26話 何度めかの死
「はあっ!?」
……ここはどこだろう。
どうして俺はここにいる?
窓の外には飛行機雲。枯れ始めた銀杏の木から、葉が一枚また一枚と落ちていく。
窓は閉まっているのに、集団でウォームアップに励む坊主頭の野球部員の掛け声が聞こえる。
ハードルを飛び越える女子陸上部員。それを羨望の眼差しでみつめる男子部員達。
ありきたりの日常がここにはある。
俺はここの生徒なのだろうか。
堅いパイプ椅子。古めかしい長机。本棚に収まりきらない蔵書。
読書部、古典部、もしかしたら吹奏楽部かもしれない。
「人が死なない系のミステリーとかだったらいいなぁ」
「それがアナタの願望ですか?」
「ん?」
俺の対面に紺色のブレザーを身に纏った少女が座っていた。
ショートボブの黒髪に、黒縁メガネ。小柄な体躯だ。
でも、どうして今の今まで気づかなかった。いくら注意力散漫だったといっても、この隙が命とりになることだってある。
猛省しなければならない。
「どうしたんです? そんな難しい顔をして」
「いや、突然のことに動揺しているというか」
「しっかりしてください。早くしないと生徒会長がきてしまいます」
「そっか……そうだよな。早く文化祭の出し物を決定しないとな」
そうだ。俺はこの星上高校の文学部に所属している。
部長は、ネコ被りのリア充美少女なので、俺とメガネ少女――星水ミハル
は二人で廃部の危機を乗り越えなけれなならない。
「ふふっ」
星水が屈託なく笑った。俺の記憶では彼女がこんなに感情を表にだすのは珍しい。
「どうした?」
「どうしたって、だって、アナタの格好がとてもちぐはぐなものだから、つい」
「格好?」
視線を下ろす。これは……礼服?
「その燕尾服とても似合っている。たしか、魔術師の正装だったかしら」
「何を言っているだよ星水……あっ、そういう設定か。たしか、きっと、そうだ、これは部長に無理やりに着させられたんだ」
「茶番は御終い。透明アオト、アナタはとうの昔に壊れている。その欠損は未来永劫埋まることはない」
「…………管理者様のお出ましってわけですか」
「本当にアナタはおろか。でも、とても愛おしくて――」
星水が身を乗り出して、白く柔らかい手で俺の頬に触れた。
「――とても美味しそう」
金縁赤眼が俺をまじまじと見つめている。




