プレミアキャラの黒歴史
「ざまぁ」
「pardon?」
「だから、ざまあみろって言ってんだよ」
金髪碧眼の少女が、表情を曇らせた。
名前すらはっきりとは思い出せないけど、その表情の変化だけは鮮明に覚えている。
それまで路傍の石コロとして扱われてきたから、それまでの狭い世界をブチ壊した彼女とまともに話せて……。
【たぶん、嬉しかったんだ】
誉れ高き次期当主様――美少女と落ちこぼれ (しかしながら、才能の片鱗が見え隠れしている)の友人。
俺はというと……完全に引き立て役。物語の主軸には全く関係ない端役。
将来的には下っ端構成員Aとして、中ボスくらいの小悪党に惨殺されるか、理性が崩壊した年下術者に捨て駒にされる。そんなルートをヨチヨチと歩いていた。
今となっては、どこか他人事に感じられるけど。
「僕……俺が最強になってやる!」
「キミ、強がるのもいいかげになさい。もし成功してしまったらどうするの? ……キミは優しすぎる――」
どこまでも現実感がない会話。もう十年以上前の話だ。
その後の会話は朧気だけど、好意を覚えたような気がしないでもない。
若気の至りという奴だな。甘酸っぱい記憶なんて胃もたれを起こすだけだ。
――ジィジィとノイズがはしった。徐々に近づいているので音も次第にクリアになるだろう。
『よく聞くのですよ、子供たち。この世界には絶対的な悪が存在します。彼と彼女はプレミアキャラなど呼ばれているようですが……要は人外の化物に過ぎないのです』
洗脳教育はよろしくない。聖職者を気取るなら、もっとお言葉使いを正したほうがよろしい。
そもそも誰発進なんだか。プレミアキャラってパチンコ用語だろう。
『先生……彼らは神群に属するものなのでしょうか。’事象を確定させる’ということは主神に準じる高尚な存在ではないかと思うのですが……』
『そう考えるべきなのでしょう。嘆かわしいことですが……主は我らに試練を与えているのです』
はい不正解です。主神は統括地域では、最強ですが、場所が違えば弱体化するのでプレミアキャラには該当しません。
ゼウスやオーディンが極東日本においては、天照大御神に勝てないのがその証拠です。
『透明アオト――』
息を飲む音、続く叱責の言葉。
『……決してその名を口にしてはなりません。例のあの人の名前を呼ぶだけでも魂が穢れるのですよ』
『グスン、ごめんなさい先生』
なに俺ってば、どこぞの闇の帝王と同じ扱いなの。
『わかればいいのです。それでは例のあの人の悪行について勉強しましょう――』
虚実が綯交ぜになった講義に抗議の声を上げたい。
人のトラウマやら黒歴史をねぽりんぱほりんしやがって。
【闇落ちして、暗黒騎士及び堕天使より死神に至った】ではなく【仲間外れにされて、ラスボスになりかけた】が正解だ。
未遂だよ、未遂。ほんの数回の失敗で全否定されるのは心外だ。
『――先生、そんな悪逆の輩――害悪にはどのように抵抗すればいいのでしょうか?』
これから、闇の魔術に対抗するための授業が始まったりするのだろうか。
『簡単なことです。私達は主に祈るだけでいいのです』
「チッ」
ちゃんと調べているみたいだ。
押してダメなら引いてみろとはよく言ったものだ。
’護法術 ’要は世界に隷属するための術なわけだけど。
俺との相性が頗る悪い。
俺単体であれば、素人に毛がはえた程度の術者にも負けてしまうかもしれない。
吸血鬼に対する十字架や聖水みたいなものだ。
――耳障りな音が聴こえ始めたのでイヤホンのスイッチをオフにした。
同時に、車体が揺れた。どうやら、搭乗しているバンが横滑りしたらしい。
「どうしました?」
乱暴運転が大好きな銀髪犬耳美女が、髪をかき上げた。
「どうしたも、こうしたもない。外を見てみろ」
スモークガラスの向こう側。
「イッツアジュラシークワールド?」
筋肉質な後ろ足と小さな前足。小型の悪竜――幻想種がアスファルト舗装の上を闊歩している。
世界をまたにかけ大活躍されている悪竜教。
なんでも、日本を代表する悪龍八岐大蛇の復活を目論んでいるんだとか。
生贄は運命を仕組まれた子供たち。
「援軍を待つのか?」
「いや、なんとかしますよ」
「さすがは我らの最大戦力様だ」
「いやーそれほどでも」
今回の報酬は、一首一万円らしい。頭は八本あるのだろうから、八万円。
日給八万はおいしい。
家でお腹を空かせているお犬様にたらふく缶詰を与えられる。
「そんな生き方は辛くないのか?」
変なことを聞くものだ。
「……では、取り敢えず、子供たちを救出してきます。その後の避難誘導はまかせます。一時間は稼ぎますんで、区画の封鎖をお願いします――」
精神統一、耳栓もばっちりだ。
それでは、ミッションスタート。