異世界転生撲滅部 コンビニ転移阻止-2
「ウェー、プリン、プリン」
鼻提灯を割ったばかりの耳垂れ中型犬――ロンがちぎれんばかりに尻尾を振っている。
「疲れて帰ってきた家族にに向かってなんだそのセリフは? ロンは鬼畜犬だよな」
ところどころ骨が折れて、内臓だってグチャグチャだったりする。寝れば治るけど。
精神的、ダメージは中々回復しない。
もうあの日常を味わえないと思うと口さみしい。タバコの銘柄をおぼえられないくらいで怒る客とか。
立ち読みしまくる客とか。
「また、お払いバコ?」
「人聞きが悪いな。俺は別に部活動の一環でコンビニ潜入していただけだし、いや、たしかにあれは尊い労働の時間だったな」
最後はバットエンド過ぎて笑えるけど。
そりゃ、異世界への扉が開いただけでも衝撃的なのに、それを血みどろになりながら阻止する陰キャとか価値観が崩壊してもおかしくはない。
でも、最後の言葉は受けた痛みを帳消しにしてくれた。
『……ありがとうございます、山田さん』
『――山田さん、今度、飲みに行きましょうね! 俺、待ってますから』
総じて適応力とコミュ力が高いカップルだったな。
「て、山田って誰だよ!」
「気にすることないワン。どうせハクあたりが記憶をいじるはず」
「だったら、ちゃんと名乗っておけばよかったな」
二人の記憶に少しでも残れた嬉しかったのに。
今回のようにピンポイントで特定の人物を狙う場合だと、能力値が高い人間が狙われやすい。
経験則上、学校とか街とか狙われる場合には、数を打てばあたる方式なので、事後に多少嫌な思いをすることがある。
命がけ?で助けたのに
『何で邪魔しやがった。チート能力がもらえるところだったのに!』とか
『……ひっ…近づかないで、バケモノ!』
そんなんじゃ、異世界なんて夢の又夢だぞって……さすがに言いはしなかったけど。
でも異世界転移に、転生か。あたらしい場所であたらしい人生か。
現実逃避ではあるけれど、少しは興味がある。
部活動の一環で手渡された有害図書――俺TUEEE系ハーレム異世界転生小説。
まだ読みかけだけど、夢がある。
何より現実ばなれしている点――俺が興味をそそられるのは力に何らの代償も責任も伴わないことだ。
強くなればなるほど、狂えば狂うほど。自由はなくなるものだから。それが世界の理だ。
本腰を入れて現実逃避してみようか。
「むしょくドン、むしょくドン。ワシ、プリンが食べたい気分」
「疲れているんだって、第一俺は無職じゃない。ロンの代理で部活動に参加しているだろう」
「それ、趣味。社会人はお金を稼ぐモノ!」
「ぐぬぬぬっ……ぼかあっ、ビジネススキルなんてもちあわせてなぃんです~小卒なめんなぁよぅ」
実際には、高等教育は受けている。ただし、それは世界の裏側の話で、普通に働く知識なんて教わっていない。
「しょうがねぇな――ワシと一緒に動画職人になるワン」
動画投稿サイトワンチューブ。運営会社はドックポスト[犬正義が全株出資している]。
人間向けの変換配信も行っているが、視聴者はもっぱら飼犬だ。
ロンは一攫千金を夢見てより稼ぎがよい人間向け配信にこだわっている。
【飼主をほめちぎってみた】
アクセス数12
【飼主をマジ泣きさせてみた】
アクセス数 150
『ピキ~ン、ひらめいた』
【飼主にまじ噛みしてみた】
アクセス 数47
『ウエー、おかしい……』
【飼主を驚かせてみた】
アクセス数101
『これだ!』
【飼主の歯を抜いてみた!】
アクセス数 210
悪ノリ+過激になっていき、最後は視聴禁止に陥った。
俺の前歯を奪って、装着、ビーバーモードと称して、近くの小川に堤防をつくる動画はおもしろかったけど。
とんだ黒歴史だ。
さすがのロンも反省して、今では、ほっこり路線に落ち着いている。
そっちの方が人間にうけるからという考えに起因しているわけだけど。
たまに人間界に流出する動画が波紋を呼んだことは一度や二度では済まないけれど。
「さすがに疲れた。一眠りするわ」
「おやすみ。ワシ、小学校に行く時間」
「もうそんな時間か。リョクも起こさないとなっ」
「ワシが起こす。さっさと寝るワン」
「ふわぁぁ~い」
あくびを噛み殺す。
寝室でベットに寝ころんだ。中々寝付けなくて、テレビのスイッチを入れる。
『――現場から中継です』
謎のガス爆発、田舎のコンビニ大爆発!
笑えないテロップが流れた。
死人やけが人がでなかったからといって、少しポップに流し過ぎなような気がする。
新進気鋭の評論家が超常現象がどうかとコメントしている、
「正解なんだけど……」
周りは一様に冷ややかな笑みを浮かべている。
等の本人もニヤニヤしているので、パチもんなんだろうけど……zzz
『〇▽□$%――……』
いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
夢をみたような気がするけど……相も変わらず眠りが浅い。