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66話 また巡り会う、その日まで-4

イタイアツイ……アタタかい。


「――どこを狙っている? 耄碌したか老害。見よ、害された獣がうなっているぞ」


 ……獣? 特に気配は感じないけれど……ケモノ――汗臭いだろうか。

 ずいぶんと人間くさい神様に嫌われる分にはなんとも思わないけど、ノーマを不快にさせるのは嫌だな。


「意趣返しのつもりか? このような人語すらままならぬ犬畜生に恋慕の情を募らせるなど、不敬にほかならぬ」

 別に僕を否定するのは一向に構わない。だけど、仮にもノーマの対なんだろう? どうしてそんな悪意をぶつける必要があるんだよ。


「レアン!」

 そんなに大声でも叫ばなくてもちゃんと聞こえている。こんな距離、一瞬で近くにいけるから。

 ほら、待たせなかっただろう。


 …………? ノーマの身長が伸びている。完全に年上だ。妖艶な雰囲気。でも、眼差しとか仕草は全然変わらない。

 やっぱり好きだな。


「レアン、吾の言葉を理解できるか?」

 震える声ですがりついてくるノーマ。とても落ち着く匂いがする。

 思わずペロリと頬を舐めてしまった。滑らかな舌触り。


「レアン、しっかり意識を保つのだ。力に飲まれるな!」

 こんな近くで怒鳴らないでくれよ。


 どうして? ノーマは苦しそうな表情をしているのだろう。

 やっぱり獣くさいかな。


「〇△&%GUR、ア”ァァ――」

 あれ? おかしいな。上手く喋れない。でも、ノーマはとても温かいから……眠くなる。


「レアン! 後生だから、目を開けてくれ」


「――アナタは誰かに入れ込むべきではないのだ。私とフォボス。いや、私だけがアナタの力になれる」

 耳障りな音だ。こびるような、ねだるような自分本位の戯言。

 安眠を妨害された。


【黙れダイモス。お前に力を与えたのは、吾の最大の汚点だ】

 視界の端で、火柱が立ち昇った。

 カランと仮面が地面を転がった。


「残念です。残念ですよ。ハハハッ、このように弱くなったアナタ様。せっかく私の奴隷にして差し上げようと思ったのに! どうして私の愛情を理解しない――」

 端正な顔だち。でも、無数に裂傷がはしっている。傷口から灰がポロポロと零れ落ちて行く。

 茶色の長髪。声がずいぶと高くなった。


「すまぬな、レアン。今の吾ではダイモスを足止めすることもできぬ。だが、どんな凌辱にまみれようとも、レアンだけは救ってみせる」

 それはこのまま眠る――死ぬよりつらいな。あんな奴にノーマが穢されなんて……。

 神様……誰でもいいから、僕はどうなってもいいいから、ノーマを助けて下さい。


【ラジャー】

 

 一歩、一歩、歪んだ笑みを浮かべて近づいてくる狂人。


「……お主は?」

 ノーマのつぶやきと歩み止める狂人。


「ウェー、お初です。ワシはレアンのマブダチです! あわわっ、この人目が怖ぇー。えっ、あっ、レアンたしゅけて――」

 ロン様の声が掻き消された。音もなく爆ぜた青色の炎。


「ハハッこの後に及んで末端の神使ですか。そこの獣は、たいして十二神将には愛されいないようですね」

 高笑い。

 

「どうしてワラ? あーあっ、冬ばーじょんの毛皮三着しかないのになぁー」

 息を飲む音。

 続く、燃え上がる白い火柱。


「アワッ、さすがにアオに怒られる――。レアン一つ確認、この人、破壊してもモーマンタイ?」

 肯定したいけど、上手く喋れない。

 

 ロン様が挑発と回避行動を繰り返す。


「あれは――あの厄災は味方だと考えて良いのだな」

 なんとか頷けた。


「――よく聞くのだレアン。今後、起こることは全て吾の責任だ。”どんな形でもレアンには生きてほしい” 醜く弱い吾のエゴ。恨んでくれてかまわない。すまぬ、すまぬのだレアン――」

 ノーマのせいじゃない。そう伝えたいのに上手く言葉が紡げない。


 口元に柔らかい感触。ノーマの顔がすごく近い。

 ノーマが顔をずらして、首筋に唇を押しつけた。


 余韻を楽しむひまもなく、鋭い痛みが首元に走った。

 熱いモノが流れ込んでくる。


 何かが脈打った。全身が燃えるように熱い。


 ドクン


 ドクン


「いつか、いつか、もう一度巡りアエタナラ。コノオモイヲ〇△&%――……」

 僕は君のことが大好きだ。この想いは永劫変わらない。それだけは断言できる。


 ノーマ、NOーMA―――


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