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光源郷記  作者: じゅんとく
第1章
13/42

三年前 4

奥の家から離れて、道を進んでいると、理亜は新良を見て


 「あのお爺さんは来る人問わず誰に対しても長話をするから気を付けてね」

 「先に言ってくれ。でも…何で理亜が来たの?」


 新良は理亜に向かって言い返す。


 「叔母さんと私とで、さっきまで食事の支度をしていたのよ。貴方が戻ってくるのが遅いから叔母さんが心配していて、私が叔母さんの代わりに見に来たのよ」


 「そう…悪かったね…」


 新良は言い返す。


 二人は来た道を戻って行く、少し歩いて行くと新良は理亜を見て…


 「ちょっと、この荷袋持ってくれない?」


 と、言いながら理亜に荷袋を持たせる。


 「ちょっと…何で私が、こんな重い物を持たなければならないのよ」

 「僕は今日一日、働き詰めで疲れているのだよ」

 「そんな事、私は知らないわよ」


 と、言って荷袋を新良に投げ返す。


 「もう、こっちは歩く気力も無いのだよ」


 新良は腰を下してその場に座り込む。


 「あら、そう…ずっとそこで、座ったままでいるの」


 理亜は、少し先を歩いて行く。


 「せっかく叔母さんと一緒に食事を作っていたのけど、そう…残念だわ」


 と、言って理亜はさっさと歩いて行ってしまう。


 「ちょっと、待ってよ」


 新良は走って理亜を追い掛けて行く。二人は、その後しばらく会話を行わなかった。

 道を進んで、明香の家の近くまで来ると家の中から、美味しそうな食事の香りが漂って来た。腹を空かせた新良は、食事の用意が出来ているのを知ると駆け足で家の近くへと走って行く。


 「貴方、ついさっき歩く気力も無いとか、言っていなかった?」


 理亜は、少し呆れた声で言う。


 「食事が出来ていると、思ったら急に元気が出てきたよ」


 新良はそう言って、家の中へと飛び込んで行く。


 「あら…お帰りなさい、ご苦労様ね」


 明香は駆け足で、家の中へと飛び込んでくる新良と理亜を笑顔で迎えた。食台には三人分の料理が用意されていた。


 「わあ…美味しそう」


 新良は、食台に並べられた料理を見て、すぐにでも飛びかかりそうな構えを見せていた。


 「まだ駄目よ、これが出来てから」


 明香は陶器の鍋で煮込んである物を指して言う。鍋の中身は野菜と肉類を煮込み塩と香料で旨味を引き出していた。


 理愛は、三人分の湯呑を持って来て食台に並べる。その間に明香は鍋で煮込んだ物が、よく煮えたのを確認し味見をする「うん…、いいかな…」と、呟くと最後に効果類を加えて仕上げをする。煮物が出来上がると、陶器の鍋を食台に持って行き三人分の器に分ける。


 「さあ…出来ました。では頂きましょうか」


 三人は、食台の前に付き、用意された料理を食べ始める。

 育ち盛りの新良と理亜は、夢中で食事をする沢山用意された食事も瞬く間に全て器の中身は空となった。

 食事が終って一息吐くと。新良と理亜は満足した様な表情だった。


 「そう言えば今年も、もう直ぐ島の誕生祭の時期ね…」


 明香は、お茶を飲みながら言う。それを聞いた理亜が、ふと…何かを思い出したかの様に明香に話し掛ける。


 「島の誕生祭って言えば今年、私は巫女をやる人達の中の一人に選ばれたのよ」

 「あら、良かったじゃない選ばれて」

 「へえ…理亜でも選ばれる事あるのか。あれって…相当運が良くなければなれないでしょ?」


 新良は少し感心しながら言う。


 「あら、失礼しちゃうわね。私だって選ばれることぐらいあるわよ」


 理亜は新良の顔を見て、ビッと舌を出す。

 二人の会話を楽しそうに聞いていた明香が理亜に話し掛ける


 「でもね家には巫女で着る衣装が無いのよ、叔母さん持っていたら貸してもらえるかな…?」

 「ええ…あるわよ、お古で良ければ…儀式で使う衣装は、そう滅多に変わらないけどね。確か物置部屋にしまって置いた筈だから探しましょう」


 そう言うと三人は席を立ち、食器を片づける。食器の片付けが終ると三人は家の物置部屋へと入って行く。

 薄暗い物置部屋には、大きな箱が幾つも積み重ねられて置いてあった。明香は、その箱の表に書かれてある数字を見ながら奥の方へと進んで行く。


 奥に置いてある小さな箱を見付けると、明香は「あった、これだわ」と言って箱を取り出してくる。少し埃まみれになりながら明香は出て来た。


 「新良君…ちょっと悪いけど物置部屋を簡単に掃除しといてくれる?私は居間で、理愛の衣装の取り付け方教えるから」

 「はい」


 そう言って物置部屋に一人取り残された新良は、部屋にある窓を開けて部屋の掃除を始める。箒を履くといきなり埃が舞い。最初はなかなか、掃除が捗らなかった。時間を掛けて、ゆっくりと掃除を行う。部屋の作業をしている最中…新良は、理亜が居間で取り外した額に入った「樹王」の絵画を見付けた。


 「何だろう…この絵は?」


 新良は、しばらく絵を見ていたが…やはり気味悪いと思い、置いてあった場所に戻して掃除を行う。

 掃除を終えた新良は、顔や服が汗や埃で汚れていた。掃除を終えたことを伝えようと新良は居間に居る二人の所へと向う。


 「終わったよう」


 と、新良は居間へと入って行く。


 居間に入って行った時、目の前に緑色の衣装に身を包んだ女の子の姿に、新良は一瞬目が止まってしまった。

 新良に気付いた女の子は、新良が、ずっと自分を見ている事に気に掛かり


 「ちょっと…何、人の姿みているのよ!」


 ムッとした表情で大言う。


 その言葉に新良は、相手が理亜だと分かると


 「何だ、理亜だったのか…」


 少し呆れた口調で新良は言う。


 「何だったとは…失礼ね」


 居間に明香が入って来て


 「お巫女さん。当日の儀式最中ではその様な発言は、なるべく控えて下さいね皆に笑われますから」

 「はい、わかりました」


 理亜は少し堅苦しそうに返事をする。

 明香は、新良を見て


 「あら、お掃除ありがとう、服を汚しちゃったわね。代りの服を用意してあげましょうか?」

 「あ…大丈夫です、そのまま帰るから…」

 「え…いいの?」

 「うん、大丈夫」

 「あら、そう…分かったわ」


 そう答えると明香は、理亜が着ている衣装の継ぎはぎを行う。


 「こんな物で良いかしら…さてと、お巫女さん舞の方は大丈夫なの?」


 明香の言葉に、理亜は苦笑いしながら、


 「全然駄目。毎日友達に稽古してもらっているの」


 と、首を横に振りながら答える。


 「あらら…駄目じゃない。私が少し振り付けを教えてあげるわ」


 明香は物置から古びた打楽器を持って来た。その中から弦楽器を取り出して曲を奏でる。その曲は新良と理亜が誕生祭で聞く曲であった。

 少し奏でると、明香は理亜を見て、


 「さあ、舞を踊って見て」


 その言葉に理亜は頷き、明香が曲を奏でると舞を踊り始める。理愛の動きを見ていた明香は、少し曲を奏でると、すぐに手を止めて理亜の側へと行き


 「本当に駄目ね。体が硬過ぎるわね」


 理亜に振り付けの仕方を細かく教える。


 手取り教え込まれている理亜は自分の近くで、置き者等を見ている新良を見て…


 「ちょっと新良、貴方も打楽器で曲を演奏しなさいよ」

 「何で、僕がやらなきゃいけないの?」

 「いいから、これでもやりなさい」


 そう言って理亜は笛を取り出して新良に手渡す。新良は笛を受け取ると勢い良く吹く、ピーッと言う大きな笛の音に明香と理亜は、両手で両耳をとっさに塞いだ。


 「新良君、ちょっと止めて」


 と、明香は大声で言う。


 理亜はすぐに新良から笛を取り上げて、


 「貴方、外で待ってなさい」

 「分かりました」


 新良は呆れた声で答え、表に出て用水路で顔を洗うと…しばらくの間新良は外の景色を眺めていた。

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