20話 獣人モドキとオーバーエイジな魔法少女-7
『――さすがはレアン君のお姉さんやで、そこの図体ばかりデカイ、木偶のぼうより厄介やな』
「ッ――」
アスカが俺の腕をつかんだ。強引に腕を振り払う。
間髪入れず、トライチが覆いかぶさってきた。
「冷静になりなさい、策もなくでていったって――」
「やってみなければわからない。あんな奴、一捻りだ、存在ごと噛み切って――」
怨嗟の声が口から洩れる
「アナタは、誰?」
アスカの瞳が揺れている。無理やりに平素を取り繕っているようにも見える。
「……レアンだ」
「そう、なら、大切な人を助けるためにすべきこと考えましょう」
焦る気持ちを押さえて、耳をそばだてる。
距離は、100メートルもないだろう。半壊した家屋に隠れる形で、俺とアスカを状況を観察している。
『――ファング兄さん!』
プレザの叫び声だ。
『さがって、プレザ!』
ウェイ姉さんの怒声。
焦燥感が膨らんでいく。俺は……。
「あの強そうな獣人は、戦闘不能。あと戦えそうなのは、キツネの獣人と栗毛の獣人ね。でも、栗毛のほうは住民をかばっているみたい」
「あんまり顔をだすとみつかるぞ」
「その心配はいらないわ。だって、もうバレいるみたいだもの。全くスキがない。あいつ中々の強者だわ」
『せやけど、件のレアン君はどこにいったんやろうな。僕だって本当は弱者いじめはしたくないんやけど』
「ヤバッ、今、一瞬目があったわ」
アスカがしゃがみこんで、身震いをしている。
「ねぇ、あいつが魔神ってオチじゃないの」
「どうだろうな、俺はあったことはないし」
たぶん、魔神はもっと強いだろう。少なくても、十二神将と同格のはずだ。
シャインを通して感じたバサラ神の圧力の方が何倍もすごかった。
「考えてても埒が明かないわ。こうなったら、突貫しかないわ」
「とっかん?」
「小細工が通じる相手でもなさそうだし、初手に全てをかける。出し惜しみはなし」
口を開いて牙を確認。牙は役に立たない。
爪はどうだ。多少は爪が伸びるけど、ジャガモの皮を剥くのにだって苦労しそうだ。
角は、そもそも生えていない。
残るは短刀と火の宝石。
火の宝石は、高価なブツではあるけど、それ以上、ウェイ姉さんとの幸福な日常を象徴する代物だ。
躊躇うな。思い出に浸っている場合じゃない。俺は何があってもウェイ姉さんを守るんだ。
「それは?」
短刀の柄。その窪みに火の宝石をはめ込む。
刀身に炎が纏わりつく。熱気が腕をなめる。
「武器に頼るなんて、獣人らしくないけどさ」
本格的な戦闘――死闘はこれが初めてだ。その局面で、武器頼った俺は獣人ではないのだろう。
「ハートウォーミング。じゃ、いきましょうか」
アスカが俺の背中をポンと叩いた。




