表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼の脳  作者: Arpad
1/8

序章 Where do we come from? What are we?

「午後5時現在のニュースをお届けします。本日未明に発見されました、頭部が粉砕されたAR(アンドロイド)の身元が、消防局員、安賀多康成さん役の個体と、保安当局の分析で明らかになりました。安賀多さんは数日前から行方不明になっており、犯行の手口から、この半年の間に多発しているAR連続損壊事件の犯人と同様との見方を・・・」

 不意に男が倒れ込み、ニュースを流していた有機ELモニターを破壊した。倒れた男の背後には、黒いパーカーを纏い、顔全体をフードと面頬で覆い隠した怪人物が立っていた。右手にはフラッシュライトを着けた、真っ黒な拳銃が握られている。

「・・・ふぅ」

 怪人物は、左手に握っていた端末を耳に当てた。

「ジャーニー、侵入出来たぞ。ターゲットの位置を教えてくれ」

 応答したのは、若い女性の声であった。

「はいよ・・・ターゲットは・・・その建物の最奥の部屋で、パソコンをいじってる」

「パソコンか、それも押さえよう・・・というか、ここで行き止まりなのだが、その部屋へはどうやって行けば良いんだ?」

「目の前にある本棚が隠し扉になっているみたい、今開けるから待ってて」

 次の瞬間、本棚がスライドし、地下へと続く真っ暗な通路が出現した。

「上出来だ」

 怪人物は臆することなく、通路へと足を踏み入れる。薄暗く、薄汚く、薄気味悪い道を、10mほど進むと通路は右に折れていた。

「ジャーニー、ここは一本道なのか?」

「監視カメラ、ジャック中・・・そうだね、だけど曲がった先に見張りがいる。拳銃で武装してる、気を付けて」

「了解」

 怪人物は、隠れもせず、ふらりと角を曲がった。驚いた見張りは、固まってしまっている。その一瞬で、怪人物は銃口を向け、躊躇いなくトリガーを引いた。

 吐き出された物体が、見張りの眉間へ食い込む。間を置かず、見張りの膝がガクリと折れ、糸の切れた操り人形の様に、その場に崩れていった。一連の出来事には銃声も、マズルフラッシュも無く、見張りの倒れる音だけが通路に響いた。倒れた見張りにスタスタと歩み寄る怪人物。見張りの眉間に針の様な物が刺さっているのを確認すると、満足そうに頷いた。

「よし、ど真ん中」

「うわぁ・・・いつもながら、それで撃たれるとえげつないわぁ・・・なんでそうなるんだっけ?」

「ああ、特殊な音波を利用して、命中した相手の脳神経を圧迫、平衡感覚を狂わせるんだよ。この眉間に刺さったアンテナを抜くまでは、あらゆる方向に自由落下するような感覚に襲われ、目を回し続けているって代物だ」

「音波って拳銃から出してるんでしょ?」

「ああ、こいつのフラッシュライト型のスピーカーからな」

「有効範囲は?」

「2kmぐらいだったかな・・・」

「まさに悪夢・・・うん、チートだ」

「重宝している、あまり殺人はしたくないからな・・・さあ、先に進むぞ」

 この先2回ほど、角を曲がる度に同じ方法で見張りを撃ち倒していった。そして、たどり着いた扉の前で、怪人物は足を止めていた。

「その向こうは、溜まり場になっているみたい。中にひい、ふう・・・5人おりまする」

「ふむ・・・ターゲットの居る部屋以外、照明を落とせるか?」

「えっと・・・ああ、出来そう」

「やってくれ」

「ラジャ~」

 端末を右上腕のホルダーに提げ、怪人物はその時を待った。やや置いて、照明が落とされる。すると、怪人物はすぐさま扉を開き、音波拳銃ナイトメアを構えた。面頬の、眼孔に嵌まるグラスの暗視機能により、敵影を捉えていた怪人物は、的確に敵対者へアンテナを撃ち込んでいった。5つの人影が倒れているのを確認し、怪人物は照明を戻すように指示を出す。照明が戻った次の瞬間、怪人物は視界の端に動体を捕捉した。もう一人、敵が残っていたのだ。

「ウラァァ!!」

 ナイフを構え、男が左から肉薄してくる。ナイトメアを向けようにも近過ぎる。怪人物は、咄嗟にナイトメアを手放した。すると、男の意識が落ちていくナイトメアに向けられ、勢いが僅かに削がれた。その間隙を生かし、怪人物はまず左手でナイフをいなし、次いで右拳を男の鳩尾にアッパーカットの要領で打ち込んだ。衝撃で顔を歪ませる男、だがまだ倒れない。

 怪人物は、息を吐くと同時に右腕に力を込め、さらなる衝撃を打ち込んだ。身体の内へ浸透するような衝撃であり、顔色が、みるみる青ざめていく。男は、よろめきながら後退すると、胃の内容物を吐き出し、そのまま昏倒した。怪人物はナイトメアを拾い、自身の吐瀉物にダイブした男に、アンテナを撃ち込んだ。

「ふぅ、危なかった・・・」

 一息ついた怪人物は、端末を耳に当てた。

「どういうことだ、ジャーニー。なぜ見逃した?」

「いやぁ・・・ほら、カメラにだって死角はあるし・・・それより接近戦なんて初めて見たけど、何あれ、太極拳?」

「ん? あれはただの喧嘩殺法だよ。そんな高尚なものじゃない」

「つまり、我流ってこと?」

「ああ、昔は今ので、よく機人の自動人形と殴り合ってたな。衝撃を装甲内へ浸透させて基盤を叩き割る技で・・・」

「そんなのを、人に使ったの・・・」

「・・・まあ、手加減はした。死にはしない」

「うわぁ・・・・・・あっ、ターゲットが動いた。物音で気付かれたのかも、銃を持ってそっちに行くよ」

「なに・・・あのドアか」

 怪人物は、ゆっくりと押し開かれていく扉の陰に飛び込み、気配を出来るだけ殺した。やがて、部屋の惨状を目にしたのか、小さな悲鳴が聞こえてきた。つまり、扉一枚挟んだ先にターゲットが居るということである。怪人物は、渾身の力で扉を蹴った。するともちろん、蹴られた扉は勢い良くターゲットにぶち当たる。覗き込み、怪人物が目にしたのは、手にしていた散弾銃を取り落とし、顔面を手で押さえながらのたうち回るターゲットの姿であった。

「ジャーニー、ターゲットを押さえた。これより尋問に移る。例のパソコンの中を洗っておいてくれ」

「ラジャ~」

 怪人物は、散弾銃を蹴り飛ばし、ターゲットの襟首を掴むと、奥の部屋へと奥の部屋へと引きずり込んでいった。

「くそっ・・・な、何なんだ、お前は!?」

「人に尋ねる時は自分から、まだ浸透してないのか?」

「・・・会長の島田です」

「そうか、俺は秘密だ」

「汚ねぇ!?」

 怪人物は、島田を壁に放ると、その額に銃口を押し当てた。

「黙れ恩知らず、質問には答えてもらうぞ。クルミ割りを知っているな?」

「・・・」

「黙りか・・・これは拷問しか無いかな」

「・・・無駄だ」

「ん?」

「お前は終わりだ」

 次の瞬間、怪人物の背後に重量感のある何が着地した。反射的に、怪人物は上半身を90°、前へ倒した。するとその直後、巨大な丸太の様な何かが、寸前まで上半身のあった空間を薙いでいく。

 この後、怪人物は三つの動作をした。まず、左手で左腿のホルダーからナイトメアとは別の拳銃を引き抜く。次いで、振り向き様に島田の横っ面を蹴り飛ばし、そして、半身の状態で拳銃をその何かに向け、3回トリガーを引いた。

 ズガンッ、ズガンッ、ズガンッと金属が金属を抉る感じの音が響き、重量感のある何かは仰向けに転倒した。それは、金属製の人体模型の様な姿をしていた。3発とも頭部を穿っており、その人型は痙攣のような動作を繰り返していた。

「旧式の作業人形か・・・」

 怪人物は、左手の拳銃を、改めて自動人形の頭部に向けた。引き金が引かれ、2発の銃弾が、念押しで撃ち込まれた。その拳銃は、不思議な形をしていた。旧式のモーゼル拳銃のようだが、細部が違う。これはハンドレールガン、つまり拳銃サイズのレールガンである。拳銃前部の弾倉らしきものがバッテリーで、銃弾はグリップ内に収まっており、銃弾といっても小さな金属だけなので薬莢やその排出口も無い。必要な部品を合わせたらモーゼル拳銃に似てしまったというだけで、特に意図はない。

 作業人形の機能が完全に停止を確認してから、怪人物は島田に目を向けた。蹴られた箇所を手で押さえながら、息を荒立てている。どうやら、暴力に晒され慣れていないらしい。

 怪人物は、ハンドレールガンをしまい、それから空いた左手で横倒しになっていた島田の胸ぐらを掴んで、起こしてやった。

「さて、後が無くなったところで、話してもらおうか?」

 ナイトメアの銃口を眉間に当てられ、怪人物に問われた島田は、震えながら口を開いた。

「っ・・・し、知らない! 確かに我々はAR排斥運動を掲げているが、あの連続損壊魔とは無関係だ!」

「だろうな。こんな骨董品が奥の手の奴らじゃあ、頑丈なARの頭部を粉砕するなんて芸当は出来ない・・・用済みだな」

「い、命だけは!!」

「・・・そのセリフ、嫌いなんだ」

 怪人物は、ナイトメアのトリガーを引いた。アンテナを受け、硬直する島田。怪人物は島田を投げ捨て、ナイトメアを右腿のホルダーにしまうと、パソコンの置かれたデスクへと歩み寄った。

「中は洗ったか?」

「う~ん、いくつかのテロ計画とか、クッキングプリンターの改造方法とか、家族へのほんわかメールしか無いみたい」

「やはり、奴の情報は無いか・・・後処理は保安局に任せよう」

「はぁ、やっと終わった・・・アイス食べたい」

「ありがとうジャーニー、助かった」

「変なところで素直だよねぇ・・・じゃあ、落ちるよ」

 怪人物は、端末を操作し、警察へ通信を入れた。

「・・・もしもし、田上さん? 俺です、特務の。ああ、番号は毎回変わるんですよ。反AR団体、落実会を押さえました。ええ、銃器の不法所持で・・・ええ、代表も捕らえました。はい、これまでのように後処理を御願いしたく・・・」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ