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正しい生贄の選び方-1

【誰がその命を我に捧げる】

 

 生贄になれと迫る人外――双頭竜。

 鱗が青く発光している。悪竜というより神龍に近いのだろうか。

 西洋の竜より、東洋の龍に近いフォルムをしている。


「――まだだ」

 この少年――犬使ドックマスターいの目は死んでいない。

 着ている学ランは特注品だろうか。 



「そうよ、私達は特別なんだから」

 ブラウスに紺色のプリーツスカート。カーディガンを腰に巻いている。

 手に紙札。陰陽師? とかだろうか。 



「二人とも時間を稼いでくれ、大技で仕留める」

 革ジャンにダメージジーンズ。赤銅色の髪は地毛だろうか。

 彼はどうやら炎術士らしい。纏う火気。とても懐かしい。


 この三人一組スリーマンセルがここにいるのは偶然だろうか。

 否、そんなはずがない。 


 山奥の水源。月明かりがなんとも神秘的だ。


「――俺が生贄になります」

 小さな声で手を挙げてみた。


「おい、オッサン」


「安心して、私達が守ってあげるから」

 陰陽少女と炎術士の少年が顔を見合わせた。

 

「アンタは一体? ……もしかして同業か。アルテ、司牙」

 後ろに控える大型犬。滑らかな白色の毛並み、二股の尾が揺れている。おそらくこちらがアルテ。

 もう一頭は黒い毛並み、剣山のように尖った牙が印象的だ。


 アルテが五感を駆使して、あたりの様子を窺っている。


「――そこか。いけぇ、司牙!」

 黒犬――司牙が駆けた。そして、


「イテッ、イテッテ――」

 草の茂みから、強引に引きずり出されたのは……。


「やっぱりな。それ、戦闘犬じゃないだろう。見ない顔だし、お前、後方部隊所属だろう?」


 司牙に威嚇され続け、萎縮して丸まっている赤茶色の中型犬。


「はあっ。おい、ロン」

 タメ息が出てしまう。

 

「コワイ、コワイ。ワシ、ただの犬ッコロ」

 あざとくガクブル震えるロン。



「助けないの?」

「ネグレクって奴か」


「助けないのか。白状だな。なんなら家の子になるか。司牙、もういい」

 威嚇が終わり、犬使ドックマスターいの少年がロンに歩み寄る。


 何だよこの雰囲気。俺が悪いブリーダーみたいじゃないか。

 それにしても――


「アオ、アオさん。こいつらワラ」

 犬使ドックマスターいの少年の抱擁を回避したロンが悪態をついた。


「ロン、引き続き頼む」

「ラジャー」

 ピョンピョンと跳ねるように、水際を走るロン。

 威圧を緩めて、注意を惹きつける。


 依頼されたのは後方支援。一般人を装って、事後報告。

 それだけの簡単なお仕事だったのにな。


「どういうつもりだ。犬に悪態をつかせるなんて、趣味が悪いな」

 

 犬使ドックマスターい。犬正義ドックジャスティスの直属の戦闘部隊。

 彼はそこのエースらしいけど、どうやら過剰評価されているみたいだ。

 おそらく仲間のアシストが適格だったのだろう。


 それに息苦しさを感じて課外活動に身を投じる。

 まさに若気の至りというやつだな。


「ここで嘘をついて仕方がないから言うけども。ただの犬使ドックマスターい単騎ではあれには敵わない。犬使ドックマスターいの真価は集団戦にこそある」

「素人のくせに……!?」

 アルテと司牙が俺の前で伏せた。顎下を撫でてやると、愛玩犬のように身体を弛緩させた。


「次に、炎術士の君だけど、こんな水辺で力が半減することくらいわかるだろう。君が炎姫級の選ばれし者であれば別だけど」

 残酷だけど、彼のような系統は、先天的な要因で力の上限が決定ずけられてしまう。


「最後に、君だ女子高生。君はまず付け爪をやめなさい」

 少し、説教くさかったかもしれない。

 その証拠に三人とも項垂れている。


 若人よ。挫折を繰り返して強くなるのだぞ。


「言いたいことはそれだけか?」

 

「何も知らないくせいに」


「俺は弱くねぇ」


「あれ? えっと……」

 どうして彼らは親の仇をみるみたいな目で俺をみてくるのだろう。


「いくぞ」

「了解」

「俺達ならやれる」

 だから何んだよこの雰囲気。俺が全部悪いみたいな。

 少年漫画だと二十代半ば過ぎは、老害に書かれがちだけれども。



 せっかくロンが注意を惹きつけた双頭竜めがけて攻撃を開始する三人一組スリーマンセル


 巻き上がる水蒸気。飛び交う紙札。水面を駆ける大型犬二頭。




【誰がその命を我に捧げる】

 犬使ドックマスターいに切迫する大咢。

 回し蹴りで彼を蹴とばし、見上げた時には長大な牙が目前に迫っていた。


 バクッと音がしたような気がした。

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