15話 獣人モドキとオーバーエイジな魔法少女-2
「そしたらねっ、関西弁が聞こえてくるじゃない。えっ、まさかって思ったら見ず知らずイケメンが近寄ってきたのよ!」
「で?」
「無視されたました。そりゃ、もう人違いでしたって扱いで。あいつ、絶対、悪党よ!」
「アスカの異世界物語は始まらなかったわけか」
物語冒頭で詰んでしまったわけだ。実際、そんなもんだよな。都合よく、助っ人が現れるなんてそれこそ奇跡に違いない。
それにしても、アスカはきっと残念系美女に分類されるに違いない。黙っていれば、深窓の令嬢って感じなのにな。
「まぁ、正直、命拾いしたわけだけどね。あいつの目、とても怖かった。久しぶりに肝が冷えたわ。全盛期の――バーストした私でも、勝てるかどうか。下手に戦闘になっていたら、人死にがでていたと思う」
……そんなイカレタ関西弁が、そんなにいるわけがない。
「……アラヤ」
「やっぱり、レアン君の知り合いなのね」
コクリと頷く。今までの経緯を簡潔に説明した。思いのほか、饒舌に語ってしまったのは、誰かに聞いてほしかったからかもしれない。
「そっか。正直、実感がわかなかったけど、そういうことか」
ふむふむとアスカは一人で納得している。
「ああっ、ごめん、ごめん。実は、私も半信半疑で行動していたのよ。だって、私はグレーキャットの行動方針にそこまで共感していないし」
話に全然、ついていけない。
「気にしなで、今のは独り言だから。つまるところ、転移でも転生でも結局は、世界に影響を与えてしまう。バタフライエフェクトで、世界が滅亡するなんてこともあるかもしれない」
「転生と転移は違うだろう?」
異世界転移の場合はダイレクトに影響をそれこそ悪影響を与えてしまうかもしれない。けれど、転生は間接的というか、あくまでもその異世界の住人だ。
「そうね、厳密には違うわ。それに、どちらにしても自発的に行われるわけではないわよね。だから、各々には責任はないのかもしれない、だけど」
「だけど?」
「気に入らない。だって、レアン君は虐げられて、アラヤは魔神とかいうラスボスの手先なんかやっているんでしょう。正義の羽衣乙女としてはこの状況を見過ごせない」
「勝ってな言い分だな」
「我が強くなければ羽衣乙女なんてやってらんないわよ。レアン君、彼らのいえ、私の我儘に付き合ってもらうわよ」
「何をやらかす気なんだよ」
「アラヤをボコって連れて帰る」
「アラヤは俺と同じで転生者だぞ。そんなこと――」
「そこはでたとこ勝負よ。あの灰色の猫たち(グレーキャッ)ならそれくらい片手間で解決するはずよ」
「…………」
アスカが言っていることは、滅茶苦茶だ。支離滅裂、要領を得ない。それでも今の俺には他に縋るものなんてない。
「で、どうやって脱出するんだ?」
「簡単よ――ハートウォーミングホールド!!」
「すごいな。どうやったんだ?」
まるで手品だ。一瞬の早着替え。髪の色味も変化している。
きっと、尻尾があったら盛大に振っている。
「科学の研鑽による奇跡の再現とか、ラボでは言われていたけれど、まぁ――」
縄を引きちぎり、アスカが立ち上がった。
「あれ、もう終わりなのか?」
服装がまた一瞬で逆戻りした。
「さっきのダメージでがたがきたみたい。あと、何回かは変身できると思うけど――」
アスカが、俺の縄を解こうと悪戦苦闘し始める。つまるところ、生身のアスカは常人の域をでないということだ。
机の上に、置かれた短刀を利用するように伝える。
一瞬、顔を赤らめて、アスカが縄を切った。




