19話 獣人モドキとオーバーエイジな魔法少女-6
「どせいいーッッ!」
怒声とともに、グリーンタイガーの身体が宙を浮いた。
ぬるりと抜け出したアスカが反撃に転じる。
ファンシーなステッキを最大限しならせて振り下ろす。
ガコッと鋭い牙がそれを受け止める。唸る獣の気迫に寒気がする。
「なかなかやるじゃない。さっさっと、私のモノになりなさい」
ガキッとステッキがへし折れた。素手で、牙を掴むアスカ。ギリギリの均衡は、いつ崩れてもおかしくはない。
何か、何か。ないか、この状況を打開できる方法は……。
そうだ!
近くに落ちている、白くくすんだ木の枝を取り上げて、火の宝石を打ち付ける。
カチッ。
火の粉をまき散らす簡易松明をブンブンと振り回して、猛獣めがけて突進する。
グリーンタイガーが怯んだ、一瞬の隙をアスカは見逃さなかった。
がら空きの顎めがけて、掌手をたたき込んだ。
横倒しに倒れたグリンタイガーは気を失っているようだ。
「ふぅ~~危ないところだったわ」
「ゲットしないのか」
「なんかやっぱり可哀想よね。仲間になるのはやぶさかではないけれど、危険な時に呼びだすわけでしょう。場合によっては、捨て駒にしなければいけないことだってあるかもしれない――」
私はそこまで強くないからとアスカが笑った。強者であっても、危機に陥ればなりふり構ってはいられなくなる。アスカは、きっと優しいのだろう。
「これからどうする? まぁ、すてごろでもなんとかなることもわかったし、付け焼刃には頼らないわ」
「わかった。だったら、さっさとキエトに向かおう。レッドレオンになんか遭遇したら厄介だしな」
「了解――」
「ニヤッ、ニャッ」
いつのまにやら 白ネコが、アスカの足元に身体をこすりつけている。
「ん、何?」
「ニャッ~」
「たしか、翻訳機能がついていたわね」
アスカが悪戦苦闘しながら、ネコフォンをいじっている。
「んーっと、もう、わかんないわねっ。たしか、これねっ」
ネコフォンから線状の光が出力され……。
ホワイトキャットとグリーンタイガーが光に包まれた。
そして
「ニャッ」
ホワイトキャットがアスカの身体をよじ登って、腕の中に収まった。
「ガウ、ガウ」
ムクリと起き上がったグリーンタイガーが抗議の声を上げた。どうやら、自分も抱き上げろということらしい。
「あれれ、違うのよ、レアン君。私は別にそんなつもりはなかったのよ。ほんとだからねっ」
「別にいいじゃないか。二匹とも嫌そうじゃないしな。せっかくだし、名前をつけてやればいい」
名前で縛るのは、使役術の基本中の基本だ……?
「……なになに、二人とも名前をつけてほしいの。よし、ちょっと待ってね。そうね、シロネとトライチなんてどう」
「ミャ~」
「ガウ」
二匹が嬉しそうに声を上げた。
「よろしくな、シロネ」
アスカに抱かれたシロネの頭に触れた瞬間、映像――おそらく記憶が流れ込んできた。
泣き叫ぶ獣人の少女だ。周りの獣人の反応はまちまちだ。顔を背けるもの。悲し気に俯く者。
安堵の表情を浮かべるもの。口元を歪めるもの。
悲しくて、でも、自分が犠牲になれば全てが収まるというあきらめの念。少なからず、世界を憎む気持ち。
ああっ、この暴風のようなやり場のない気持ちを私はどうすればいい?
「――レアン君、レアン君」
「……アスカ?」
「どうしたの、急に、魔神が干渉でもしてきたの? ごめんんさい、私、そっち系には疎くて」」
「いや、たぶん、疲れがでたんだと思う。色々なことがありすぎて」
「そっか、それなら一度、ウルフビームに戻りましょう」
「ん? 戻る意味がわからないんだが」
「完全には嫌いになれないでしょう。だって、故郷だものね。きっとこのままだと後悔するわ」
「俺は別に――」
「トライチが教えてくれたのよ、今、ウルフビームが襲撃を受けている」
「……―ウェイ姉さん」
気づいた時には全速力で駆けていた。こんなに早く走れたのだと自分でも驚く。
トライチに跨ったアスカがしっかりと追随してくる。この分なら、すぐにでも帰れるはずだ。




