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光源郷記  作者: じゅんとく
第1章
19/42

三年前 10

 新良を背に乗せて、風を切る様に走る風輝は広い木の道が続く通りを、勢いよく走って行く。観客達が居る場所を離れて進むと、辺りは木々の生い茂る場所へと移り変わる。しばらく走り続けていると前方に、黒色と白色の襷をつけている、二頭のトビトカゲ達の走者に早くも追い着く事が出来た。二頭のトビトカゲを、追い抜こうとした時、前方に急な下り坂が見えた。


 新良が乗っているトビトカゲの風輝は、少し速度を落として走って行く。

 前方を走っていた二頭のトビトカゲ達は、追い越されるものか…。と、言わんばかりに勢い良く下り坂を走って行く。その時、二頭のトビトカゲ達は誤ってつまづき下り斜面を転倒し始めて、斜面の上を転がり落ちて行く乗っていた走者達はトビトカゲの上から落下する。


 その二頭のトビトカゲを横目で追い抜いて行く新良は、風輝が良く訓練されていた事に感謝した。

 道を駆けて行く途中、大きな木々が立ち並び、木の道が左右に曲がりくねった道が見えて来た、その道の前方を一頭のトビトカゲが走っていた。水色の襷を巻き着けたトビトカゲだった。


 新良は水色の襷を巻きつけたトビトカゲと走者に追い付こうとした時、前方に大きな段差が見えて来た事に気付いた。


 水色の襷を巻きつけたトビトカゲと、新良を乗せた風輝は、急いで段差を飛び越える。大きな段差を飛び越えた二頭のトビトカゲ達は、激しい着地をした。風輝の背に乗っていた新良は激しい震動に一瞬気が遠くなりそうになった。


 着地をした二頭のトビトカゲ達は、体勢を整えて木の道を再び走り出す。水色の襷を巻きつけたトビトカゲと場を争っている中、木の道はしばらく直進が続いていた。長く続いた直進の道を、二頭のトビトカゲ達は、競り合いながら走り続けていたが、前方に大きく曲がった道が見えて来た。

 道は螺旋状になっていて、坂を下るように道は伸びていた。通って来た道の下を潜る様な感じで先へと続いていた。水色の襷を巻きつけたトビトカゲは、勢い余って螺旋らせん状の道を曲がり切れずそのまま直進してしまい、柵に当たって転倒してしまった。


 新良は横目でそれを見て、すぐに前方を見た。長い直線の道が見えていた。その直線の道の先には数等のトビトカゲが走っているのが見えた。トビトカゲ達は、なだらかな曲線の道を越えて行き、その姿が見えなくなった。


 後を追うような感じで、新良を乗せた風輝は走って行く。なだらかな曲線を越えて行くと前方に直線の道が見えて来た。直線がある周辺には多くの観客者達の姿があり、大きな歓声が響いて来た。観客者達から「頑張れー」と言う声が聞こえた。


 木の道を進んで、白線の上を通過した時、それを見ていた係りの者が木の板で緑と表示した板の下に「一」と書き記した。


 新良は観客達の居る場所を通過して、再び木々が生い茂る道の中へと入って行く。距離を置いて先頭集団に追い付こうと向かっている新良は、前方に二頭のトビトカゲが走っている姿をとらえる。朱色と、黄色の襷を巻きつけたトビトカゲ達だった。新良は、彼等に追い着こうとした。ふと…その時、さらに前方を走っていた紺色の襷を巻きつけたトビトカゲの選手が後退をして来た。


 朱色のトビトカゲの選手と、黄色のトビトカゲの選手、そして紺色のトビトカゲの選手と、横に並んだ瞬間、両側に居たトビトカゲが中央のトビトカゲを挟み込み転倒させた。走っていた黄色のトビトカゲと選手は哀れ大きく転がり落ち危うく新良は、その選手とトビトカゲを踏み付けてしまう所だった。


 前方を走っていた、朱色と紺色の二頭のトビトカゲの選手達は、後ろに新良が居る事に気付くと互いに眼で了解し合い、勢いを落して新良の場所まで、距離を落して行く。


 二頭のトビトカゲの選手が、自分に近付いて来た事に気付いた新良は、手綱を握り締め風輝に、早く走らせる。


 逃がすか…と、言わんばかりに、二頭のトビトカゲの選手達は、新良を追い掛けて行く、二頭のトビトカゲに追われながら、新良は走り続けていた。前方を見ると先頭を走っている宋和とトビトカゲの列光の姿が見えた。


 そう思った瞬間、後方から振動が伝わって来た、二頭のトビトカゲの選手達が、後ろから交互に風輝に体当たりして来た。


 (何て言う連中だ…)


 新良は、やめろと言いたかったが、そう言って聞き分けのある様子など相手等にはなさそうであった。

 前方に、大きな段差が見えて来て、風輝は、段差を飛び越える、二度目は必死に逃げているせいか着地が上手く行き新良も平気だった。


 後方を見ると二頭のトビトカゲの選手達も、上手く段差を飛び越え、すぐに新良のトビトカゲに追い着く。

 二頭のトビトカゲの選手達は、風輝を挟む様に、木の道の両端へと離れて行く、新良は挟み込むつもりだ…と、気付きあえて速度を落とす。

 両側に居る二頭のトビトカゲの選手達も、それに気付き、新良の風輝に合わせて速度を落とす両側から風輝をとらえた、と…思い二頭のトビトカゲの選手達が、挟み込もうと中央へ寄って来た時、新良は風輝の手綱を強く握り、早く走る様風輝に伝える。


 突然素早く走り始めた風輝に、乗り手の新良も、少し驚いた素早い動きで、しばらく前を見られなかったが…少し移動してから、後方を見ると、後ろで、二頭のトビトカゲと選手達は倒れている姿があった。どうやらお互いに勢い良くぶつかった様子だった。相手の走者が追って来そうに無さそうな事を確認すると、少し安心した新良はそのまま前を見て走り続ける。


 螺旋状の道を潜り抜けて、なだらかな曲線を越えて行くと、再び観客達が居る場所へと抜けて行く大きな歓声に包まれて、新良を乗せた風輝は、白線を越えて行く。緑と表示された板には「二」と書き記された。


 新良を乗せた風輝は、そのまま観客達の居る場所を通過する、再び木々が生い茂る森の中へと入って行く。

 大きな木々が立ち並び、道が右へ左へと曲がりくねった道を通過するとき、前方を走っている宋和を乗せた列光の後ろ姿を見付けた。新良は、ようやく追い着いたと思い風輝を走らせる。

 新良と、宋和のお互いの距離は徐々に迫って行き、直進の道で新良の風輝が列光に完全に追い着いた。新良は、宋和を乗せた、列光の横へと風輝を近付けて、宋和を見る新良に気付いた宋和は、走行しながら話し掛けて来た。


 「やっと来たね、来るであろうと思って、ゆっくり走っていたのだ」


 宋和は、笑みを浮かべながら言う。


 「随分、自信のある言い方だね」

 「残念だけど、君には負けないよ」


 そう言うと宋和は、手綱を握り列光を勢い良く走らせる。その走りの速度は風輝や他のトビトカゲの走りとは全く異なる程の速さであった。

 瞬く間に列光の姿は、遠くなり新良を乗せた風輝は、まるで次元の異なる物を追い掛けようとする子供のように思えた。


 必死に走り続けて新良を乗せた風輝は、三度目の白線を越えて残り一周を走って行く。懸命に駆けている途中、前方にトビトカゲの姿をとらえた、一瞬列光に追い着いたかと新良は思ったが、その姿が二つある事に気付いた。二つのトビトカゲは、一番初めに追い越した白と黒の襷を巻きつけたトビトカゲと選手だった。


 新良は二頭のトビトカゲと選手達を、再び追い越し更に風輝を走らせる。

 木々が立ち並ぶ道を越えて、段差のある道を飛び越えて、直進の道を走り続けた時、ようやく宋和の姿を捕らえた。徐々に、お互いの距離は縮まり始めて来た。後方から新良が近付いて来た事に流石の宋和も驚いた。


 螺旋状の道を通る時、風輝と列光との距離の差は、ほとんど無く位置を争うまでに迫っていた。


 なだらかな曲線を駆け抜けて、直進へと出て行くと新良の風輝と宋和の列光は最後の競り合いに迫っていた。直進を駆けて行く時、周囲は多くの観客達の大きな声援に包まれていた。新良は、手綱を強く握り締めて風輝を早く走らせる。


 目を閉じて、とにかく懸命に走らせる事だけに集中していた。その時、試合終了の笛が鳴った。観客達から「やったー!」と、大きな歓声が響き渡る。

 新良は、眼を開けて風輝を止まらせて、どっちが勝ったのか辺りを見渡すと、利空が競技場に飛び込んできて「やったなあ、お前の勝ちだぞ」と、新良に言う。


 利空の言葉に新良は、後方を見ると、宋和が肩を落とした状態でトビトカゲを降りようとしていた。「僕が勝ったの?」風輝の側に居る利空に尋ねる。


 「何だ、お前は眼を開けて走っていなかったのか?」

 「最後の直線はね…」

 「あの時、ぎりぎりまで、お前と宋和は同じ位置だったけど最後の白線のわずか手前から、お前の方が競り勝っていたのだ。それは誰もが見ても納得のいく勝ちだったのだよ」


 利空は、そう話す。話し終わると流栄も嬉しそうに、飛び込んで来て、


 「いやあ、良く勝ってくれた本当にありがとう。正直一番初めに君が出遅れた時は駄目かと思っていたよ。よく頑張ってくれた」

 「あ、はい」


 新良は、少し照れながら返事をする。

 トビトカゲの風輝から新良が降りると、多くの人達が詰めかけて皆で新良を取り囲む。


 「おめでとう」と、大勢の人達が祝う。


 多くの人達に囲まれている中、新良は、ふと横を見ると側に玄礼が寄って来ている事に気付いた。笑顔では無いが、新良に近付き、


 「良く頑張ったね、まさか、ここまでの乗り手だとは、思っていなかったよ正直言って我々の完敗だ」


 と、話し掛ける。

 そして、新良の肩を持って、


 「さあ、約束通り祭壇へ上がってくれ、巫女がどうしても君に花束を贈りたいと言っておる」

 「え、僕に…ですか…」

 「ああ…そうだよ、君に…」


 そう言われると新良は、少し照れながら、


 「あ、いや…今回は止めときます」

 「どうしてだね?遠慮はいらんよ。それに次に、また勝てるとは限らない。勝者は、それなりに胸を張っていれば良い、そうすれば周りの者達の励みにも繋がる」


 その言葉に流栄も近付き新良に言う。


 「そうだよ新良君、勝者になれたのだから胸を張って祭壇に上がれば良い、今回は運良く勝てたが次に同じ様に勝てるとは限らない。だから勝てた時は存分に喜べば良い」

 「分かりました」


 決心が着くと新良は多くの人達の間を通って、競技場を抜けて祭壇のある場所に向って歩いて行く。途中父登武と出会った。


 「お前…トビトカゲの競技に参加したのか…見ていたよ。よく頑張ったな」


 父の思わぬ言葉に、新良は少し嬉しく「ありがとう」と、言葉を返した。


 中央樹の祭壇へと行くと、多くの人達が集まっていた。新良は恥ずかしがりながら祭壇の横にある階段を上って中央へと行く。祭に訪れた多くの人の視線が自分に向けられているのを確認すると、新良は顔を赤くして緊張した足取りで祭壇の中央へと向かう。


 新良が立っている、祭壇の中央の反対側から花束を持って、ゆっくりとした足取りで華やかな衣装に身を包んだ巫女が現れて来た。新良は凛美と言う少女が花束を持って現れた事に緊張が隠せずにいた。と…思った次の瞬間、花束は新良を目がけて飛んで来た。突然花束が自分の顔にぶつかって来て新良は思わず腰を落とし倒れた。


 「え…何、これ?」


 顔を上げると、目の前には、何処か見慣れた様な感じの女の子の姿があった。女の子は口を尖らせて、ふてくされた様な表情で両手を腰に当てて新良を睨んでいた。


 「全く、どうしてトビトカゲの競技に参加すると私に言ってくれなかったのよ!心配したわよ!」

 「え…理亜…なの?」

 「あら、私では何か、ご不満なの?失礼しちゃうわね」

 「ちょっと、これって予定と違うのでは、ありませんか?」


 新良は玄礼に向って言うと、玄礼は笑いながら、


 「いや…おぬしが勝った場合だけは、そちらのお嬢さんが花束を送る事に既に決まっていたのだ予定通りだよ」

 「それって、どう言う決まりなのですか?」

 「何よ…貴方、私以外なら誰でも良いと…そう言いたいわけ?」

 「いや…ただ、これって…何か違うような気がして…」

 「何が、どの様に違う訳なの?つまり、お美しいお姉さまなら良いと…そう言いたい訳なの貴方は?」


 理亜は、そう言いながら新良の右の耳を引っ張りながら「さあ、答えなさい」と言う。


 「痛い、耳を引っ張るな」


 集まった多くの人達は、祭壇の上で、突然始まった痴話喧嘩を見て楽しんで見ていた。


 「おい、君達、祭壇の上は神聖な場所だぞ、痴話喧嘩は他へ行ってやってくれないかね」


 流栄は笑いながら二人に言う。

 祭りの場に思わぬ催し物が現れ、訪れる人達に賑わいを見せていた。


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