27話 女神との邂逅-1
「ダーリン、久しぶり」
景色が一変した。大理石の床、差し込む陽光。
玉座の上で、気怠そうに足を組んでいる少女。特異な瞳がとても印象的だ。
黄金のリングに、ビジョンブラットよりも美しい至上の赤色。
金色を基調とした髪には、緋色、水色など複数の色が内包されている。
まさに極彩色。
そんなものは添え物に過ぎない。せいぜい十代半ばにしかみえない外見をしているのに
滲みだす風格が、俺の五感を必要以上に刺激する。
存在の全てを捧げたい―― 彼女に喰われたい。……でも、彼女に選ばれるはずもない。
ああっ、死にたい。彼女の寵愛を受ける者が妬ましい。彼女の記憶の片隅に残れるならなんだってする。
取り留めもない感情が烈火のごとく身体を焦がす。
ポタポタと地面に赤い点が生まれた。不快な色だ。こんな色を生み出す俺はどこまでも醜い。
「ああっ、もう。ダーリン、早く擬態を解かないと消滅するわよ」
……それは嫌だな。
「……フローゼ、どうしてここに?」
違和感を感じて目頭と鼻回りを袖で拭った。結構な出血量だ。
「ダーリンたら、人間ごっこが好きなのはわかるけどさぁ。自分のハニーと会う時くらい趣味は自嘲してよね」
フローゼが音もなく近づいてくる。恐れを感じたけど、それも一瞬のことだった。
フローゼが俺を見上げながら頬を膨らませた。情動を多少は刺激するけれど、あざといなと単純に思う。
「ずうっーと会いたかったんだよ。こんな時じゃなきゃ二人きりになれないなんて、なんか彦星と織姫みたい」
と微笑むフローゼ。
「さっきの寸劇は何だ? また、新しい玩具でもみつけたのか」
「なに、その顔、私はただダーリンに会いにきただけだもんね。今回はなーーんにも悪いことしてないも~ん」
フローゼが俺の右腕に抱きついてきた。
「フローゼ」
語気を強めた。フローゼが悪神ではないことを知っている。ただ、人間の物差しで測った時に、純然たる善性かと言えばそうでもない。
いくつかの奇跡は認めるている、けれど逆に彼女が巻き起こした悲劇を肯定することもできない。
「……悪気があったわけじゃないわ。ただ、信徒――部下にダーリンに会いに行くって話しただけ」
「それが星水ミハルか。彼女は何を抱えている?」
「もーっ、二人きりの時に、他の女の話なんてしないでよ。嫉妬で神罰が発動しちゃうかも」
「フローゼ」
フローゼが身を竦ませた。どうせ、演技だろうけど。
「……そんなに怒らないでよ。身勝手理由で有能な部下を壊すほど、私はバカじゃないわ」
「フローゼが人を褒めるなんて珍しいな」
「特定の誰かを優遇するなんて立場的によろしくないんだけどね。まぁ、彼女は女神神託の第七席だしね――」
女神神託は世界維持を目的とする組織。フローゼはそこのトップだったりする。
「――こと異世界に関する斥候力だったら第三席のアポロちゃんすら凌駕するのだもの。人の執着心はすごいわ」
フローゼが一人で納得している。




