異世界転生撲滅部 コンビニ転移阻止-1
深夜のコンビニ。バイトの7日目。
夜は一人体制になる。
「おつかれっした~」
茶髪にパーカー。気さくな好青年――青山君は大学二年生らしい。
年上の俺にも嫌な顔せず色々と教えてくれる。
「おつかれさまです」
彼の後ろ姿が、二重に見えた。
見間違いだろうか。
「そうだ、今度飲みに行きません?」
唐突な申し出だった。
「いいけど、俺と話したって大しておもしろくないと思うけど」
「そうっすか、俺はけっこう楽しいっすけど。二人が嫌なら、安東も誘いますよ」
安東――夕方勤務の女子大生だ。彼女も面倒見がいいんだよな。
普通に社会に適応している年下と接すると心がざわつくのは何故だろう。
「わかった」
「やったー。そうだ山田さん連絡先教えて下さいよ」
「……ごめん、俺スマホもってないんだ」
類似品は持っているんだけど、人間の連絡先は一件も入っていない。
ぼっち過ぎて笑える。
「えっと……」
そりゃ困惑するよな。今時、スマホも持っていないなんて……。
♪♪♪♪♪
懐かしの着メロ。薄ぺらい和音が逆に斬新に聴こえなくもない。
ちなみに、楽曲はイヌのおまわりさん。
♪♪♪♪♪
一向に鳴りやむ気配をみせない。
致し方ない。ジーンズのポケットから端末を取り出す。
「もしもし」
『……――』
「了解」
「……山田さん、それめっちゃかっけーですねぇ。どこで買ったんですか?」
目を輝かせている青山君。
「非売品だからどこにも売っていない」
めげない青山君を冷たく突き放す陰キャの俺。
必要以上に仲良くなるなと釘をさされたばかりだ。
「そっすか……じゃあ、来週の火曜日、飲みに行きましょう!」
好感度MAXだよ青山君。
「それじゃ、おっかれしたー」
外にでた青山君を目の端で追っていると、人影が青山君に接触を図った。
一瞬、ぎょっとしたけど、あれは安東さんだ。
こんな寒いのに、マフラーを巻いて、顔を赤くしている。
シフト上がりから二時間はたっている。青山君を待っていたんだろう。
まぁ、知ってはいたけど。三人の時間帯は正直、しんどかった。
それも今日で、終わりだと思うと少し寂しい気がする。
お手製のチョコレート、告白するにはもってこいの日だ。
照れくさそうに頬を掻く青山君。
飲み会はご破産かとすこしがっかりしている自分がいる。
普通の人と触れ合える機会なんて、そうそうないから、あれやこれや話してみたかった。
……思ってみたりして、俺は人間ごっこが大好きらしい。
急に空気が重くなった。喉がひりつく。空気が辛いような気がする。
安東さんの顔が二重にダブる。
二人を中心に空間が不安定になっている。
対象は、青山君だけではないのか……。
♪♪♪♪♪
イヌのおまわりさん。
「はい、はい了解ですよ」
ヘッドセットを装着。コンビニの制服は脱ぎ捨てて、また拾った。
アルバイトが一週間も続いた記念だ。こっそり拝借しよう。
二人の頭上で青白い幾何学模様が展開された。人払いも抜け目がない。
突発的に行われる異世界転生や転移なんてあり得ないのだと再認識させられる。
今回が本番ということだろうか。今までのようにすんなりとはあきらめてくれそうにない。
「さぁ、始めようか。イカレタ部活動を」
反応しない自動ドアを蹴破って、表に転がりでた。
今回は、女神か魔王か。それはまさに神のみぞ知るだ。