表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光源郷記  作者: じゅんとく
第2章
26/42

広望 1

ー 川上郷せんじょうきょう 菊華村きくかそん


広大な山脈が連なる山々の峰、それに添うかの様に地上から突き上げる深緑の森、そして無数に伸びる大小様々な川…それ等を称して付けられた地名川上郷。悠久の時間と広大な自然が生み出した造形。隣国との狭間にある遙江は、その一部とも言えた。その奥深くに小さく佇む菊華村があった。華やかな街の賑わいとは程遠い暮らしを送る、村の一角にちょっとした出来事があった。


その日の夕方頃…人里離れた寺院で大声で人を探す女性、彼女は大きな寺院の中、誰かを探し回っていた。


秀怜(しゅうれい)ー!」


大声で人の名を呼び回す。

その時、たまたま近くにいた寺院で修行している子を見付けると、彼に話し掛ける。


「ちょっと秀怜を見なかった?」

「いえ…見ていません、多分…いつもの場所に行ったのでしょう」


それを聞いた女性は、溜息をつきながら呆れた表情をする。


「全く、もう…あの子ったら…」


女性は呆れ返った表情で言う。


寺院から少し離れた小高い山の上に、白く染まった小川の谷があった。タンパク質によって結晶化された小川の谷…、日の光を浴びて青色に輝く水面。水は浄化されて居るので透明度が高く水面までも見渡せる程であり、見る角度によっては水面境と言うにふさわしい一面を見せる。


サラサラ…と滑らかな水の音を立てて流れる清流に手を差し伸べている少女の姿があった。彼女は白い衣服を着込んだ年若い少女が流れる水辺に足を入れて水の鮮度を調べていた。


ヒュウ…と、そよ風が吹くと少女は何かに気付き顔を上げる。

長く伸びた黒色は風に靡き揺れる。白く艶かのある肌をして、あどけない顔立ちをした少女は、遙か遠くの山々が連なる場所へと目を向けて小さな微笑みを浮かべながら見つめ続けていた。


- 学舍永連 学園長室内


薄紫色の空が辺りに広がっている夕暮れ時、学園長室の部屋の中、一人椅子に座って、書き物を続けている孔喜は、身動きを一つ見せずに、朝からずっと、大きな木製の机に向って、紙に筆を走らせられていた。


入り口の扉を軽く叩く音が聞こえ、「失礼します」と、一言声を掛けて、室内に背丈の高い男性が現れ、一礼をして室内へと入って行く。男性は、孔喜が仕事で使っている、机の周りだけが明かりに灯されている事に気付くと、室内の壁際にある照明の電源を入れる。


室内に灯りが灯される事に気付くと、孔喜は顔を上げる。


「先生、予定の時間が近付いて来ました」


それを聞いた孔喜は、「おお、もう…そんな時間か」と、壁に掛けられている、大きな柱時計の針を見る。時刻は既に6時を指していた。


「今日は、何か予定が有ったかのう…」


孔喜は、男性向って言う。


「はい、本日は来和邸で祝賀会が入っています」

「ああ…、御偉いさん達との食事会か…。個人的に、ああ言うのには、あまり行きたくは無いのだよ」

「お気持は良く解ります。しかし…、顔出し程度に出られていた方が、今後の学園の為にも良いとかと思いますが…」

「まあ…確かにそうだな…」


孔喜は、両手を組んで少し考える。


「よし、分かった準備を整えるから、少し待っていてくれ」

「かしこまりました」


男性は、一礼して、室内を出て、扉を閉める。


室内に残った孔喜は、一人着替えを始める。高価な衣装に身を包み込み、その上に学園の人と意識させた紺色の上着を羽織る。衣装を着替えた感じから漂う雰囲気は、学舎永連に通う生徒と同じ物があった。孔喜は、着替えを済ませると、ふと…何気に机の引き出しを開ける、いろいろな物が入っているその一番上に一冊の本があった。孔喜は、その本を手に取り鞄の中へと入れる。


身支度を終えた孔喜は、室内を出る、廊下には先程、室内に入って来た男性が無言の表情で待ち続けていた。


「待たせたな…」

「いえ…」


男性は、孔喜を見て言う。


「外で、運転手の方が待っています、行きましょう」


そう言うと、男性は、孔喜が手にしていた鞄を受け取って、彼の前を歩き始める。二人は、学園の中の長い廊下を歩いて行く。


夕闇の学舎の中、明るく灯された廊下を、孔喜は一人歩き続けて行く。学舎内には、生徒や教師達の姿は無かった。しばらく歩き続けて行くと前方に、上下に分かれた階段が見えて来た。

孔喜は、階段を下へと降りて行く、段数の少ない階段を降りると、前方に、三方向に別れ長い廊下が見えて来た。三方向に別れた廊下を、次に、孔喜は、左側へと歩き始めて行く。廊下を歩いている途中、ふと、孔喜は何気に廊下の硝子窓から外を見る。空は、既に夜の闇に包まれていた。


少しの時間、外の景色を見て立ち止まっていた孔喜だったが、再び廊下を歩き始めて行く。長い廊下の途中、(おや?)と、何かに気付き、それまで一定の歩幅で歩いていた孔喜の歩みは、次第に緩やかになって来た。


前方にある教室から、光が漏れだしている事に孔喜は気付く。その教室が、何の部屋なのかは孔喜には、分かっていた。その教室の近くへと行くと、入口手前に大きな字で「図書室」と、書かれていた。入口手前の扉は、わずかに半開きなっていて、そこから室内の光が漏れだしている事が分かった。


孔喜は、既に学舎内には誰もいないと、感じていたものの、まだ、誰かが残って、何かしているのか。それとも、管理者が消灯の確認を怠っただけなのか。興味を持ち図書室の中を覗いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ