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自作小説倶楽部 第17冊/2018年下半期(第97-102集)  作者: 自作小説倶楽部
オープニング
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00 奄美剣星 著  オープニング 『銀河鉄道警察隊』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「銀河ステーション」


「トラピスト1で、地球から派遣された鉄道警察警視が事故死した。保線作業用ロボットのプログラミングミスだと植民地支部から調書が届いているのだが、手続上、現地を視察する必要がある。その任をマーコ警視正とシズク警部補に任せたい。よろしく頼む」


 ――特別捜査班スリジエは、マーコとシズクの二人からなる――


 鉄道警察隊長の言葉と同時に、重厚なセラミックの自働扉が開いた。

 カトルマン帽にジャケット、スカート姿、パンプスを履いている。首にはスカーフ、肩には鉄道警察隊のエンブレムがある。エンブレムは、大昔、鉄製であったころのレールの断面である、エの字をしていた。


 二人は、職員車両にツインルームを与えられた。

 ベット・メーキングの時間帯、インターホンで呼ばれ、執務室室に向かう。中に入ると、隊長が案内役としてよこした、トラピスト星系植民地軍のフルミ大佐が待っていた。

 大佐は、二人を、向かい合った椅子に座らせると、壁にはめ込まれたスクリーン画像の説明を始めた。


「承知のように、地球にもっとも近い地球型系外惑星は、地球から四光年先にあるプロキシマ・ケンタウリbだ。惑星は地球より少し大きい程度で、テラフォーミングにより、植民化が進められてきた。――われわれが今向かっている、恒星系トラピスト1は、地球から四十光年先で、プロキシマ・ケンタウリ以上に有望な地球型がある。恒星トラピスト1aは、木星サイズの赤色矮星だが、地球型惑星が、1bから1hまで七つもある。さらに、このうち1dから1fの三つには海まで存在する」


 マーコが口を挟んだ。

「かつて地球が帝国主義と呼ばれる政治体制を採っていた時代、欧州列強は東インド会社とか、日本は満州鉄道とか、交易船の会社や鉄道会社が植民地経営をやっていた。銀河鉄道株式会社も実態は同じ。――トラピスト1星系の開発権を独占していますよね」


「さよう。では本題に……」

 モニターに大鳥が翼をはためかすような動画が映し出された。

「これって、噂の黒鶴?」シズクが声をあげた。

「シズクちゃん、黒鶴は、特殊カメラか、特殊ゴーグルをつかうと可視化するのよ。人知を超えた電磁的な生物。文字通り黒い鶴よね」


 銀河鉄道の軌道は、量子からなる誘導路線でつくられている最先端技術だが、列車は、産業革命以降数世紀走っていた、蒸気機関車タイプにしているのは、技術者たちの遊び心というやつだ。そのあたりは、いにしえの詩人ケンジの物語に着想を得ている。


 宇宙歴二〇〇一年現在、地球‐トラピスト1区間四十光年の空間鉄道が開設されている。銀河系の外周三十万光年に対し、四十光年をもって銀河鉄道を名乗るにはおこがましい気もしないではないが、星系間鉄道の開設は、技術の大躍進であることには違いない。なにしろ太陽系の地球ステーションから植民惑星トラピスト1eに設けられた、これまた大袈裟な駅名である銀河ステーションまで、二週間で走破してしまうのだから。


 海洋をもつ三つの惑星のうち、トラピスト1eは氷河期である。他の1dや1fのほうが、地球環境化〈テラ・フォーミング〉は容易なはずだ。なのに、拠点を氷の惑星1eに定めたのは謎としかいいようがない。


 それはともかく……。

 銀河ステーションのある植民地首都惑星1e、通称パッセンには、技術者や労働者百万が居住していた。衛星軌道にホームを置き、そこから地上へは、軌道エレベーターで降下することになる。ホームは、複雑に組まれた鉄骨に、強化ガラスが貼られている。シグナル・ランプが一斉点灯し、蒸気機関車の形をした空間軌道列車が入線してきた。


 銀河鉄道警察隊トラピスト支部は、銀河ステーションのホームにあり、このほか、同ステーション内部には、無人駐在所が五カ所に設置されていた。――ここでは、植民地軍が、鉄道警察隊員を兼務していた。

 フルミ大佐が席を外したときを見計らって、技師であるトミタという男が、マーコ警部とシズク警部補に接触してきた。内部告発をしたいらしい。


「プログラミングミスですと? 今どきあり得ない」

「事故死じゃないというのですね」マーコが切れ長の双眸を大きくした。

 マーコとシズクがトミタから詳細を聞き終えたとき、フルミ大佐が戻ってきた。――盗聴されていたのだ。――フルミは熱線銃を手にしていた。


「この事故は偽装だ。我々は、内部告発者という名の裏切り者を炙り出し、組織を一網打尽にする腹だったのさ」

「罠だったのか。俺を殺す気か?」

「別に殺しはしない。テレポーテーションの応用で、量子レベルにまで分解する。まあ、事がなれば、再蘇生させてやるよ」


 熱戦銃は、二人の女性警官にも、ときどき向けられた。


「秘密を知った以上は、君達も同様に量子分解の刑だな……」


 フルミが片目をつぶった。

 空間軌道鉄道などつかわずとも、恒星間移動について、テレポーテーションをつかえばいいかというとそうでもない。テレポーテーションは惑星間移動までなら便利だが、恒星間での情報送信は時間がかかりすぎ、結果として数年から数十年かかってしまうのだが、空間軌道ならば、四十光年も二週間の貨物輸送でできてしまう。――奇妙な現象が起こったものだ。


 死の恐怖はある。だが、もはやどうなるわけでもない。気を紛らわせるために、マーコはそんなことを考えていた。


 対して、シズクは、脱出のチャンスがないか、さりげなく周囲に目をやっていた。

 〈処刑場〉は、無機質な廊下のつきあたりにある。

 内部告発者の技師と、鉄道警察隊員の二人は、それぞれ、空間移動装置のカプセルに収められた。身体がみるみるかすんでいき、量子レベルに分解されていく。


「仮にだ。転送先にカプセルがあったとしよう。こちら側の肉体は量子に分解されたままで、向こう側の量子を再構成して、肉体を再構成する。――理屈だけ聞いているとゾッとする話だ。――だが処刑場のカプセルの転送先はなく、再構成情報は宙に浮いたままの状態となる」


 転送スイッチを押したフルミが、そんな話を囚人三名にしたのだが、話が終わらぬうちに、皆、一瞬にして消えてしまった。


 手術室で麻酔をかけられた患者は、眠っている間、夢を見ない。コールド・スリープをかけられた宇宙船パイロットも夢をみない。瞬間移動中の人も理屈の上ではそういうことになる。


 しかし三人は夢を見ていた。否、夢というより仮想現実というべきものだった。天空から地上に落下していくとき、人外の種族が築いたとしか思えない都市が眼下に広がっていた。そして、都市上空を飛んでいるのは、三億年前の地球に棲息していたというメガネウラと呼ばれる七十センチ級のトンボだった。それが三人に襲い掛かってきた。


 不意をつかれて、まっ先に捕食されてしまったのが、技師だった。マーコは銃の操作が下手だ。代わりにシズクが、相手になった。

 このとき声がした。……正確には、思考を人間の言語に変換しているものだった。


 ――フルミはやり過ぎだ。奴の暴走は私の手に余る。

 マーコが聞き返す。

 ――貴方は誰?

 ――最初に接触したシモヤマは、私をヨグ=ソードスと名付けた。下にある都市の守護者で、君たちがいうところの神だ。

 ――シモヤマ……銀河鉄道株式会社初代社長。

 ――シモヤマは、この惑星を宇宙船で探査したとき、都市の者たちが、氷河の眠りに入る際、転送途中状態にあることを知った。すぐさま私は、空間軌道関連施設を発掘の指揮をとっていたシモヤマの夢に接触し、協定を結んだ。……この星の氷が解ける二百万年先まで、氷の下にある都城には手を出してはならぬと。


 人類は代わりに空間軌道技術を手に入れた。 


          *


 同日、二人の鉄道警察隊員が転送装置によって、転送空間から救出された。

 だが事件の中心にいたフルミ大佐が失踪。全容はまだ解明されていない。


          ノート20180801

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