正しい生贄の選び方-2
「ん? ここは」
生臭さは皆無。青白い空間に大きな宝玉が浮かんでいる。
そこの突き刺さっているのは、両手剣。
宝を守る竜か。生贄とは名ばかりで、剣の持主にふさわしい存在を探していた。
そう考えればいくぶんかましにも思えなくもなけいけれど。
普通に死人がでている。藁をも掴む思いで、こん場所まできたのだろうけど。
誰かを異世界に連れさろうとした時点で、善性とは言い難い。
滅びる定めを覆すため。例え大義名分があったとしても無理やりは頂けない。
「――だったら俺が救ってやりますよ」
こんなシチュエーション。誰だって憧れないわけがない。
柄に指先が触れた瞬間。伝説の宝剣が爆散した。
砕けた刀片が身体につき刺った。
「えっと、自分の命を顧みない仲間想いの勇者――そんな変態を求めていたんですよねぇ。またですか? 出ましたよ人外差別――」
気づいた時には、水面にプカプカと浮いていた。透き通った水が赤く濁っていく。
誰だよこんな公害まき散らすのは……。
「嘘だよな……」
水際に茫然と立ち尽くす学ラン姿の少年。
「……死んでるの?」
涙ぐむ女子高生。役得、役得。
「今、動かなかったか?」
「本当?」
ブラウスが透けるのもかまわず、入水する女子高生陰陽師。
「待って。あんな状況で生きているほうがおかしい。もし、人外の類であれば無闇に近づくのは危ない」
危機意識が芽生えて、警戒するのは、うむ、よしとしよう。でも、命の恩人を無下にするのは人としてどうかと思う。
死んだフリだ。死んだフリに徹しよう。綺麗な思いでのまま別れたい。
「――アオ、アオ。ワシ、怒ってます。ウナギカバヤキがなくなった」
容赦なく傷口の上に着地したロン。
「アワッ、どうして死んだフリ、中二病?」
「……人語を操る犬、思い出した。……逃げるぞ、二人とも」
「急にどうしたの!?」
「あれは人の形をした――」
…………
静まり返った水面。
「なぁロン。泣いてもいいかな」
「情緒不安定?」
「いや、通常運転だけどさ。あいつら本当にまだまだだなってさ」
何も血相を変えて逃げることないのに。少なからず傷つく。
……何が傷つくのだろう。そもそも傷つくものなんて残っているのだろうか。
「そろそろ帰ろうか」
「カバヤキ、所望」
「パンガシウスをスーパーで買って帰ろうか」
「ウェー、それ何?」
「なんだろう。良く知らないけど。味が一緒なら問題ないだろう」
「たしかに」
そうして、帰路についた。帰り道が悪路だったことは言うまでもない。
愚痴り始めたロンが、耳をばたつかせて一人で夜空に逃げようとしたので、細い後足を掴んだ。
一瞬の浮遊感のあと山の斜面をゴロゴロと転がった。結果的に時間を大幅に短縮できた。
今日の教訓。異世界よりの使者は人外にはめっぽう冷たい。耳で空を飛べるのは象だけ――イヌコプターは欠陥品。
あとパンガシウスは普通に美味。