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自作小説倶楽部 第17冊/2018年下半期(第97-102集)  作者: 自作小説倶楽部
第97集(2018年7月)/「天ノ川(銀河)」&「爆弾」
2/27

01 柳橋美湖 著  爆弾 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町。夜行列車で行くとそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 他方、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職し、マダムと北ノ町へ来る列車の中で、神隠しの少女が連れ去れて行くのを目撃。そして北ノ町のファミリーとマダム、それに白鳥さんを加えて、少女救出作戦が始まる。一行は、北ノ町一宮神社から軽便鉄道列車に乗り、ターミナルから鉄道連絡船で、大陸にたどりついた。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美剣星 「死神と神隠しの少女」



     50 罠


 クロエです。私達は、虹色燕のジョナさんが運転する列車に乗って、炎竜の生息域を横断しているのですが、渓谷地帯を抜けるとき、車両の屋根にとまっていた一頭の炎竜さんと仲良しになり、ピイちゃんと名付けました。……あと少しで、終点・龍の墓場です!

     ♢

 ――まもなく竜骨トンネルです。衝撃波がありますので、通り抜けの際は、シートベルトをご装着ください。

 え、シートベルトなんてあったの? と考えていると、壁や椅子からポンと飛び出して、ベルトは勝手に私達を椅子に固定してしまいました。シュルシュル音を立てて、蛇のようです。

 このとき白鳥さんが、車窓の外を振り返りました。

「ちっ、死神だ。――女の子を連れている」

 女の子?

 私とマダムが振り返ると、東京・上野から北ノ町に来る途中、寝台特急で見かけた、神隠しの少女と、彼女をさらって行った黒衣の影でした。

 私の従兄・浩さんが、白鳥さんに尋ねます。

「白鳥さん、一度聞きたかったんだけど、悪魔と吸血鬼、それから死神の関係って何?」

「悪魔と吸血鬼は同じ存在だ。しかし死神は違う。絶対神でも悪魔でもない第三の存在……」

 線路の軌道を並走している黒衣の死神さんは、トンガリ帽子に髑髏の仮面をつけていて、神隠しの少女を抱くように、青白い痩せた馬の鞍にまたがっていました。

 風景は、グランドキャニオンのような渓谷地帯を抜け、サバンナのような風景になりました。乾燥した土地で、ところどころ灌木が生えています。

 やがて、線路のはるか彼方に、禿山が見えてきました。

「竜骨門というのは、あの山を穿ったトンネルのことか」

 そう呟いたのは、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんです。

 運転士のジョナさんが、気動車の汽笛を鳴らし始めだしましたので、遠からずトンネルに入るのでしょう。

 お爺様はというと、シートベルトを鏃の刃で切って、車両後部のドアを開け、長弓を構え、続けざまに矢を放ちました。続いて、魔法でシートベルトを外したマダムが、背に魔法陣の描かれたトランプカードを放ち援護射撃しました。

 しかし矢もカードも、虚しく空を切って、通り抜けただけです。

 幻影?

 何ということでしょう。お爺様は、「そっちに気配がある」と呟いて、列車を飛び降り、土埃を巻き上げ乾いた大地を駆け始めたではありませんか。――あ、もう見えなくなっちゃった……。

 ――早い。何だ、あの脚力は……。まるで馬並みだ!

 白鳥さん、浩さん、そして瀬名さんが機を同じくして、目を丸くして呟きました。

 二両編成の列車は、竜骨トンネルの手前数百メートルのところで、急ブレーキをかけました。

 ジョナさんが叫びます。

「発煙筒? 何事だ?」

 列車がトンネル入り口の直前で止まると、ジョナさんがアナウンスで言いました。

 ――ただいま、鉄道管区管理センターから連絡がありました。トンネル内部に爆弾が仕掛けられたというのです。保線員が調べてきますので、それまでしばらくお待ちください。ご不便をおかけいたします。

 死神と神隠しの少女を追って行ったお爺様は、まだ帰ってきていません。

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化する。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は紅子。女学校卒業後、三郎に嫁ぐ。紅子亡き後はお屋敷の近くに住む小母様をアルバイトで雇い、身の回りの世話をしてもらっている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住みクロエに好意を寄せる。式神のような、電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●ジョナさん/虹色燕。同名の港町で、連絡船アテンダントをしていた、脚のある人魚族・由香から案内役を引き継いだ。軽便鉄道・装甲気動車の運転士。

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