65話 また巡り会う、その日まで-3
世界を憎んでどこへ行く?
半獣人に生まれた。不遇の幼少期。自分がいなければ姉はもっと自由に生きれらる。
そんなことを考えていた。
外の世界は辛いことだらけで、どれだけ自分が守られていたのかを知った。
パラディソスに流れ着いたことを後悔している?
答えは、否だ。後悔なんて……感謝しかない。
仲間――ラフィやバニカと出会った。
そして、何よりノーマに巡り会えた。
「アツい」
見事な芸術品のような壁。絡み合った樹木のような形で、隙間から橙色が漏れ出している。
縦に長い楕円形の入口。
一歩、足を踏み入れた。
熱気が顔をないだ。
チリチリと肌が焼かれるようだ。
積まれた木箱から煙と火の粉が上がっている。
床に落ちたグニャリと歪んだ金貨が、必死に原型を保とうともがいている。
ここは神殿の最奥の宝物庫。絵画も、高価な壺もここパラディソスでは無価値なのだど思い知らされる。
一番価値を持つものそれは……。
「――ノーマ?」
声がしゃがれている。吸い込む空気が熱い。
「…………」
返事はない。横たわった彼女は、ピクリとも動かない。
豪奢なドレス。花飾りが煌めいている。ほっそりとした長い手足。艶やかな緋色の髪。
息を飲むほど美しい。きっと僕では釣り合わない。
そもそも、このパラディソスで彼女に対になれる存在など一柱しかいないのだろう。
「――よく来たな」
滑らかな低音。均整のとれた身体つき。
仮面で顔を隠している。
「…………」
立ちはだかるように佇む彼が、プロメテウス神なのだろうか。
強い芳香……その向う側に隠れる肉が焦げるような匂い。
「ただの愚者であれば、この婚礼式に招待などしなかった」
婚礼式……こんなものが?
「グルルルルUUUUU――」
自分の発している声――咆哮に驚いている。
「ジュウシンが放せし獣よ。そのキッサキがシンにとどくかどうかタメシテミヨ」
イワレ、ナクトモ。クイチギッテヤル。
――ヨケルナ。タダ、マッスグ。
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「……ん? 吾は」
薄っすらと目を開く美女――ノーマ。
薄紅色の唇が一瞬だけ震えた。
「……アン?」
彼女が一番恐れている光景が目下に広がっていた。
狩りを楽しむ猟神と手負いの獣。
繰り広げられるのは殺戮の演武。
完全に意図されている。曰く、『お前の欲望が、彼を破滅させた』
うねり貫く炎槍と降りそそぐ炎矢。
獣が回避行動をとることはない。ただ、攻撃を、その爪先を届かせるために最短の道を本能的に模索している。
いくら貫かれても、抉られても立ち上がる獣。
「おかしい……まさか!?」
ノーマが目を細めた。
繋がり伸びる二本の線。
「高位獣人だと?」
《十二神将め。何を考えているのだ。こんな短期間で、レアンを崩壊させるつもりか……》
異常な回復力。過剰な力は、身を滅ぼす。とうの昔に獣――レアンの肉体は限界を迎えている。
「はやく、一刻もはやく」
四肢に強引に力を込めるノーマ。
ブチブチと身体が悲鳴を上げた。
必死に左手に力を掻き集める。
そして、火球を放った。




