69話 最強のメッキが剥げる時
「卑怯者! 私達の世界からでていけ――」
激高する濡羽色の髪をたたえる少女。かなり痛んだ巫女装束を身に纏っている。
これは夢か……たぶん記憶の整理現象なのだろうけど。
いつどこでの出来事だったかはわからない。
「あの人は、何もしていないのに――」
世界系アニメの最終回みたいな状況だったような気がする……。
「俺はただ壊すだけだ――」
つらつらと背中が痒くなるような――中二病くさいセリフで彼女とその仲間達を刺激し続けた。
そこそこの抵抗だってあった。別に攻撃するつもりもなかったけど、防御が最大の攻撃になるってことはままある。
事態を収拾した後、その街には出入り禁止になった。港町のラーメン、絶品だったんだけどな。
世界を救っているなんて自覚は欠片も存在しない。
緊急を要する時は、ほとんど道具として自分を定義する。
そもそも自発的に行動することは苦手だ。世界の片隅に住まわせてもらっている分際で、好き勝手に行動しては天罰が下るかもしれない。
「アナタは何者?」
事態が収拾した後、潜入していた下っ端の犬奴隷に聞かれた。
「通りすがりの最強だ」
その時は、何とも思わなかったけれど、帰りの新幹線でふと我に返って恥ずかしくなった。恥ずかし死するところだった……まあ、そんな簡単に死ねはしないけど。
基本的に会話の内容は事前に用意されている。
アドリブでポカをやらかすことも少なくない。言うほど声が低くないのに、ハードボイルキャラなんて無理難題が過ぎる。
東郷デュークの名は伊達じゃない。
白状するよ。
俺は造られた――ハリボテの最強だ。
犬族の涙ぐましい? プロパガンダのおかげで、勝手にイメージが一人歩きしているんだ。
大した戦果だって上げていない。
一方的な防衛戦が数回。狂戦士の襲来が一番印象深い。
七つの命を保有する半神を倒すのに、その倍は死線をくぐり抜けなければならなかった。
大当たり確率10分の1を万回連続で引き続けるのは、さすがに骨が折れる。
そろそろ起きる時間みたいだ。
奥歯がガチガチとなっている。武者震いが止まらない……嘘です。
正直、消滅の危機に瀕しているのです。こんな深く眠りに落ちるなんてただごとではないのです。
それを連れには黙っているわけですが、それも限界なわけです――
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「むにゃ、ん~ん、あと5分……」
頭がぼーっとしている。
……ここは?
簡素な部屋だ。靴を履いたまま寝ているから、日本じゃないみたいだけど。
「いたっ……」
頭が割れるように痛い。手に力が入らない……というか消えかけてない?
どう考えたってヤバいだろう。
やばいよ、やばいよ。
「落ち着け、落ち着け。ひぃひぃふーう――」
そうだ名前を思い出そう。
「私……僕……俺――」
一人称はどれが正解だ。手足とかに油性マジックで書いてないかな。
置手紙……これはたぶん違うな。意味記憶とエピソード記憶。後者のほうにアクセスしないと。




