――バッドエンド?いいえ、ハッピーエンド
きっと、これからもオレとあいつの関係は変わらないだろう。それでも、彼がオレを望む限り傍にいる。
※
パラパラと本を捲る音が病室に響く。幼馴染は、顔色変えず本を読んでいる。
彼に馴染みのある言葉。ドイツ語の詩集だが、面白くなかったのだろうか。
オレは、リンゴを齧りながら彼に尋ねる。
「遠夜。それ、面白くないの?」
蒼葉遠夜は、光を感じられない瞳にオレを写す。ガラス玉のその瞳に覗かれると吸い込まれそうだ。
「……普通」
淡々とした声で彼は答えた。パタンと本を閉じて遠夜はオレから視線を逸らした。
外は晴れている。屋上に行けば青空が見えるだろう。
だが、今の彼にはどんな風に世界が見えているのだろうか。
しゃくしゃくとオレがリンゴを齧る音だけが響いている。遠夜の病気は治らなかった。
軽いもの――ヨーグルトとかそういったものなら食べれた。けど、今は全く食べれなかった。
水ですら吐いてしまう。徐々にやつれていく幼馴染にオレはなすすべもない。
てか、医者じゃないから無理。だけど、唯一できることがある。幼馴染の傍にいることだった。
「遠夜。屋上、行く?」
小さく、彼は頷いた。遠夜を抱えて車椅子に乗せる。少しは外の空気を吸わないとね。
春が近い今は、少し風が温かい。遠夜にカーディガンを着せては、フェンス近くまで車椅子を押した。
眼前に広がる街並みを見下ろす。時折遠夜の方を見てみた。
無表情で何を考えているのか、分からない。昔はもう少し表情豊かだった。
口数は少ないけど、今ほどじゃない。
遠夜から生きる気力を奪ったものをなにかオレは知っている。それでも、口にしないのは遠夜のためを思ってだ。
もし、あの時。オレが遠夜を引き留めなかったら遠夜は今も元気だったのかな。
でも、さ。一人で東京に行くなんて不安しかないよね。別々になるんだよ?
死刑宣告だよね。オレは遠夜がいないと生きていけないのに。
「早いけど、病室戻る?」
「……空」
「うん?」
「……空、飛びたい」
遠夜の言わんとしたことが分かった。オレは、遠夜をそっと抱き上げた。ふわりと長くなった遠夜の髪が舞う。
病院なら、フェンスを乗り越えれないようになってると思うよね。でも、ここは自殺者もいないし。
精神科病棟でもない。
背の高いオレなら簡単に乗り越えられる。
ガシャンと音がする。ほら、乗り越えられた。
「ずっと、一緒」
そうだね。遠夜。オレ等は二人で一人だもんね。一緒に、逝こう。
遠夜を隣に立たせる。ぎゅっと手を握って、
「おやすみ、遠夜」
「……うん」
――オレ等は、なんの戸惑いもなく飛び降りた。
――これは、どこかの世界の遠夜と七星――