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犬話 異世界転生撲滅キャンペーン-5

「忌憚ない意見を頼む」

 とエウジアナ。


「カオスすぎるだろう」

 と八太郎。


「素晴らしい。エッジの効いたオマージュ。元ネタがしっかりしているから、見ていて安心感がある。何より、あのキュートドックが素晴らしい! 教官殿もそう思うでしょう?」

 何故だか誇らしげに語る小龍シャオロン



「否定するわけではない」と前置きした上で、エウジアナが忌憚ない感想を述べ始める。


「正直、意味がわからん。『異性転生など言語道断』だと言いたいのだろうが、その意図が全く伝わらない。そもそもあの地球儀に扮した犬が気に食わない」

 突然の毒舌に八太郎は慄き。

 小龍シャオロンは、伏し目がちに視線を反らした。



『……あれっ! 僕もしてみたいっ! あれって、バンジーシャンプーっていうでしょう』

 と興奮気味に尻尾を振る小豆。


『シコルって何?』

 とキョトンとしているピース。


「ほら、ジャーキーやるから少し黙ってろ」

 ピースと小豆がジャーキーを頬張った。


「小龍、口から汗がでているぞ」

 口元を慌てて拭う小龍シャオロンをじーっと見つめる八太郎。


小龍シャオロン、あの垂れ耳犬って――」

「教官殿、次、行きましょう、次」


 再度の暗転。映像が投影され始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【ここはとあるアヴァロン】

  黒背景に白文字。


「前世の記憶を思い出してから、はや数年。やっと、俺はチートになれる」

 説明臭い独り言。中世ヨーロッパ農夫風の格好をした青年が、意気揚々と歩を進める。


『百年に一度、聖剣エクスカリバーの選定の儀が行われる。青年アオは故郷の村の代表に選ばれた』

 唐突なナレーション。


 荷馬車が通りすぎた。そこには少年と美少女が搭乗していた。少年の傍らには、光輝く妖精剣。

 高揚感でテンションマックスなアオは、めでたくもそのことに気づかなかった。


 場面が切り替わった。


 お祭り騒ぎが終わった石畳の広場。白銀の台座の前でへたりこむアオ。


「ははっ、お終わっちゃったな俺の第二の人生」

 突然、振り出した雨が涙を洗い流す。哀愁漂う背中がどドアップで映し出された。

 



 また、場面転換。



 重い足どりで来た道を戻る青年アオ。


『助けて、助けて』

 か細い声がした。アオがあたりを見渡した後、街道を外れて草むらに突き進む。


 そこにあったのは、黄金の台座と鎮座された犬の生首。


「何だこれ?」

「助けてください。ワシ……僕は成犬エクスワンダー、ここから出してください」


「わかった。今、助けてやる」

 アオが犬の垂れ耳を掴んだ。


「イギッ、イテテッ――」

 犬の絶叫がこだました。




「もしかして、瞬間接着剤を使ったのか。待ってろ、助けを呼んでくる」

 数秒もまたずに、応援が駆け付けた。

 設定を無視したタンクトップ姿のムキムキマッチョ二人組が現れた。


 犬耳を生やかした二人組が何やら小声でアオに指示した。



「少し我慢しろよ」

 犬の両耳をがっちりと掴むアオ。

 その身体をがっちりとホールドする大男。


 童話「大きなカブ」状態で、救出作戦が始まった。


「イテテッ――」

「うぐっ、これ俺が間に入る意味あります? て、痛い、痛い、腕が千切れるってば!」


 シンクロした絶叫をBGMにテロップが流れた。



【聖剣ではなく、成犬を。特別はアナタのすぐ近くに】

 

 そして、暗転。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「再びのカオスだな」

 と八太郎。


「素晴らしい」

 とエウジアナ。


「えっ? ……そうですよね。実は僕も素晴らしい作品だなって。エクスワンダーとか洒落てますよね」

 耳を弄りながら、ドヤ顔で同意を求める小龍シャオロン


「ああっ、そのくだりは正直クソだな。私が、褒めているのは筋肉美だ。中々に鍛錬されている」

 俯いて下唇を噛む小龍シャオロン


『イテテッだって、おもしろい(笑)』


『ブサカワイイってやつだよ、きっと。僕のほうが百倍カワイイけど(笑)』

 小龍シャオロンがギロリと睨みをきかせる。


 突然の威嚇にビビる小豆とピース。


「なぁ、小龍、あれって――」


「次だ、次!」

 小龍シャオロンが声を張り上げた。



 

 結局、こんなやり取りが明け方まで繰り返された。唯一評価が高かったのは、【いつまでも帰りを待つ】とのコンセプトを全面におしだしだ作品だった。

 飼い主が異世界転生してしまった。残された小犬型――ミニチュアシュナウザーのその後が描かれていた。


「教官殿、これもやっぱりクソですよね。だって、今時あんなあざとい犬なんて万人受けしないですよ――」

「――ゼッタイにおかしい。犬は縫いぐるみじゃないんですよっ! 垂れ耳、中型犬こそが至高の存在でしょうが!」

 一人、ヒートアップする小龍シャオロンを無視して、集会は終わりをむかえた。


 残された教室で、ふて寝をした小龍シャオロンが、その日の給食を食べ損ねたのはまた別の話。





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