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光源郷記  作者: じゅんとく
第2章
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広望 2

 図書室の中は天井が高く、大きく広がった空間の中にあった。室内の規模は大きく左右両側の端と端との距離は長く、四階層にまで分けられた大きな本棚が左右の壁に置かれている。大きな本棚が並ぶ。整然と隙間無く本が並べられている本棚の、その中央には、入ってきた生徒達が寛げる様に施された、椅子や机などが数十人分用意されていて、気軽に本を楽しめるように長椅子等も用意されていた。


 孔喜は、広い図書室を見渡していると、中央からわずか端にある机に、一人だけ残って黙々と勉強をしている女子生徒の姿を見付ける。孔喜は、女子生徒が居る机の側まで近付いて行く。


 女子生徒が座っている机付近を見渡すと、何冊もの辞典や様々な参考書が、積み上げられていた。机の横には、机に乗らない本は横にある台車に乗せて置かれていた。


 「こんな時間まで、学問に集中しているとは、学ぶ事に余念がない様だね、生徒会長さん」と、孔喜が、後ろから声を掛けると、その言葉に気付いた女子生徒は、驚きながら、振り返り、孔喜を見て、「いきなり驚かさないで下さい、学園長先生」と、慌てた素振りで答える。


 女子生徒は、それまで用紙に向って筆記していた手を止めて、孔喜を見る。まだ十代後半位の女子生徒は、長く黒い髪を垂らして、顔は、鼻が小さく、目は少し細かった、体は細く、紺色に染まった征服姿が、妙に似合って見えた。勉強中の間際は、淵のある眼鏡を掛けていたが、勉強の手を止めた今、女子生徒は眼鏡を外して両手で髪を整えて孔喜を見て、


 「今晩は」


 孔喜は「今晩は」と、挨拶を返すと、向かい側の椅子に腰を下ろして女子生徒を見て話し掛ける。


 「何を、そんなに熱心に勉強をしているのかね?」

 「個人的な事であります。具体的に申し上げると。近年、特に世間的に最も騒がれた事件等です。それに関わる資料、文献等を調べていました」

 「成程…資料を読み上げていて、何か得られた物は、あったかの?」

 「過去の資料では、得られる情報と言うのは、限られています。幾ら具体的に内容が記載されていても、自分自身が、その出来事の目撃者では無い限り、それ以上の何かを知る事は、出来ないと言う壁にぶつかります。私自身は、あくまで客観的な立場として内容を調べて、個人的な意見を用いて、幾つかある資料を作成して見ようと始めてみました」


 「成果は、あったかの生徒会長さん?」


 孔喜の言葉に、女子生徒は長い髪を搔き乱しながら…


 「あの…申し訳ありませんが、私を呼ぶ時の…生徒会長と言う呼び方は、止めて頂きませんか?私には璃明りめいと言う名がありますので、そう呼んで頂けると嬉しいです」

 「これは失敬」


 笑いながら孔喜は答える。瑠明と言う名の女子生徒は、孔喜を見て、


 「先日から、私なりに作成して調べ上げた資料集であります。宜しければ軽く目を通して、意見を聞かせて下さい」


 そう言って璃明は数十枚に纏められた用紙を孔喜に手渡すと、璃明は持って来た参考書や事典類を台車に乗せて、片付けに行く。孔喜は、手渡された用紙に目を通す。


 用紙に書かれている出来事の大半の内容は、教師を務めている孔喜も知っていた。項目をめくっている中、孔喜は、ふと…ある内容に目が止まる。璃明が書き記した用紙の文面には、こう書かれていた。


 「明天暦四〇二年五月頃―清豊半島、広望、時計台広場付近、正午過ぎ多くの人通りの中、異類人種と思われる男性が、突然大きな爆発を起こして、その付近に居た数人の人達に重軽傷を負わせた…。この事件で人型系の妖幻人種の者を、異類人種違法行為の罪で逮捕した。この事件に関して、国防省に勤める、ある男性の意見では、彼は何らかの人為的による計画的行動の可能性が強いと指摘した。その男性の発言により、それまで処刑が確定していた異類人種は、処刑が見送られた。その後、多くの人達が妖幻人種の者への問題を指摘している中、ある男性が平原郷付近の村で、同じ様な行為を行った。付近の住民を巻き込む程の、大きな爆発事件を勃発。男性は、爆発時に自らも爆発に巻き込まれて命を失った。この二つの事件は、当時は、全く関連性の無い物として、取り扱われていた。しかし…、その後の調査で、当時の国際機関の総長を務める者の命を狙う行為である事が判明。最初の事件では、総長は普段、毎日の日課である。散歩の道を使って、時計台の広場を通過する予定だったが…その日は別件の予定が入り、当日は通過しなかった。その為に彼は助かった。しかしその後、平原郷に赴いた時は、男性の計画的とも思われる行動には、予測が付かなかった為、総長は爆発に巻き込まれ帰らぬ人となってしまった。この事件の後に国の情勢が大きく変わり、当時は、まだ正式に行われていなかった、浄園諸国の同盟政権を廻って国が始めて動き出し社会問題されている異類人種の差別行為に対して規制が施された。その後、当時国防省に勤めていた、ある人物の意見では、彼等が国に対して自己の立場への主張を政府機関に定義していると見解した。彼の意見が正しかった、どうかは不明。この事件の後、数年後に妖幻人種の者は獄中で二度と陽の目を見る事無く息を引き取った」


 孔喜は文面を読み終えると用紙を机の上へと置く。しばらくして、璃明が本を片付け終えて戻って来た。孔喜が資料を読み終えたのを見て、璃明は「いかがでしたか?」と、尋ねる。


 「良く調べて、作成できているね。これはまだ、完成では無いのだろう?」

 「はい、もう少し…いろんな事を調べるつもりです」

 「出来上がったら、また拝見させてもらうよ」

 「分かりました」


 机の上を片付けしている璃明を見て、孔喜は話し掛けた。


 「それ程までに勉学等に熱心なのに、何故、異類人種の事に関しては、目の色を変えて規制を立てるのだね璃明君?」


 その言葉に璃明は、一瞬立ち止まる。少し間を開けて黒い長い髪を両手で触りながら孔喜を見つめる。璃明の黒色の瞳を、孔喜は無言のまま見つめていた。しばらくして璃明は口を開く。


 「私は単に…学園内の環境保全の為に最善として、規則を立てただけであります。私なりの見解では、異類人種達は、人に満たない連中だと感じています。彼等を、我が校の一般生徒達と同類扱いするのは、学園内の発展にも大きな影響を与え兼ねないのではありませんか?そもそも彼等が居る事で、学園の評価を落とすかもしれないし、地域の住民からも不審に思われるかもしれません。その辺に付いて、学園長先生はどう思われますか?」


 「彼等に関しては、私は何も感じてはおらんよ。むしろ…とても純粋な子達だと、何時も思って見ている程だな…。差別に対しては他の生徒達も、せっかく彼等の良い所を知る機会が減ってしまって、あまりにも勿体無い気がしてしまうのだが…。それに教師の中にも異類人種の者もいるではないか」


 「私は、あの方からの授業は一切受けていません。それに…あの方の授業を受けなくても単位は取れますし…」

 「そうなのか…少し勿体ない気がするな…。琉蓮先生は男子生徒達には人気があるのだが…」


 「あくまでも男子生徒達に置いてでしょう。私個人としては、それは別問題ですので全く関係ありません」


 璃明は、興奮したかの様な口調で言う。少し間を置いてから璃明は、孔喜に話し掛ける


 「学園長先生は、とても人が宜しいのですね。私は、とてもその様な立派な考えは出来ません。うらやましい程です」


 「ほお…と、言うと何かな…。異類人種に対して…君は、過去に何か許せない事でもあったと言うのかね?」

 「はい、勿論あります。私としては生涯決して異類人種達を許したりはしません」

 「それは、一体どう言う事かね?聞かせてもらえないかね?」

 「私の母は、異類人種の者達によって命を奪われました」


 璃明は迷う事無く、はっきりと言う。


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