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22話 獣人モドキとオーバーエイジな魔法少女-9

「や、やめ――」

 トライチ――だったものが四散する。飛び散った肉片がボトリと落ちて、地面に赤黒い水たまりをつくる。


「ほんと、うるさい羽虫やな。ほら、次は、君の番さかい。もう少し我慢し――」

 半狂乱でアラヤに突撃するアスカ。汚物に触るような素振りで、頬についた血を拭うアラヤ。


 アスカはどうして怒っている。アラヤは、どうして喜んでいる。その原因は何だ?

 トライチがいなくなった。その代わり、血と肉塊と臓物が地面に散らばっている。

 あれはトライチを構成していたものなのか? どうして、そうなった? どうして、どうして?


 そっかこれが終わり――【死】か。だったら、それを、忌々しい概念を無かったことに――



《助けて、皇君》


ドックンと何かが脈打った。俺は……。


「天衣、形態槍、纏うは光喜――」

「レアン!?」


「お姉さん、少し下がっていて下さい」

 痛みはない。手の内にある天衣は、煌々と輝いている。


「どうしたん、レアン君、そんな仰々しい槍なんて携えて」

「人違いだよ、ゲス野郎。俺の仲間から手を離せ」 

 

「……レアン君?」

「なにって、約束したじゃないか。玉城さんが危なくなったら助けに行くって」

 玉城さんは限界だ。変身がとけたら、すぐにでも殺されるだろう。


「スメ――」

「水差すんやない羽虫。あんまり、僕を興奮させるなや」

 アラヤが玉城さんの髪を掴んで、地面にたたきつけた。

 あれくらいの衝撃なら問題ないはずだ。羽衣乙女を包む天衣はそんなに軟にはできていない。


「ホンマに君は化物やな。せやけど、全盛期の皇ハヤトが相手だろうと僕は負けへんよ。その程度の異形なんてぎょうさ――」

 音もなく防壁が波打った。体勢を崩したアラヤが地面に座り込んだ。


「思ったよりも、弱いな。次で、終わりだ」

 手の中に戻った天衣――光槍はこの手によく馴染む。


「……アナタは皇君じゃない」

 満身創痍の玉城さんが手を広げて、立ち塞がっている。


「どうして、そいつを庇うんだよ。ああっ、心配しなくても殺したりしないよ」

 アラヤが体勢を立て直そうとしている。危険だ。上空に光槍を投げ放つ。

 四方に分岐した光槍が、アラヤを地面に縫い留めた。


 

「ほら、捕縛しただけだ」

 アラヤは、痛みで顔をしかめているけど、急所には命中していない。コントロールは苦手なんだ、十分及第点だろう。


「……私は、こんなこと望んでいない。だから、皇君の真似なんてしないで」

 冷たく言い放たれた。言葉の意味がわからない。


「意味がわからないよ、玉城さん。僕たちは、一緒に皇市を守る仲間じゃないか」

「……ただしくは、仲間だったよ、××××。もし仮にアナタが本物だったとしたら、あの子はどうしてここにいないの?」


「あの子?」

「ほら、アナタは本物であるはずがない」


「俺は……誰だ--?」

 ああっ、心が空っぽだ。頭が痛い。一迅の風が砂を巻き上がる。淀んで、黒い、どこまでも熱を奪い去る冥界の風。

 呼ばれている。


「××××」

 誰かが叫んでいる。【あれは、非ざる刻に、日常を焼かれた哀れなモノ】


「レアン!!!」

 誰かが、泣き叫んでいる。【あれは、失いし影追う、哀れなモノ】


【契約を、盟約を――】


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