神話 人外ユニゾンスキル
「ダーリン、すごーく気持ちよかったよ。もう一回、ねぇ、もう一回」
「……ダメだ。罪悪感で三度は死ねそう」
恍惚の表情で、シャツの袖を引張りながら、再度の合体をおねだりしてくるフローゼ。
外見と言動が一致していると、ふとした瞬間抱きしめたくなる。
極採色を内包する金髪も、金縁の赤瞳も関係ない。
保護欲をそそられるというか。単純に守りたいと思う。
「ワンモア!」
「もうやめよう。次はきっと半壊ではすまない」
カーテンの向こう側は、大草原だった。
青々しい低草が、そよ風に揺れていた。澄んだ青空と白い雲。
何も考えずに寝そべってうたた寝したかった。
一種の理想郷。それが今では――
「心配しなさんな、ダーリン君。フローゼちゃんがもう一回、VRMMO世界をを創って差し上げます」
両手を組んでポキポキと指を鳴らすフローゼ。
VRMMOか。よく知らないけど、バーチャルリアリティな世界に五感ごと移行するんだよな。
なんだか怖いな。現実が何だかわからなくなりそうだ。
フローゼは、俺と再び合体するために疑似世界を構築し直そうとしている。
近未来の技術VRMMO――人がつくりだす世界と超越人外が作り出す疑似世界――神域に差異はあるのだろうか。
「いっーくよー」
フローゼが手を合わせて何かを口ずさむ。その様はまるで神に祈る聖女のようにみえなくもない。
景色が、流れた雲が巻き戻る。虫食いだらけの空や大地が、徐々に修復されていく。
澄んだ青空。でも、最初の感動はもはやない。散々蹂躙された世界が、強引に巻き戻された。
この世界に人格があるならば、痛みや恥辱にまみれて震えているはずだ。
「さあ、再びの合体だよダーリン」
「何回やってもタイミングが合わない。俺がこらえ性がないのがいけないんだけども……」
「今度は私がリードする。ダーリンは何も考えず、熱いものをあたしにぶちまけて」
本当に甲斐性がないな俺は。
「了解、手加減はできないからな」
「無問題。さっさと、きなさい」
熱く白いもの。今度は上手く出せるだろうか。
注意しないと火傷してしまう。
イメージしろ。俺は炎術士、炎の化生に愛されし者。
今度は、1300度の壁を越えてみせる。
そして、開眼
「煉炎龍波ッ!」
うねり渦巻く火流がフローゼめがけて突き進む。
「メガーミー暴風MAX!」
上空めがけて狂風が吹きすさぶ。
上空めがけて立ち昇る白炎柱。偽物の空を突き破る勢いで、荒れ狂う轟炎の竜巻。
「――今度は上手くいったみたいだな」
これだけ派手なら目標達成だろう。
最初の数回はそこを理解していなかったから、危うかった。
「威力はイマイチね。派手な攻撃がチヤホヤされるのってフィクションの中だけだし」
「最初の一撃はかなり凶悪だったもんな」
「私の超絶神聖とダーリンの究極混沌属性のハーモニー。名付けて二人の愛の証――」
一回目のあれは、完全の毒属性だと思う。存在に食らいつく悪性。
それにしても、属性が混沌とかさらっと言わないでほしい。俺はガチガチのノーマル属性だってばよ。
「――言い出したのは俺だけど、楽しかったか?」
合体技。単純に格好がいいし、格上の相手を絆の力で撃破する。大いに夢がある。
白状すれば少年漫画に影響されている。
『ここは、俺達が何とかするから先に行け』
主人公とヒロインを先に進ませるために、勝ち目のない敵に立ち向かうサブキャラ。
そのポジションくらいが丁度いい。
世界を救うとか。正直、胸やけする。英雄なんてそんな業、背負わなくていいならそれに越したことはない。




