16話 獣人モドキとオーバーエイジな魔法少女-3
「アラヤがどこにいるか、わかるのか?」
「そんなの知らないわよ。もし、わかっていても今の状態じゃ、殺されて終わりでしょう。本当にバカね」
「一理あるけど、そんな短期間で強くなれるわけもないだろう。増援がきてくれるわけでもないんだろう」
だぶん、ファングよりもアラヤは強い。単純な腕力の話ではなくて、そうアラヤから言いようのない狂気を感じる。
十年くらい修行しても勝てるかどうか……。
「倒す必要なんてないわよ。強引に連れて帰ればそれで終了よ、終了」
「そんなに簡単にいくのか」
だいぶ楽観的すぎる気がする。
「でたとこ勝負よ。バステトの瞳さえ展開できれば、まず、失敗はあり得ないわ。ああっ、バステトの瞳っていうのは――」
エジプトの神とか、古代エジプトでは猫の瞳は死者の国に通じていたとかいう概念を集約してとか……頭痛がするな。
要約すると、『バステトの瞳』とはバステトという組織の大幹部の力の結晶体らしい。問答無用で、異世界への道をつくり出す道具。
「特級品の宝石みたいなものなんだな」
「宝石?」
「俺もよくは理解していなんだけど。この世界の人間が使う便利道具みたいなもんだよ。ほら――」
懐から、火の宝石を取り出す。床におちた縄に宝石を打ち付ける。間を置かずに発火する。
アスカは興味を持ったようで、宝石を俺からひったくってまじまじと見つめた。
「ふ~ん、便利道具ね。何んかよくわからないけど気持ちわるいわ――」
アスカが宝石を投げてよこした。
「あっ、あぶねぇーー」
もう少しで、家で一番高価なブツが壊れるところだった。
「じゃ、そろそろ行くとしますか」
「どこに行くんだよ?」
「どこって、あの忌々しい不親切タウンよ、不親切タウン」
「キエトのことか」
「そんな名前だったわね。で、レアン君、ものは相談なのだけれど」
「何だよ」
急に畏まって、嫌な予感がする。
「その石コロは高価なぶつなのよね。それこそ、安い食堂のメニューを全部たのんでも御釣りがくるくらいなわけよね?」
「……そうだけど」
「よし、これで問題解決だわ。バステトの瞳を取返して、アラヤを連れ帰って、はい、おしまい」
「……あのう、アスカさん。バステトの瞳はどこにあるので?」
「今は手元にはないわ。安全な所に預けてあるわ!」
「ものは言いようだよな。無銭飲食のかたに取られたんだろう」
「なんか文句あるぅつ」
巻舌+ガチ睨み。この場合の正解ワードは
「いえ、滅相もございません」
「なら、出発よ、レアン君。初級クエストだから、すぐ終わってしまうけれど」
魔法少女は歳をとると性格が若干、歪むらしい。それだけ、修羅場をくぐり抜けてきたんだろうけど……。




