異世界転生撲滅部 クラス転移阻止-1
「あのう……」
JKが声をかけてきた。上目使いで、、まじまじと見つめられた。
邪魔くさい前髪越しにも、その純粋そうな瞳が見て取れる。
放課後の学校。差し込む木漏れ日が俺達を応援しているような気がさえする。
年下はあまり好きではないけれど……。
「何か?」
「そこをどいてほしいんですけど」
どうやら下駄箱に用事があったようだ。
「……すいません」
慌てて、身体をスライドさせた。
慌てたせいもあって、後方からやってきたユニフォーム姿の男子高校生とぶつかった。
「チッ、邪魔だよオッサン」
舌打ちに悪態。ぶつかった俺も悪いけれど、ひどい言われようだ。
「すいません」
青いツナギの作業服。掃除用具片手に、一日、清掃やら軽微な補修作業となにかと忙しい。
一週間働いてわかったこと、それは、お金を稼ぐのは大変だということ。
俺の立ち位置は、派遣社員。午前八時から午後六時まで二人体制で業務をこなす。
ヤンチャな学生にからかわれたり、受験勉強で心身共にすり減らしている学生に罵倒されたり、ストレスを抱えた教師に上から目線で嫌味を言われたりと刺激には事欠かない。
高校生活なんて送ったこともないから、何もかもが新鮮に映る。
先程、話しかけてきたJKが友人らしきもう一人と入口付近で、話し込んでいる。
もしかしたら……隠れイケメン発見とか盛り上がっているのかも。
なんて、ピンク色の妄想をしてみる。少しは人間らしいだろうか。
同僚の国上悟の願望は、多少、歪んではいるけれど、好感がもてる。
仮定の話だけれど、俺が何もしなければ、国上悟は異世界転移物語の主役になったのかもしれない。
生意気な年下を見返し、JK――女子高生に尊敬される。
「どうしました、透明さん」
「……えっと」
一般人に名前を呼ばれたので、困惑してしまった。
どうせ、忘れられるのだから、偽名を使う必要はないとの考えが仇になった。
白衣にウェーブのかかった亜麻色の髪。保険医の皆城静香。
美人で国上悟が好意を寄せていたりする。
「気にすることないですよ。女子高生の異性をみる目なんて大したことないんですから」
微笑む皆城静香。相当な美人なのはわかる。
「えっと、あの二人が何か言ってました?」
「聞かないほうがよいと思いますけど」
そこまで言われたら知りたくなる。
「是非教えて下さい。クレームとかであれば会社に報告しなければいけないので」
会社のマニュアルで、些細なことでも報告しろと書かれているのは嘘ではない。
「そこまで言うのなら――」
皆城静香が一拍おいてから
『大丈夫?』
『こわかった……たぶん、童貞だよ。目がキョドッテいた』
『こわっ、みんなにラインしなきゃ、用務員2号は変態だって』
声真似のクオリティーが高い。皆城静香は元女優とかなのかもしれない。
「……あんな小娘の戯言、気にするする必要なんてありませんよ」
「…………」
「透明さん?」
「何で、俺が童貞だって知っているんですか!? もしかして、彼女は特別、でも、何の力も感じないし。そこから導かれる答えは!」
久方ぶりの高揚感。いや、いや俺の読みが正しければ……。
単純に、俺の視野が狭かっただけで、俺は逸脱なんてしていないことになる。
「あのう、その、えっと、そう言うことはあまり口になさらないほうが……」
「皆城先生も童貞の意味がわかるんですか!?」
ほら、やっぱり童貞は裏の世界の言葉ではないんだ。
「ですから、あまり大声でそんなことを」
「――俺って色々と特別視されていまして、誰にも童貞だって思われないんですよ!」
二重の意味で嬉しい。第一、普通だと考えていたものはただのまやかしだったということ。
だって、『童貞』って言葉を普通の高校で耳にできた。
第二は、俺が『童貞』だと思われていたことだ。
「失礼します」
唐突に、会釈をし、足早に去って行く皆城先生。もっと話したかったのに
何故だか、話を漏れ聞いた学生連中が、白い目で俺を見咎めていた。