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自作小説倶楽部 第17冊/2018年下半期(第97-102集)  作者: 自作小説倶楽部
第100集(2018年10月)/「木の実」&「狩り」
18/27

03 柳橋美湖  狩り 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名さんが夜行列車に乗って迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントが起こる。……最初、怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。しばらくして、クロエは、お爺様の取引先の画廊マダムに気に入られ、秘書に転職した。

 クロエは、マダムと北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃する。神隠しだ。そして鈴木一家による少女救出作戦が始まる。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「女神」


     53 狩り

.

 クロエです。龍の墓場駅で列車を降りようとしたとき、ネクロマンサーさんが襲ってきました。絶体絶命になった私が夢中で呼子を鳴らすと、成層圏で充電していた炎竜のピーちゃんが、ビームを放射して助けようとしたのですけれど……。ピーちゃん、それじゃあ、車体ごと吹きとんじゃうでしょ!

     ◇

 ――ピーちゃん・ビームがくる――

「逃げないと全員木っ端微塵になるな」

 白鳥さん、何を冷静に言っているんですか!

 ネクロマンサーさんのサラマンダーとシルフィーの火槍が、浩さんに向けられたので、瀬名さんは、ぐいと引っ張って助けました。

「サンクス」

 私とマダムを、男の人たち三人が囲んで守り、さらに三人の間に、電脳執事さん・護法童子くん・使い魔さんの三体が配置していますので、六角形の防御陣になっています。浩さんが態勢を崩したので、防御陣の一角に穴が空いた形になりました。

 ネクロマンサーさんと召喚精霊たちは、その穴から、私に直接攻撃を仕掛けてきます。

 召喚妖精の火槍に、ネクロマンサーさん自身の通力が合流して、砲弾のような形をした熱流が飛んできたかと思った刹那――。

 あ、車体が……。

 ピーちゃんビームが、気動車車両ごと私たちを吹き飛ばしたのです。

 あたりが真っ白になりました。

 私たち、死んじゃったの?

     ◇

「これが噂の亜空間か――」

 そう言ったのは運転士のジョナさんです。私が聞き返すと、ジョナサンは、「A-B地点間のテレポーテーションは、A地点の物質をクオーク段階にまで分解して、亜空間を介して物質の組成情報を送り、B地点で再生させる。――つまり、亜空間というのは電気が駆け抜ける送電線の中みたいな場所だ。

「ジョナさんって意外と博学だな」

 瀬名さんと浩さん、それに白鳥さんやマダムも感心しています。けれど、私には難しくって、今一つ理解できません。

 それはそうと、果たして、私たちは現実世界に戻れるのでしょうか。また、いったい、この亜空間世界に私たちを飛ばした者は誰なのでしょうか。

 ――それは私よ――

 私たちは一斉に声のする方に振り向きました。

「えっ、あなた、どこかで見たことがある」

「もしかして、お婆様?」そう聞いたのは浩さん。

 マダムはお婆様・紅子と旧知の仲だったといいます。神隠しの少女を追って、この世界に旅をしていたときの半ば、鉄道連絡船で、マダムがお婆様についてのお話をしてくださいました。――お婆様は、先の大戦で南洋の島から帰還するとき、敵潜水艦の魚雷が、乗っていた復員船に当たって爆発し行方不明になっています。

 そしてさらに、マダムが話を終えたとき、デッキにいた私の携帯に、第二衛星“猫ノ母月”と、孫衛星群“子猫たち”から、ユーザーお預かりメッセージが転送されてきました。添付動画は私そっくり。メッセージによると、お婆様はこの異世界のどこかで生きているとのことでした。

「お婆様、助けてくださってありがとうございます」

 助けた? 私は、クロエ・あなた自身のエナジーを使って、この世界に引っ張り込んだだけ。

「お婆様、どうしてそんなことができるの? お婆様って何者? お婆様はどこに住んでいらっしゃるの?」

「クイズ鈴木家の秘密・設問の一から三ね。――ヒント、祖母紅子・母ミドリ・娘クロエ……共通するものはハイカラー。紅・緑・黒は補色関係にある。――以上、次に会うときまでに謎解きしておきなさいな。じゃあまた♡」

 はあ?

 お婆様ってヒョウキン……。

 私たちは、亜空間から、元の世界の駅に戻っていました。

     ◇

 龍の墓場駅ホームでは、炎竜のピーちゃん・ビームで吹き飛んだ車体が豪快に横転し、真中で二つに折れていました。シューシュー巻きあがっているのは水蒸気ではなく、金属が溶けて気化していたのです。原形はとどめていますが、まるで、溶けた飴のようです。

 そんななかでですよ、ネクロマンサーさんが、瓦礫の中から姿を現しました。

 条件反射で――

 私の横にマダムがきて、二人の周りに、瀬名さん、浩さん、白鳥さん。それに、護法童子くん、電脳執事さん、使い魔さんが囲んで、鈴木家戦闘隊形を組みました。

 けれども、ボロボロになったネクロマンサーさんは、よろけながら逃げるだけでした。

「亜神の上をゆく者は女神だけ……」

 女神?

 瀬名さん以下の皆さんたちが、一斉に聞き返します。

 ネクロマンサーさんは、質問に答える前に、身体がそのまま壊れたホーム透けていき、消えてしまいました。そのネクロマンサーさんが置き土産を残していきました。

 それは火トカゲのサラマンダーと、風の妖精シルフィー……。ゆえに私は、魔法少女OBのマダムに手伝って頂いて呼び出した、ノームやアンディーンの二体に加え、新たに妖精二体が加わったため、四大精霊のすべてを召喚できるようになっちゃいました。

 マダムが白鳥さんの横にきて話かけました。

「白鳥くん、あなた、クロエが女神だって知っていたでしょう?」

「そういうマダムこそ……」

「ぬしも悪よのう」

 もう、マダムに白鳥さんたら、悪代官と悪徳商人ですか。

 さて、ほどなく、

 馬に乗った死神さんを追い駆けていたお爺様が、「とり逃がしてしまったわい」と呟きながら戻ってきました。そのお爺様が背にしている駅舎の屋根では、炎竜のピーちゃんが、舞い降りてきて、楽しそうにタップダンスを始めました。

     ◇

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化する。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は紅子。女学校卒業後、三郎に嫁いできた。紅子亡き後は屋敷近くに住む小母様をアルバイトで雇い、身の回りの世話をしてもらっている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住みクロエに好意を寄せる。式神のような、電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。死神にさらわれているのがわかった。

●ジョナさん/虹色燕。同名の港町で、連絡船アテンダントをしていた、脚のある人魚族・由香から案内役を引き継いだ。軽便鉄道・装甲気動車の運転士。

●ネクロマンサー/竜骨トンネルで、グールたちを操り、クロエたちを襲撃した。




自作小説倶楽部第100集(10月号)はこれにてお開き。では来月にまたお会いしましょう。(管理人)

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