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光源郷記  作者: じゅんとく
第1章
14/42

三年前 5

 家の中から、曲の音色が聞こえなくなり居間から、二人の話声が聞こえて来ると新良は家の中へ入って行く。居間では理亜が衣装を脱いで元の衣類に着替え終わっていた。

 先程まで着込んでいた衣装は、明香が袋に折りたたんで理亜に手渡す。


 「大丈夫だと思うけど、家でもう一度着込んで見て、お母さんに衣装の確認をしてもらってね。あと…振り付けも、もう少し練習が必要ね」

 「はい、分かったわ」


 と、言って理亜は袋に包んだ衣装を受け取る。


 「二人とも、今日は来てくれてありがとうね。そろそろ帰宅した方が良さそうね」


 そう言われて二人は返事をして、鞄を持って家を出て行く。明香は玄関先で二人を見送る


 「気を付けて帰るのよ」


 と、言いながら手を振って見送る。


 新良と理亜は、明香に「またね」と、手を振って別れを言いながら来た道を歩いて行く。

 しばらく進んで行くと明香の家は見えなくなった。二人は吊橋を越えて行く歩き続けている途中、ふと新良は立ち止まる。理亜は振り返り新良の顔を見て「どうしたの?」と、問い掛ける。


 「そう言えば、あの樹王と言う絵を見て君は悲しそうな顔をしていたけど…あの絵に何か意味でもあるの?」


 それを聞いた理亜は立ち止まって、しばらく何も言わなかった。不思議に思った新良は「理亜…?」と、声を掛ける。そっと横顔を覗くと理愛は袋を強く抱きしめて震えるようなしぐさをしていた。


 「あの絵を描いたのは、私の伯父さんなのよ…」


 震えるような口調で、理亜は呟いた。


 「え…どう言う事…?」


 新良は理亜の言おうとしている事が分からなかった。理亜は道の端に腰を下して、新良を見上げる。


 「あの絵の事どうしても聞きたい?」

 「うん、まあ…ちょっと気になっていたのだから、もし話せる事なら聞かしてくれるかな…」

 「分かったわ…。ただ…途中で話せなくなったら、ご免ね」


 理亜は少し目を瞑って一息吐くと。近くにある木の道の手すり部分の下の段になっている部分を見つけて


 「少し長くなりそうだから、そこへ座りましょう」


 と、新良に話し掛けて二人は、木の道の端へと横に並んで腰を下ろした。


 「私の伯父さん玄有げんゆうは、私が生まれるよりも、ずっと前に亡くなったの…。その為に話せる事は、あくまで私が皆から聞いた事の話なの…。数年前までは、この島は本国から訪れる人達も少なく平和だったと聞くわ。その頃、私の伯父さんと叔母さんは、まだ結ばれて間もない時期だったわ。二人は周りから大いに祝いを受けて、新たな人生の出発に勤しむ日々だったと聞いているわ…。そんな中ある日、島に不審な人達が数人流れ着いたの。訪れる者を拒まない島の人々は見知らぬ来訪者を受け入れたの、その来訪者達は島に来ると、すぐに周りに迷惑を掛けるような如何わしい行為を行い始めたの。

 皆…最初は客人として多めに見ていたけど…あまりにも度が過ぎる様な行為に、周りの目も厳しくなり始めて来たの。そんな中、如何わしい連中がどう言う経路で聞き知ったかは不明だけど、ある日突然に樹王へ連れて行けと島の皆に言い始めたのよ。島の住人でも噂は知っていても、実際その場所を知る人達の数は少なく、そこがどう言う場所なのか知る人も少なかったのよ。そんな中、私達の家系は樹王の番人でもあって。樹王付近には特別な結界が張られていて決められた一族のみが、その封印を解くことが出来るの。私達の家系にはその封印を解く能力があるのよ…。

 本当かどうかは私はまだ試した事が無い為分からないけど…。ある日の事、玄有の伯父さんは私の父さんと、相談をして秘かに樹王へ行く計画をしていたの、伯父さんを含めた数人の島の人達が、彼等に肝試しのつもりで、樹王付近へと行かせようと話が決まっていて、その代表に選ばれたのが玄有伯父さんだった訳なのよ。周りの人達は、その意見に賛成だったけど叔母さんだけは反対していたわ。当日…私の父さんは急な発熱で行けなくて、伯父さんだけで行く事になったわけなの。玄有の伯父さんは叔母さんと別れて如何わしい連中を連れて、樹王へと行ったわ。この時、誰もが皆、玄有の伯父さんは帰らぬ人だと思っていたけど、数日後…伯父さんだけが戻ってきたのよ。その事に対して明香叔母さんは喜んでいたわ…。

 でも…玄有の伯父さんは、まるで人が変わったかのように以前の面影を無くしていたらしいの。どうしてなのかは全く分からないわ。その事に関しては今でも叔母さんは口を閉ざしているし、何よりも気掛かりなのは。玄有の伯父さんだけが戻ってきて他の如何わしい人達が一人も戻って来ていなかったの。それに付いて島の村長が、玄有の伯父さんに問詰めたけど、伯父さんの答えは、彼等は自分を残して先に帰ったと答えていたみたい。どこまでが本当かは分からないけど…その後、島では、如何わしい人達の姿を見た人は一人もいないわ。それと同時に伯父さんは部屋に閉じこもったきり人前には姿を見せなくなったわ…。

 叔母さんが言うには、毎晩うなされていたらしいの…。ある日の事、玄有の伯父さんは自分が見て来た物を絵に描いたの。それが、あの不思議な樹の絵だったのよ。これは、あくまで噂だけど、樹王と呼ばれる樹がある所まで行って見事生還した人は、これまで数少ないと言われているわ。結界の張ってある場所から少し奥へと行く者は今でも多くいるけど樹王がある所まで行く人は、いないと聞くわ…。その後伯父さんは、だれが言い始めたか分からないけど人殺し呼ばわりされて…」


 理亜の言葉が途切れた事に気付いた新良は、理亜へと視線を向けると理亜は両手を口に当てて泣くのを堪えている姿に気付く。


 「もう分かったから、話さなくても良いよ」

 「本当…?」


 そう言って理亜は、新良を見上げる。


 「無理に話してもらって悪かったね。でも…おかげで、いろいろと分かった気がするよ」


 新良は少し暗い表情で言う。


 「別に…気にしなくても良いわよ。私もちょっと昔の嫌な事を思い出しただけだから」


 そう言って理亜は腰を上げて歩きだす。少し進むと再び立ち止まり新良を見て弱々しそうな声で、話し掛ける


 「玄有叔父さんの話を聞いた時、正直私は何日も眠れない日々が続いたわ…とても怖かったの…」


 そう語る理亜は顔を俯いていた。隣で歩いていた新良は、理亜を見て普段は強気の理亜ですら、こうも弱気にさせてしまうなんて…。と、その変わり様に対して樹王の恐ろしさに少し驚いていた。話が終えると二人は、また歩き始める。しばらく進んで理亜は足を止める。新良は振り返り理亜を見る。


 「どうしたの?」

 「さっきの話の事だけど、私達の家系が樹王の結界の番人である事は他の人には言わないでくれる?」

 「どうして?」

 「過去に伯父さんの事があってから、私のお母さんが凄く心配しているの…。また私達の誰かが利用されるのではないか…て、だから、あまり付近の人にも言わない様に気を付けているの」

 「そうなの…分かったよ」

 「ありがとう」


 二人は、その後会話も無く来た道を歩いて行く。しばらく歩き続けて行くと新良のある家が、見えて来た。

 住み慣れた我が家が見えて来ると、自然と元気が出てくる。


 「はあ…何か久しぶりに我が家に戻ってきた様な気がするよ」


 と、新良は大きく伸びをしながら言う。


 「新良…」


 理亜は少し小声で呼びかける。


 「どうしたの?」

 「今日、叔母さんに会ったこと、私の母には内緒にしといてね」

 「ああ…大丈夫言わないよ」

 「ありがとう」


 理亜の母が明香の事を嫌っている事は、新良は知っていた。どんな理由かは少年の新良には理解出来なかったが、時折、理亜が二人の間で辛い思いをしている事を周りから聞かされていた。

 明香と玄有の間には子は無く、明香にとって従妹の理亜と会うのが何よりもの楽しみであった。理亜は、それを理解していた。しかし理亜の母は頭の固い人物であり、我が子の行動に対して手厳しく明香と会う事に対して目を光らせていた。


 見慣れた景色の中、既に陽は西へと傾き始めていた。二人は木の道を歩き続けて行く。時折外出をしていた子供達が「またねー」とか、「ばいばいー」と大きな声をするのが聞こえた。近くでは近所の婦人達の世間話をしている姿も見えた。

 憧れの我が家の近くへと来ると理亜は、自分の家へと向かう道の方角へと進み始め、振り返って手を振る。


 「今日はありがとうね。また明日」


 と、言いながら手を振って新良と別れる。


 「またね」


 新良は手を振って自分の家へと通じる道を進み始める。


 少し歩き始めると「おおーい」と、何処からか声が聞こえる新良は辺りを見渡すと前方の樹の上の長く伸び出た枝に一頭のトビトカゲの姿があった。そのトビトカゲの背には二人の人が乗っている姿があった。

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