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光源郷記  作者: じゅんとく
第1章
12/42

三年前 3

 来た道とは逆方向の、さらに奥へと通じる細く曲がりくねった道を進んで行く。途中…古い作りの階段を上って行き渡りにくそうな橋を越えて行く。道を間違えたのでは…?と、途中周りを見渡すが…他に家らしき物は見当たらず、道を進んで行く。やっとの思いで新良は、隣にある家へとたどり着く。


 裏の隣の家は、大きな樹の幹の上にあった。明香や新良の家と比べると、少し古い作りの家だった。人工で作った庭の上に家が設けられていた。新良は木の道を通ってその古い作りの家へと行く。

 家の外側の庭周辺には柵が作られていた。家の近くまで来ると庭の横長椅子に、座っている一人の老人を見付ける。老人は後ろ向きに座っている為新良に気付かずに手作業をしていた。

 新良が側へと行くと、老人は鼻歌を歌いながら手作業をしている。


 「あのう…、すみません…」


 新良が声を掛けると老人は驚いて振り返り


 「わ、何じゃ、驚かすなよ!」

 と、大声で叫ぶ。


 老人は見た目からして八十代位の男性だった。頭には髪はほとんど無く、わずかに白い髪が数本残っている程度だった。顔はシワだらけで目は細く、鼻が尖っていた。口には歯が数本しかなかった。


 「はて…、お主は見かけぬ顔だが誰かのう…?」


 老人は、新良の顔を間近で見ながら言う。


 「自分は新良と言います。今日は明香さんの手伝いで作物を頂きに来ました」

 「おお…なるほど、そう言うことか。わしは礼武れいむと言う老いた爺じゃ。作物をもらいに来たのなら…。ほれ…向こうに積み上げてあるぞ。好きなだけ持っていくが良い」


 礼武と言う老人は家の近くに用意されている作物を指して言う。

 新良は持って来た荷袋を広げて用意された作物を適当に詰め込む。荷袋が一杯になって新良は、荷袋を担いで帰ろうと歩き始めた時に礼武が、


 「おおい、お前さん」

 

 礼武が新良に向かって手招きをしていた。


 「何か?」

 「まあ、いいから、そこへ腰を下ろしなさい」


 と、礼武は側へ来るよう手招きする。


 「あの…、僕ちょっと急いでいるのですけど…」

 「良いじゃないか、ちょっと年寄りの話を聞きなされ」

 「じゃあ、ちょっとだけですよ」


 新良は、その場に腰を下して礼武の顔を見る。


 「ふむ、お主まだ若いのう…幾つなのだね?」

 「十四歳です」

 「ほう、まだそんな歳なのか、ホッホ…若いなあ…。ところで、お主この島の歴史は知っているかね?」

 「いいえ、全く知りません」

 「では、その辺に付いて、少し話をしようではないかな…」

 「出来れば短めに、お願いします」


 それを聞いた礼武は嬉しそうに笑みを浮かべながら話を始める。


 「うむ…この島に人々が生活を始めたのは、今からほんの三〇〇年程前の明天暦が始まった頃の事なのじゃ…。明天暦とは広世で、偉大な方が世を去った年から明天暦と呼ばれる暦が始まったのじゃ。それ以前の暦の呼び名を霜天暦そうてんれきと称する様になったのじゃ、これは広世共通で決められている事じゃ。暦の呼び名が変わった頃、島から北に位置する場所にある本土と呼ばれる大陸に、この島の盟主、我々が本国と呼んでいる、白陽国と呼ばれている王が治める国があるのじゃ。白陽国とは北東西を隣国に囲まれた小王国で…その国で今から三〇〇年前、白陽国の国内で民衆達による大きな内紛が勃発したのじゃ。全ての出来事は、その時代の王による国内への増税や政治的な圧力等が国民達に不満を募らせたのじゃ。その頃、国内の政治は大きく傾いていた時期でもあったのじゃ民衆達の不満の声を知った王は、王族に対して侮辱する者は徹底的に縛り上げる様に国に命令を下したのじゃ。それにより、国民と王族との対立が始まったのじゃ。しかし…王族と民達との対立は長くは続かなかったのじゃよ、武器を使い慣れている連中に、民衆達は成す術もなく内紛は短い期間で、すぐに終結を迎えたのじゃ。そんな中、民衆達で騒ぎを起こした人達の多くは、皆散って行く様になったのじゃ、その一部がこの島に流れて来たのじゃ。それまで、まだ誰も入った事のない未開の地に移り住んで来たのが、わしらの祖先なのじゃ。かつてこの地は無人島で、人々の噂では人間が住める場所では無いとさえ言われ続けていた程じゃ。その地に初めて足を踏み入れてから、もう…三〇〇年以上が過ぎたのじゃ」


 「へえ…そうなの…」

 新良は、感心したように返事をする。新良の態度を見た礼武は「こらっ!」と、大声で言う。


 「感心をするのはまだ早いぞ、わしらの祖先にとって移住の地を見付けたのは幸いじゃが、この地を訪れた時、皆誰もが島の景色に対して驚いたと言われている。それは無論のことじゃ、辺りを見渡しても平地は無く見えるのは巨大な木々が生い茂っていて…どう考えても、とても人が住めるような環境では無いのじゃ。それでもわしらの祖先はこの地を移住の地として選んだのじゃ。それはまさに目を瞑って手探りで道を進む様な物。最初は皆、木々の下に誰もが家を建てたのじゃ…。しかし地面には身の丈を超える獣の住処で夜毎に一人また一人と獣に襲われたのじゃ。その為、皆は樹の上に家を建てる事に決めたのじゃ。樹の上に家を建てるのは、まさに至難の業であった…どの様に建てても上手く家がすぐに壊れてしまったり…雨風に弱かったりと、いろいろと問題は尽きなかった。家を造る作業が一段落すると、次は道を作る作業や水が必要になってきた。皆、水の確保の為に樹の上り下りが必要になるからじゃ。道作りの作業は時間は掛った物の…何とか村の中心部付近に道が出来たのじゃ。水の確保は島の樹に答えがあったのじゃ。樹から出る樹液が意外な利用法に気付いたのじゃ。樹液が固形すると硝子状に変化する事を突き止めたのじゃ。それを利用して樹を使って水が流れるように形作ったのじゃ、水は島にある山からの天然水を利用したのじゃ。用水路は長い時間をかけて村全体に行き届く様、皆が工夫を重ねて来たのじゃ。今の村に形作られる様なるまでには長い道のりがあったのじゃよ…。そう言えば、あと数日で島の誕生祭じゃ。あれは、わしらの祖先がこの島に来た日を祝っての祭りなのじゃ、毎年中央樹の場所で行う祭典がそうじゃよ」


 話を聞いた新良は、辺りを見渡した。今までごく普通にしていた暮らしが、実は長い時間によって編み出された物だった事を少し実感した。礼武の話が一段落したのを見ると新良は、


 「あのう…」


 礼武に向かって話し掛ける。新良が話し掛けて来た事に気付いた礼武は…


 「どうしたのじゃ?」

 と、返事をする。


 「実は…」


 新良が何かを言い出そうと礼武に向かって話し掛け様とした時だった。


 「新良―!」


 少し離れた場所から、自分を呼ぶ声に気付く。この声は…と、新良が振り返ると木の道の向こう側から理亜の走って来る姿があった。理亜は礼武の家の近くまで来ると息を切らしながら新良を見て。


 「全く…ずっと待っていても戻って来ないから、心配して来たのよ」

 「ご免…」


 と、新良は立ち上がって、理亜に向かって謝る。

 礼武は理亜を見て…


 「おお…理亜か久しぶりじゃ。以前来た時より大きくなったのう…」

 「こんにちは、礼武爺様」


 理亜は一礼しながら、挨拶をする。


 「ところで以前って、何時頃の事ですか?つい最近もこちらに来た筈ですが…」

 「おお、そうか…それは、どうもすまない」


 礼武は笑いながら答える。

 理亜は挨拶をすると、すぐに新良の方を見て


 「早く戻りましょう」

 「分かったよう」


 新良は言い返す。


 「ごめんなさい礼武爺様、今日はこれで失礼します」


 理亜は新良の背を押しながら、その場を離れて行く。礼武は笑いながら手を振り


 「また、いつでも来いよ」


 と、言いながら二人と別れる。

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