「おい、あの方達の荷物を、持ってやりなさい」


 皇季の言葉に対して、その者は黙って二人の荷物を受け取り二人分の荷物を軽々と持ち上げた。


 「では、中へ行きましょうか」


 一行は穴の中へと進み始める。洞窟の中は、至る所に明かりが付けられていた。外の光が届かないため昼までも洞窟の中は暗く空気は冷たかった。

 辺りの雰囲気は、水の滴る音が響き渡り何所かでまだ作業を行っている者が岩を掘り続けている音が響いて来るだけであった。


 わずかな足場を気を付けながら進む一行…そんな中、軽和は先程から自分達と一緒に同行している者をチラチラと見て不思議に感じていた。


 無言のまま自分達と同行している人物は、軽和達と比べると頭2、3個ほどの高さがあった。わずかに身の丈が大きく筋肉が付いていて硬そうな身体、それでいて肌の色が奇妙に灰色をしている、そんな妙な人物を眺めていた軽和は何気なく呟く。


 「そちらの人は凄いよね、僕等の分の荷物を持っても平気で歩いている、なんて…」


 その言葉を聞いて、皇季は少し笑い太新は溜息を吐いた。その二人の様子を見た軽和は二人に向かって訪ねる。


 「どうしたのですか?」

 「君は、今までどういった、環境で育って来たのかな?」

 「え…と…、普通の家庭ですが…、それがなにか…?」

 「いや、家庭でなく、どういった場所で住んでいたのかな…と、私は聞いているのだが…?」


 軽和は、皇季の質問の意味が分からなかった。軽和が、どう答えようか迷っている時太新が二人の会話の中へ入って来た。


 「この者に、その辺の事を言っても無駄ですよ…今まで外の事を知らずに育って来たのですから…」

 「ひどいです先生、僕は箱入り息子ではないですけど」

 「いや、君の事では無く…君の育った場所だよ…」


 太新の言葉に軽和は、さらに意味が分からなくなって来た、二人が何を意味して話をしているのか…?


 「つまり、どういう意味ですか…先生?」

 「君は、そちらに居る者を人と呼んだのだが彼は人では無いのだ」

 「ええ!」


 軽和は驚いて、荷物を持っている者を見上げる、


 「人の姿をしているのに人では無いって、どう言う意味ですか?」

 「彼は、異類人種イルイジンシュなのだよ」

 皇季が静かに言う。


 「人の姿を、していながら人とは異となる者を…指して言う言葉だよ」

 「…今まで、そんな者が居たなんて知らなかった…」


 軽和は力無く言う。


 「まあ…簡単に見分ける方法は…ほれ、彼の耳元を見なされ」


 そう言われ軽和は異類人種の者の耳元を見る、その者の耳先は奇妙に尖っていた。


 「何か、変わった形の耳をしていますね」

 「角耳カクジと一般的に言われている。これが異類人種を、見分ける簡単な方法だ。彼は、地霊系チレイケイ鉄皮人種テッピジンシュと呼ばれる種族だよ。一般的には、ほとんどの異類人種は特殊な能力を、操る事が出来ると言われているが…、彼の場合は、人並外れた肉体を持っていていることが特殊な能力等といわれている…」


 それを聞いた軽和が鉄皮人種の肌を触る「わ…、凄く堅い…」と、驚きながら言う。


 「彼が本気で私等を殴れば、たった一撃で、あの世へ行きますよ。まあ…その前に彼の能力が封印されているから、命だけは助かるかもしれないけどね」

 「それは、どう言うことですか先生?」

 「基本手に異類人種達は皆、浄園諸国ジョウエンショコク同盟の元、呪霊縄ジュレイジョウを使って能力を封印し、姿や形を人間に近付ける様に義務付けられているのだよ。理由も無くむやみに封印された能力を開放する者は、同盟国の定めにより処罰が課せられるのだよ」


 「厳しい規則ですね」

 「まあね…この規則のおかげで、我々は彼等と諍いなく平和に生きているのだが…それでも、この法を破って人に危害を加えようとする輩が多いのだよ」

 「いわゆる罪害種ザイガイシュと言われる連中の事ですな」


 皇季が声を潜めて言う。その言葉に太新は黙って頷く。


 「ところで、彼の両腕には呪霊縄が取り付けて無いですが、何処に巻き付けてあるのですか?」

 「首元に掛けてありますよ」


 それを聞いた太新と軽和は鉄皮人種の首元を見ると、半透明の紐がぶら下がっているのに気付く。

 「この縄、自分で解いたりしないですか?」

 「多分出来ると思う…が、彼は縄を掛けてから一度も自分で、それを解いたことは無いよ」

 「どうしてですか?」


 軽和は興味深そうに聞いてきた。

 「お互い信頼関係で結ばれているので…。まあ…異類人種の事を話し出したら、きりが無いですし…。今は、それよりも大事な事がありますから…。そちらを優先しましょうか」


 一行は会話を終えて再び歩き出す。長い地下道の横には激しい地下水が音を立てて流れていた。地下水の近くを通って行くその時、異類人種の者が、何か呼びかける、


 「何だね、君?」

 太新は後ろを振り向いて、言う。


 その時、太新は足下が滑って尻もちをついた。

 それを見た、皇季は笑いながら、


 「彼は足下が滑りやすいから、気を付けた方が良いと言っていたのだよ」

 「へえ、言っている事、分かるのですか」

 軽和は感心しながら言う。


 「まあ…一緒にいるとね少しずつ分かってくるものだよ、相手が何を言おうとしているのかね…」

 「いいなあ…」


 軽和は、そう言って、異類人種の者を見上げる、相手も軽和を見て、少し微笑んでいた。

 一行が、洞窟の中へと入り出して、小一時間近くが、過ぎようと、していた。

 入り口付近と比べ、奥に進むに連れて、道が狭くなって来ていた。途中、一人ずつでなければ通れない道などもあった。

 太新は、この道で本当に大丈夫なのか?と、途中何度も聞きたくなってしまったが…相手を苛立たせない為に、それは控えておいた。

 しばらくして皇季の歩みが止まった。他の者たちも同じように足を止める。

 皇季は後ろを振り向き太新に向かって一言「この先だよ」と、言う。太新は、それを聞いて胸の底から、嬉しさがこみ上げて来る感じでいた。


 「この先か…」


 そう言って辺りを見渡す、そこは少しの間続いていた狭い空間から切り離されたかの様に幅の広い大きな空間が広がっていた。

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