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光源郷記  作者: じゅんとく
第2章
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広望 4

 「何だったのだ…あいつは?」年長者の者は、憎垂らしそうな表情で呟く。


 生徒会長が去ったのが分かると、皆は金網から離れて行く、皆、遊びの続きを始めたり、お喋りを始めたりして戯れていた。


 その中の一人の獣人系の子供が何気なく金網の近くへ来た時、「あれ?これは何だ?」と、大声で、何かを見付ける。その言葉に気付いた、他の者達が近付いて来る。獣人系の子供は、皆が来た事に気付くと、落ちている物を拾い上げる。


 それは…金色に輝く小さな首飾りだった。


 集まって来た多くの者達は、その首飾りを見て驚いた様子で声を張り上げる。その中の一人女の子は、首飾りを見て、すぐに何かを思い出したような口調で


 「これって、もしかして、鈴麗りんれいが今日、落としたって言う首飾りに何処か似ていない?」

 

 と、自分の隣に居る女の子に向って言う。


 話し掛けられた女の子、首飾りを良く見て


 「ええ…そうだわ、あの子が何時も肌身離さず大切に持っていた物よ…見覚えがある。確かあの子は今朝方、本舎付近で落として来た様な事を言ってずっと落ち込んでいたわね…」


 女の子達は寄って集まりながら皆で話し合っている。その中に一人の獣人系の男の子が割り込んで来て、「どれどれ、ちょっと僕に貸して見ろ」と、女の子達から小さな飾り物を取り上げてクンクン…と、臭いを嗅いだ後に、それを大きく開けた口の中へと入れようとする。


 「いけません、これは食べ物では無いのよ!」


 と、見ていた一人の小さな人型系の女の子が、大声を出して獣人系の男の子から飾り物を取り返す。


 大切な物が消えずに済んだ事に対して周囲から、安心の声が響き渡った。少し間を置き、再び話し合いが始まる。


 「本舎が授業を始めると、私達は向こうへは立ち入れなくなるのよね…」

 「それもあるけど…有水ゆうすい人種の、あの子では日中の日差しの中、向こうまで行くのはかなり大変だと思うわ。水溶性の皮膚だから一日に数回水浴びをしなければならない体だから…」

 「ああ…そうだったわね。確か以前…日中の強い日差しの中に長時間出ていたせいで炎症を起こした事があったよね」


 周囲で話聞いていた他の子達は皆同じように頷く。集まってきた人型系の子が「まだ、施設の中に残って居ると良いのだけど…」と、声を掛ける。


 「大丈夫、鈴麗の声が向こうの方から聞こえて来るわ。あの子、まだ帰宅していないわ」


 耳の大きい獣人系の女の子が、施設の中を指して言う。


 「うん、間違い無い鈴麗の匂いが向こうからするよ」


 獣人系の男の子が、臭いを嗅ぐような仕草で言う。


 「施設の中へ向かいましょう」


 飾り物を手にしていた女の子が、皆に向って言う。女の子を先頭に数人の仲間達は施設の中へと入って行く。施設の中へ入って行くと、施設内に居た異類人種の他の子供達は、何が起きたのかと興味を持って後を追うかの様に付いて行く。施設の中は少し古びた様な感じがする木材で作られた建物であった。建物は三階建ての造りだった。木材で作られた廊下は、子供達が勢い良く走ると、キシキシ…と軋む音がした。


 薄暗く細い廊下を奥へと進んで行くと、奥から光が漏れている場所が見えて来た。皆はその場所へと向かって進んで行く。光が照らす場所へと行くと切り開いたかの様に大きな広間へと辿り着いた。室内は円形状に作られていた。室内の壁には様々な絵の張り紙がしてあった。


 広間へと集まって来た子供達の一人が「おーい鈴麗」と、大声で呼び掛ける。


 「なーに?」


 と、少し離れた場所から返事が聞こえて来た。子供達は周囲を見渡して何処から返事が聞こえて来たかと、周囲を見渡すと広間の外にある中庭に数人の小さな子供達を相手にしている、背丈の低い女の子の姿を見付けた。


 「ちょっと、待っていてね」


 返事をした鈴麗と言う名の女の子は、広間に集まっている皆に向って言う。鈴麗の側には、水の入った盥が置いてあり彼女は盥の中に両手を入れていた。


 「じゃあ…今度は、お魚さんを作るね」


 鈴麗は盥の中に両手を入れて、少しの間目を閉じる。しばらくして盥の中の水が生きているかの様に動き出し魚の形になる、魚はパシャッと音を立てて上空へと飛び跳ねて盥の中へと落ちる。


 歓声が沸き起こり「凄い!」と、小さな子供達の歓声とパチパチと拍手する音が聞こえる。


 「次は、蝶々さんだ」


 鈴麗は両手に掬った水を上へと上げてこぼす時、水が蝶の形になり、ひらひらと舞い降りる様に盥の中へと落ちて行く。


 「わああー…!」


 小さな子供達は皆、幻想的な水の曲芸に感動していた。


 水遊びを終えた鈴麗は、広間で待っている仲間達の所へと向かう。


 「お待たせして、ご免なさい」


 薄暗い外から施設の広間へと、背丈の低い女の子が入って行く白色の衣類の下には、透き通る様な白い肌が見え髪は紫色に近く、ほっそりとした華奢な体付きの女の子が皆の前に現れた。


 鈴麗は、広間に集まっている皆を見回して「何か用かしら?」と、尋ねると人型系の女の子が近付いてきた。

 

 「今日、貴女が本舎に行って落としたと言う物って、これでしょ?」


 女の子は、そう言って、手にしていた小さな金色の首飾りを見せる。

 それを見た鈴麗は、両手を合わせて大声で喜びの声を立てながら


 「そうよ、これなのよ。私の、お母さんの、大切な形見なのよ。見付けてくれて、有り難う」


 と、嬉しそうに鈴麗は母の首飾りを受け取る。

 女の子は、鈴麗の側に一人の獣人系の男の子を連れて来て…


 「礼なら、この子に言ってあげてね。彼が偶然、それを見付けてくれたのよ」

 獣人系の男の子は、少し照れながら、


 「偶然、金網の所でそれを見付けただけだよ、別に、を言われる程の事をした訳じゃあないよ」

 と、彼は答える。


 彼の言葉を聞いた鈴麗は「そうなの…」と、答えながら、何処か不思議そうな表情を浮かべる。


 それに気付いた年長者の男の子が「どうかした?」と、声を掛ける。


 鈴麗は、年長者の男の子を見上げて話し掛けた。


 「この…お母さんの形見を私が落としたのは、今朝方…私が永連に来た時、出発される前の新良様に、どうしても手渡したい物があって…それを届けに行ったあと…、影深様とすれ違った後の事だから、本舎付近の石畳通り周辺だと思っていたけど…。どうして施設内に落ちていたのかしら?」


 話を聞いていた周囲の皆は、同じ様に不思議そうな表情を浮かべて、首を傾げて考え込む。


 「不思議だなあ…。まるで俺達を目の敵にしている筈の生徒会長が、ここへ来る位に不思議だなあ…」


 獣人系の男の子が、何気なく側で呟いた。その言葉を聞いた鈴麗は驚いた表情をする。


 「え…何、あの生徒会長さんがここへ来たの?」


 彼女は周りを見て言う。


 「何…来たと言っても中へは入って来なかったし…外から僕達の様子を見ている感じだったよ。それに直ぐに帰って行ったしね。多分…、僕達の行動を視察でもして、また何か企む気でいるのさ…」


 「おいらが、追い返してやった…」

 と、背丈の低い獣人系の子が、自慢げに言う。


 広間に集まっていた子供達は皆、生徒会長の噂話を始める。皆が噂話で盛り上がっている中、鈴麗は一人、じっと母の形見を見続けていた。

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