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異世界転生撲滅部 クラス転移阻止-2

「イケッッッッーーーー!!!」

 大音量で鳴り響く、着メロ――イヌのおまわりさん。


 それを聞きとがめるものはどこにも存在しない。

 火災報知器がなって、全校生徒は校庭に避難をした。直後に、自体は動いた。


 全力で投擲したモップは無事外壁を貫通。

 青白い火花を発生させながら内壁と拮抗している。


 黒雲に覆われた上空。その上空に円形の穴が空いている。

 そこから差し込む後光。おそらく精神に悪影響を与える類の毒光。


 『……――』

 ノイズで聞きにくいが、タイムリミットだけはわかった。

 件の敵は、雑な選定を行っている。曰く、生き残りだけを連れて行く腹づもりらしい。


 それにしても……俺の理解者、皆城静香は普通ではなかったらしい。

 


 上空に浮遊する青い肌の美女。デ〇ラーも真っ青だ。

 三対の腕、光輝く二重輪――光背。


 モップが爆ぜて霧散した。さて、次はどうしたものか。


 ん? あれは、国上悟が声を張り上げている。

 どうやら空中に鎮座した皆城静香に何かを伝えようしているようだ。


『皆城先生ーーーーだいーーーーすきです!』

 まさかの悪手。超常の存在は得手して、個人の認識が苦手であったりするものだ。

 情に訴えかけたところで自体は好転などしない。


『用務員』

『オッサン』

 生徒が国上悟を下がらせようとしている。いつもの国上悟であれば素直に従うはずだが……。

 声を荒げ、後ろでで生徒かばった。


 そのまま、無意味と思われる告白を続ける。

 なるほど、なるほど、自分に注意を集中させる作戦か。


 今、わかった。この異世界転生は成功する。国上悟は自分の命を顧みていない。

 その有用性がわかるからこそ、消滅させらていない。


「イギッ」

 そうだよな。勇者でも、魔王でも、お前たちが望む成果を彼は成し遂げるだろう。

 だからこそ、全力で邪魔なものを排除しなければならない。


 光の鎖。四方から伸びた拘束具。動けば動くほど拘束は強くなる。

 

 嫌だけど、嫌でしかたないけれど――


「――ストップだよ、アオちゃん」

「…………」


「そんな顔しないでよ、ちゃんと助けにきたじゃない」

 白いカンフー服、ズボンの丈は膝までしかない。

 黒髪を三つ編みにして、後ろ手で一纏めにしている。


 蝶々の形をあしらった髪留め。それは、彼女の兄が買い与えたものだ。

 十代半ば、素人目にみればこの高校の生徒だといっても通じるだろう。


 その佇まい、にじみ出る風格。武道を極めた老師に通じる圧力。

 彼女はまごうことなき人外だ。


「タクちゃんさん」

「んーっと、そっか、あそこで愛を叫んでいる勇者候補君の影響を受けているわけだね。なんかさ、拍子抜けるするから、いつもどおり呼んでよ」


 

「呼び捨てなんて、ハク氏に怒られないかな?」

「お兄ちゃんがそんなことで怒るわけないよ。あたしとお兄ちゃんでアオちゃんを取り合うとかのほうがまだ現実味があるよ」

 正直、俺はそこまで気に入られていないと思う。

 彼女の兄――ハクは無口で、二人だけにされた時の気まずさは計り知れない。


「それよりもだよ、アオちゃん。さっさと事態を収拾させないと、私が一発、ぶん殴ってくるから、少し待って――」

「ダメだ! タクはやり過ぎるから、俺が――」


「アオちゃんにだけは、言われたくないなぁ」

「誰一人として失いたくないんだ」

 異世界転生撲滅部のミッション達成率は100%ではない。

 転生を阻止できなかったことだって一度や二度ではない。


「俺のことを『童貞』と呼んでくれたから。それだけでも守る価値があるだろう?」

 救助対象者に優劣はつけてはいけない。でも、俺個人のモチベーションの面では大きな影響を及ぼす。

 俺は名前も知らない女子高生を助けたい。



「……アオちゃん、『童貞』って意味わかっている?」

 タクがやれやれと頭を振った。


「勿論さ、散々、バカにされ続けてきたんだからさ――」

 

 童貞――それは、神を殺したことがない者の通称だ。辞書にだってそう記載されているはずだ。

 常識過ぎて、調べたことはないけれど。


 俺は神を殺したことなんてない。その点だけは譲れない。


「……あのね、アオちゃん。それ意味が違うと思うよ。『童貞』っていうのは――……」

「…………それマジ?」 

 穴があったら入りたい。未だに身動きがとれないのでそれはかなわない。

 あのやり取りを思い返しただけで、精神がエグられる。


「ははははっ」

 乾いた笑いしかもれない。


「アオちゃんは戦意喪失ということで、私が今から突貫します――」

 タクが軽く地面を蹴って、姿を消した。

 次の瞬間には、宙に浮く皆城静香の前に移動していた。


 まるで瞬間移動だ。仙術の一種らしいけど俺には到底使えない代物だ。


電光雷鞭スパークナックル!」

 紫電を纏ったタクの打撃が、皆城静香を地面にたたき落した。


 皆城静香は異世界の存在で、ただの水先案内人だ。

 タクが万が一にも後れをとることはないだろう。


 主神クラスと対峙すことなんてまずありえない。

 『異世界転生撲滅部』はあくまでも拠点防衛を主眼においているから。


 異世界に自ら出向きさえしなければ問題ない。


 でも、どうして皆城静香しかり異世界の住人とやらは、危険をおかして敵地までやってくるのだろう。

 ……対価に見合う価値があるから? そこまで必要とされれば、そこが異世界であっても居場所になるのだろうか。


 光の拘束が消えた後も、しばらく、その疑念が精神を縛り付けていた。

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