44話 バニカ-1
「適当に座るのだ。散らかっていてすまぬ」
天蓋つきの寝台。『ラフィテール』に間借りしている自室と同じくらいの大きさだ。
染み一つない純白の布地。
家具なんかは、ほとんど……というか何もない。
部屋の中央に寝台がポツンと配置されているだけだ。
「おおっ!? ――フカフカだ。二人ともこいよ」
ラヒィが寝台の上で飛び跳ねている。
「――おっ、ラフィは天才なのだな。このような使い方があったとは」
二人がキャッキャッと笑い合っている。何だか見ていることが後ろめたい。
「ほら、早くこいよ」
「でも……」
「何をしておるのだ、レアン。まだ十分に余裕はある。窮屈な思いはしたりしないぞ」
「別に、狭いからとかって理由じゃないんだけどな……」
頑なに拒絶する理由もない……ないはずだ。
恐る恐る、純白の布地に足を踏み入れた。
「どうだ? フカフカだろう」
得意げにラヒィが言った。
「ラフィのじゃないだろう」
「どうしたレアン、もしかして緊張してんのか?」
「どうして緊張する必要があるんだよ。別に、何も感じない」
「残念なのだ。レアンは何も感じないのだな」
ノーマが俯いた。
「えっと、それは言葉の綾で……別に何も感じないってわけじゃないけどさ」
家族は別として、異性の寝室なんて、足を踏み入れたことはない。
けど、ノーマはずいぶんと年下だ。だからそういう感情ではなくて、もっと純粋な……。
思考がよく纏まらない。
「そうか。それは良かったのだ。ただ冷たく、嫌いで仕方がなかったこの場所もレアン達と一緒なら温かいのだ」
「……ノーマ、カワイイ奴め――」
ラヒィがノーマを抱きしめて、わしゃわしゃと頭を撫でた。
「やめるのだラフィ。くすぐったいのだ」
「おう、敏感だなノーマちゃん。ほら、特別にアタイの尻尾を触らせてやろう」
「……すごいのだ。思っていたより硬いのだな」
「うっ、あんまり変な触り方をするなよ」
顔が熱い。ドクドクと下半身に向かって血が流れている音がする。
「――そろそろ、バニカの話をしないか?」
「…………」
ラフィが動きを止めた。
表情がみるみる内に曇っていく。
今まで、だいぶ無理をして気丈に振る舞っていたのかもしれない。
「バニカがどうしたのだ?」
ノーマがラフィの右手の甲をやさしく握った。
「……バニカがいなくなったんだ。アタイ、必死に探したんだ、でも、見つからなくて、ゴラシの外の話になればアタイは無力だ。だから、レアンとノーマに会いにきたんだけど、本当にごめん、迷惑をかけつもりはなかったんだ」
捲し立てるラフィ。
色々な感情が綯交ぜになって自分でも制御できていないようだ。
「ふむ、バニカは姿を消すのは今回が初めてなのだな?」
ノーマが顎に手をあててなにやら思案している。
「えっと、前にも数回あったんだ、でも、ニ、三日で帰ってきていたし……。でも今日でもう七日目だ――」
ラフィの説明は要領を得ない。それに聞いていてどうしても違和感がある。




