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34話 出会い

 広大な敷地。自分の身長の倍はある正門を遠目から眺める。

 緋色の装束を身に纏った上級騎士ハイパラディンが長槍を片手に佇んでいる。

 数は二人。


 近づくについれて、不必要なほど凝視された。


 いつもの格好で、外出しようとしたらラヒィに咎められた。

「これを着ていけ」とラヒィに強引に衣服を押し付けられた。


 紺色の上着、茶色のズボン。継ぎあてのない新品の服。

 ところどころ糸がほつれていて、右袖と左袖の長さもちぐはぐだ。


 でも、この服より価値がある衣類なんてゴラシ地区いやパラディソスのどこにもありはしない。


 疲れた顔ではにかんだラヒィ。酒場の端でうたた寝していたバニカ。


『アタイ達は何があってもレアンの味方だからな』

 俺にはちゃんと帰る場所がある。


「あのう、ここにくるように言われたのですが……」

「……騎士希望か。ならその汚い身形から整えろ」

 抑揚のない声で言われた。汚い?


「冗談はやめろ。希望を持たせるのは酷だぞ。あれだ例の、朝礼で話があっただろう」

 二十代半ば。長身で服の上からだって鍛えていることがわかる。

 金髪と刈り上げた茶髪。上位騎士ハイパラディンということは第3階層サード

 

「使用人か、ならその汚い身形も納得できる。大方、ゴラシ地区の住人だろう」

「レフイ、獣人嫌いも大概にしろよ、中には良い奴だっているんだからな――」

 金髪の方は、獣人に対して偏見がないようだ。


「――無能なゴラシ地区の人間は害悪でしかないけどな」

 金髪がはははと豪快に笑った


「同じ人間だ。弱者を守るのは強者の務めだ」

 今度は茶髪がフォローにまわった。


「ゴラシの、名はなんと言う?」

「レアンです」


「レアン、その獣臭い服は捨てろ。でなければ中に入れることはできない」

「そうだぞレアン。お前はもう負け犬じゃない。そんなもん身に纏うと考えただけで吐き気がする」

 金髪が白色のシャツ差し出してきた。折りたたまれた、黒を基調とした使用人の制服が次に控えている。


 獣臭い? 負け犬? 犬歯が下唇に食い込む。ダメだ我慢しろ、我慢。


「――お前たち何をしているのだ?」

 凛とした声がして、無意識に顔を上げた。

 門の向こう側で、少女がこちらの様子を窺っている。歳は十歳前後、緋色のツインテールが揺れている。


 粗末な格好をしている。所々破けて、薄汚れている。脇に置かれた大きな木製の籠。

 そこからはみ出す白いシーツや衣類の山頂。


 どう考えたって使用人だろう。第四階層ファースの屋敷ともなれば使用人ですらこれほどの存在感を持っているのだろうか。


「なんだノーマ、さっそく新人いびりにきたのか?」

「なんじゃと! 吾はそんなことせぬ」

 金髪がからかうように笑った。


「ノーマ、分をわきまえろ」

 茶髪が低い声でたしなめた。


「そうすごむでない。吾はちゃんとわかっている、自分は卑しい下賤の者だとな」

 どうしてこの少女から目をそらせないのだろう。


「そろそろ巡回の時間だな。あとは任せたぞノーマ」

 金髪が茶髪を伴って門前から離れた。


「お主、名は?」

「……レアンです」


「そうかレアン。その服とても似合っておるぞ。あいつらの目はまったくもって節穴だな」

「……ありがとう。君は一体?」


「吾はノーマ。ただのノーマ。洗濯はようやくできるようになった。飯炊き、裁縫は絶賛特訓中なのだ」

 先程まで抱えていた怒りが嘘のように消えた。


 不思議な少女――ノーマのおかげで新生活が始められる。この調子では先が思いやられるけれど。


 


 

 

 

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