犬話 異世界転生撲滅キャンペーン-2
今まで事態を静観していた中型犬、大型犬が一匹また一匹と八太郎を守るように集結し始める。
一対多頭の睨み合い。その緊張の糸を切ったのは
「……ふふっ、ななかに良いチームではないか。さすがパピ氏の教子達だ」
「あのう、パピばぁはどうしたんです?」
小龍が手を挙げて発言した。
「貴君はたしか……ここは正式な軍隊ではない。それでも、孤高を気取るのはどうかと思うがな」
「答えになっていませんが」
「おい、小龍」
かろうじてショックから立ち直った八太郎が上ずった声で問うた。
「ここのリーダーは彼女じゃない。もし、仮に交代するなら事前に連絡があったはずだ。それがなかったということは……」
「まさか!?」
『どういうこと?』
「パピばぁは死んだんだ」
『『パピばぁーーーーー!!』』
「嘘だよな? だって、まだ精々20年くらいしか」
「八太郎、普通の犬は20年も生きられない」
「――貴君たちは何を勘違いしている。パピ氏は、死んではいない――」
軍服美女――エウジアナ・ストロングハートは、事の顛末を小龍たちに語った。
齢20年を重ねたパピヨン犬――パピばぁは、自力で犬又に転生したこと。
今は家族とは離れて、犬正義本部で修行しているとのことである。
「パピ氏の生き様は貴君ら愛玩犬――クラス1の目標とすべきところである。忠義を誓った家族を守り、愛されるのだ」
『『『僕たちも頑張る!!!』』』
小型犬ズが意気揚々と吠えた。
ここは犬正義極東関東支部87分団第17出張所。
犬正義は、犬族が寄り合い組織している世界維持機構だ。
地域や出自、神話体系なども関係なく、様々なイヌという概念を内包している存在が属している。
神――クラス5、神犬――クラス4、聖犬・魔犬――クラス3、妖犬(化け犬)――クラス2、愛玩犬――クラス1
類似組織に、猫義賊、栄光の猿軍団などがある。
「というわけで、本日より私――エウジアナ・ストロングハートがここを任されることになった。クラス2の若輩の身であるが、貴君らとともに切磋琢磨し、愛すべき隣人を守っていきたい所存である。以後は、教官と呼ぶように」
『『『すごいクラストゥだって!!!?』』』
「俺だってそうだぞ」
八太郎がつぶやいた。
『でも、八太郎は獣臭い』
『教官は、人と同じ匂いがする。撫でで、撫でて』
尻尾をメトロノームのように振りながら、小型犬ズの一匹、黒まめ柴――小豆がエウジアナに近づく。
「気に食わないね」
不機嫌そうに小龍が、言葉を発した。
「ほう、自分よりも格下の相手には従えないと」
「おい、小龍は俺と同じクラス2のはずだ」
「何をいっているのだ? 彼は、クラスET――エトランゼだ」
『『『エトランゼ???』』』
「どのランクにも属さない、イレギュラー中のイレギュラー。クラス5、アヌビス神、クラス4、ハク・タク兄妹とも知己の中だと聞き及んでいる」
「小龍、お前は一体?」
小龍は、自嘲気味に笑った。
「ばれちゃしょうがない。僕は、エトランゼ。異世界からの来訪者。ここにいるのただの気まぐれさ。僕の機嫌を損ねたら、君達の飼い主なんて消滅させちゃうよ」
最後の言葉がトリガーになった。小型、中型、大型犬が弾丸のように小龍を襲撃する。
小龍は回避に専念している。やまない猛攻を中国武術の秘奥――酔拳を用いて捌き続ける。




