17話 獣人モドキとオーバーエイジな魔法少女-4
千年も生きていれば、こんな光景も見慣れるのかもしれないけど。
歩き始めて、数分たったけど未だに違和感は払拭されない。それどころか、不快感というか悪寒というか……言いようのない肌寒さを感じる。
「フォトジェニックていうのかしらね。さすがは、異世界、夢の王国も真っ青だわ」
鼻歌まじりに観光を楽しむアスカ。魔法少女になった代償か、感性がねじ曲がっている。
「早く抜けよう」
「レアン君、何をびくついているのよ。こんな光景、この世界では珍しくないのでしょう――」
自撮り棒を片手に、戦場を歩く女子大生。そんな印象を受けるのは俺が臆病なせいだろうか。
誰にもみつからず、キエトに行くには森を迂回するしかない。警戒態勢が引かれていることを考えると、より奥に入らなければいけない。
『レオンシークには近づくな。森の奥には獰猛な魔獣が潜んでいる』
親が子供に怖がらせる方便。俺もウェイ姉さんに何度も忠告されたっけ……
「……ウェイ姉さん」
「何か言った?」
「何でもない」
「そう。それにしてもレアン君は小心ものなのね。たしかに肉食獣の一匹や二匹でてきそうな雰囲気だけど」
「ホワイトキャットにであったなら幸運が訪れる。ブルーパンサーに睨まれたら音をならせ。グリーンタイガーに会ったらなら全速力で逃げろ。レッドレオンに出会ったなら、死を覚悟しろ」
「何なのそれ?」
「サク族の教えだよ。この森――レオンシークには肉食獣が生息しているんだ。森の奥に入らなければまず遭遇することはないけど」
実際、俺は遭遇したことはない。そもそも森の深奥に入り込むことは禁止されているんだ。たまに、生活圏に紛れ込むことがあってもロボ氏族が追い返しているらしい。
「……キターーーーーーマイターーン!」
アスカがガッツポーズをつくりながら、叫んだ。
「急に、大きな声をだすなよ」
やっぱり、魔法少女の後遺症でメンタルをやられているんだ。
「そんな可哀想なものをみるめでみないでちょうだい。この幸運を喜ばずはいられないわ」
「意味がわからない」
アスカが、鍔付きキャップを後ろに回す仕草をとる。見事なパントマイムだ。
「ネコモン、ゲットだぜ!」
アスカのドヤ顔。美人って、得だよな。どんなにぶっ飛んだことをしても成立してしまう。
アスカがジージャンのポケットから何やら取り出して、画面をタップしている。
スマホのようなフォルムをしているけど、確実に圏外だろう。
「こっちか」
アスカが方向転換して、ズカズカと低木を薙ぎ払って進んで行く。
「どこ行くんだよ? キエトはそっちじゃないぞ」
「ノンノン、この先に反応があるのよ。この感じだとBランク以上は確定ね。あっ、逃げられる、ほら、行くわよ」
「ちょっと待てよ――」
アスカを一人にするわけにも行かず後を追う。進むにつれて、森の様相が完全なモノクロに近づいていく。
レオンシークで何か異変が起こっているのは間違いない。その原因は、おそらくアラヤだ。
森を殺してどうするつもりなのだろう。ナーブが言った通り、面子をつぶされた魔神が怒り狂っているのだろうか。




