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54話 荒療治-2

 ガタッと物音。

 

『イヤ……イヤ……』

 バニカの声がする。目を覚ましたのか。


 何かがぶつかる音。ガシャンとなにかが割れる音。

 喜びよりも、不安が優った。


「――ノーマだいじょ……」

 壁際で膝を抱えて怯えるバニカ。

 散乱した陶器の破片に、水びたしのノーマ。


 ポタポタと緋色の髪から水滴がしたたり落ちている。

 拭いながら


「レアンいいところにきたのだ。バニカを押さえてほしいのだ」

「ノーマ?」

 外見はかわらない。小さな体躯も、細く白い指先も。

 違うところは一点だけだ。でも、その正体がわからない。


 自分の犬歯を指でなぞる。ノーマが言葉を発するたびに見え隠れするモノ。あれは、これと同じものだろうか。

 薄紅色。半透明でまるで光り輝く宝石のように美しい。


「レアン、早くするのだ!」

 ノーマが声を上げた。


「う、うんわかった。……バニカ落ち着いて」

 バニカが首筋を押さえて取り乱している。明確な意思表示。



「時間がないのだ。まだ、適量には至らない」

 バニカの首筋に穿たれた二つの穴。

 まだ、傷口が新しい。まるで、さっきつけられたみたいだ。


「ノーマ?」


「レアン、吾を信じてほしいのだ」

 疑う理由なんてない。

 頷いて、バニカにそっと近づく。


 バニカは一瞬だけ表情を和らげたけれど、触ろうとした瞬間また暴れだした。

 半ば強引にバニカの肩を抑える。


「イヤ!」

 じたばたと暴れるバニカ。一瞬でも気を緩めれば拘束は解かれてしまうだろう。


「ノーマ、長くは持たない! はやく」

 ノーマが近づくとバニカの抵抗はより増した。


 打撃の痛みなど恐れず、ノーマが腕の隙間から、バニカの首筋に肉薄し。

 そして、口を開いた。宝石のような犬歯が煌めいた。


 牙の先端が肌に到達する寸前、目を閉じてしまった。

 その隙を突かれた。今までとは比べ物にならないような抵抗。


 膝が鳩尾にめり込んだ。


「ガハッ……」

 痛みで立ち上がれそうにない。


「レアン!?」

 ノーマ越しにみえるバニカは、項垂れて動きを停止させている。

 あの一撃が最後の抵抗だったのだろうか。


 ノーマが好機とばかりにバニカの首筋に手を伸ばす――

 強い匂いがする。言葉では言い表せない匂いだ。


 理解できない。単純に怖い。畏怖。絶対的な強者。どこかで……どこで?


『妾のカワイイ御子』


 突然の記憶の蓋が開かれた。


「ノーマ、離れて、早く!」

 ビクッとノーマが身体を震わせた。


 ――バニカが徐に顔を上げた。

 純白のウサギ耳が淡く光っている。


 見とれてしまう。緩慢な動きで、ゆっくりと左腕を持ち上げるバニカ。

 その手先で緋色の少女が悶えている。

 

 華奢な両の腕でバニカの美しい指先を引きはがそうとしている――


「……ノーマ!?」

 まだ意識が混乱している。どうしてバニカ――神に逆らう必要があるのだと獣人の自分が訴えてくる。


「……今……助ける」

 疑念も誘惑も断ち切って一歩を踏み出す。


 その反抗心に気づいたのか、神はノーマを投げ捨てた。


「ゲホッ、ゴホッ、ゴッホ」

 咳き込むノーマ。罪悪感。どうしてすぐにノーマを助けられなかった。

 苦しむノーマを守るため神――バニカと向き合う。


「……やったのだ……レアン」

 ノーマがよろよろと立ち上がる。


 バニカはその様子を澄んだ瞳で見つめている。


【無知蒙昧な愚者よ】

 バニカは声を発していないのに、頭の中で声がする。

 悪寒がゾワリと背筋を走り抜けた。


「さっさとバニカを助けて消え失せるのだ、マコラ神」

 臆することなくノーマが凛とした声で告げた。


 マコラ。

 それはキリク族の守神――十二神将が一柱の名だ。 

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