37話 貴族屋敷での新生活-3
「そのなんだ……二人はつきあったりしているのか?」
ラヒィの様子がおかしい。
「そっーかー」
バニカは通常運転みたいだけど。
『ラヒィテール』まで拍子抜けするほどすんなりと来られた。
高位騎士には見つからなかったけど、使用人仲間には目撃されてしまった。
一人の時は会話があるのに、ノーマと二人の時はあいさつすら無視されるから、無論、止められはしなかった。
ノーマの緋色の髪は人目を引く。
外に連れ出すまで、そのことを失念していた。
すぐに荷物入用の布地をノーマの頭に巻いたけど、ちょっとした騒ぎになってしまった。
緋色の髪は珍しいのだろうか。
「そうだな、今のところ良好な関係を築いておる」
「そうなのか?」
「まあ、ノーマといると楽しいよ」
少し歳は離れているけど、親友だと言っても差し支えないと思う。
「……そうか」
ラヒィが項垂れてから、顔を上げた。
「幸せにしてやれよ」
ぎこちない笑顔。やっぱりラヒィの様子がおかしい。
そういえばノーマの様子も少しおかしい。
頭に巻いた布地を優しく撫でたり、鼻歌まじりに結び直したりしている。
「ノーマ、もう外しても大丈夫だよ」
「いや、もう少しこの贈り物を堪能するのだ」
別に肌触りが良いわけでも、綺麗な刺繍がされているわけでもない。
頑丈さだけが取柄な布地。荷物を運ぶ時に重宝する。
あげたつもりはないけど、ノーマが喜んでくれるなら。
「贈り物? レアンとはそこそこ長い付き合いだけど、アタイは一度ももらったことないぞ」
確かに色々とお世話になっているけど、何かをラヒィに贈ったことがあっただろうか。
「おはな、いるぅ?」
バニカの耳がピョコピョコと揺れている。
「違う。アタイは別に物がほしいわけじゃ……」
ラヒィの声が震えている。バニカがポンポンとラヒィの背中を優しく叩いた。
「すまぬ、少しはしゃいでしまった。それにしても――」
ノーマがやれやれと頭を振った。『鈍感』とはどういう意味だろう。
「――ラヒィ嬢、よければ吾の友人になってはくれまいか。バニカ嬢も一考してほしい」
ノーマの声が少しだけ上ずっていた。
使用人に無視されても、上位騎士に叱責されても動じないのに。
「……アタイはくるもの拒まない。レアンのつれなら、大歓迎だぜ」
いつもラヒィに戻ったみたいだ。
「おはな、いるぅ?」
「バニカ嬢も承諾ということでよいのだな――。やったぞ、レアン。吾には三人も友がおるのだ」
小さな指先で宝物を数えるように、順番に名前を呼ばれた。
年相応な笑みを浮かべるノーマ。
連れてきて良かった。
「友が三人? ……ちょっと待て、レアンとノーマは付き合ってんだろう?」
「何を勘違いしておるのだ、吾とレアンはマブダチという奴なのだ」
「なんだよ、おい、アタイの落ちこみ損かよ!」
「ラヒィ、嫌なことでもあったのか? もしかしてまた――」
以前丁重にお帰り頂いた客が仕返しにきたのかもしれない。
「「はあっ~」」
ノーマとラヒィ、二人のタメ息が重なった。
「おーは・ないるぅ~?」
バニカが眠たげな表情で俺の顔をのぞきこんできた。
目を少しほそめているような気もしなくもない。
「バニカ、ノーマ、今から女子会やろうぜ」
「何なのだその蠱惑的な響きは?」
その後は、買い出しを命じられたり、料理をつくったりと忙しい休日だった。
でも、とても心が安らいだ。この日常――帰る場所があれば明日からも頑張って働けそうだ。




