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僕は君のザオリク  作者: 大栄 カケル
3/3

――――玲夢がまた殺された。


しかし今回は通り魔ではない。

深夜に自宅に犯人が侵入し、玲夢とその家族の命を奪っていた。

防犯カメラの映像から犯人は特定された。

しかし既に中国国籍のその男は中国に逃走している可能性が高いとの事だった。


つまり、玲夢はたまたま死んだのではなく

命を狙われていたのだ。


「くそがあああああ!」僕は力の限り、思いっきり叫んだ。


その叫びがトリガーとなって

僕はまた激しい頭痛と胸が締め付けられる感覚と共に

視界が真っ暗になった。




「おい、須山!」


僕はハッと目を見開いた。

あたりを見回すと、また居酒屋だ。


「大丈夫かお前、いくら初合コンだからって緊張しすぎだろ」

林が僕の顔をのぞき込んでいた。

「ハハ!さてはお前、童貞だな」

大江がニヤニヤしながら言っている。


「…トイレ行ってくる。女の子来る前には戻るから」

そう言って席を立ち、僕は心配する二人を無視して鞄を持ち、トイレに入り、まず顔を洗った。

鏡に映る自分に向かって言ってやった。

「落ち着け、落ち着いて考えれば、大丈夫。絶対玲夢を救える筈だ」


濡れた顔をハンカチで拭き、洋式の個室に入った。

僕は仕事で普段使っている手帳を開き、現在までわかっている事をまとめる事にした。


まず今回の玲夢の死因から考えて、自宅に帰っても危険な事がわかった。

また相手は中国人の単独犯である事がわかっている。


これだけの情報で一体、どうすれば玲夢を守れるんだ。


もしかしたら玲夢を尾行している人がいる。

それを巻いて、僕がホテルなり自宅なりで匿う事ができれば

彼女は生き延びる事ができるかもしれない。


でも本当にそれでいいのだろか。

結局、逃げたままではいずれ殺されてしまうのではないだろうか。


こうなったら、いっそアレしかないのか。

僕は最後の秘策の用意に取りかかった。



僕は腕時計に目を落とした。

10分という時間はあっという間に過ぎた。

そろそろ来る時間だ。


トイレから席に戻る時に、わざと道を間違えたフリをして、店内を見渡して見たが、中国人で黒いパーカー人は店内にはいないようだ。


「遅かったな須山」林が心配してくれた

「女子、道に迷って遅れてるみたいだけど、そろそろ来るよ」

大江がそう言った時に「ごめ~ん」と言いながら千帆達がやってきた。


前回と同じやり取りで、ドリンクを注文して乾杯をした。

今回は僕はお酒ではなくウーロン茶を飲んでいる。

そして大江の仕切りで今回も僕から自己紹介を促された。

だけど僕はそれを断り、「一番最後がいい」と言った。

周りも「え」と言った様子だったが、林がすかさず自己紹介を始めた。


そして玲夢の自己紹介が終わったり

いよいよ僕の番だ。


僕は軽く深呼吸をして言った。

「―――僕は須山尚樹、失敗した明日から来た者です。」


女性陣があきらかに怪訝そうな顔をしている。

林も大江も「何だそれ!」ってツッコミを入れてきたが

僕は真剣な表情のまま続けた。


「玲夢、君は今夜…殺される。僕は何としてもそれを止める為に戻ってきたんだ。」



玲夢はあきらかに動揺している様子だ。

無理もない。

向こうから見たら、初対面の男が意味不明の事を言ってるのだから。


何か言おうとした大江を僕は手で制止、5人それぞれにメモを渡した。


「なにこれ…」メモを読んでいる皆から困惑の声が上がる。


千帆や彩花、玲夢の表情はみるみる青ざめていく。


僕が渡したメモにはそれぞれの自己紹介の内容を丸々、同じ文章を書き、更に今までの合コンで聞いてきた趣味や住んでいる所、今までやっていたスポーツなど思いつく限りの聞いた話を書いた物だ。


「なにこれ、ストーカーじゃん」彩花は怯えたた様子でメモを放り投げた。


千帆ははわざと大きくため息をついた。

「大江、これ何の真似?趣味悪すぎ」

「おい!俺も何も知らないよ!」

そう言う大江の声は既に千帆には届いておらず、席を立ち「彩花、玲夢帰るよ」


「待って!僕の話を最後まで聞いて下さい!!」

僕は必死に頭を下げ、懇願した。


千帆は僕を無視して、まだ座っている玲夢の手を引っ張った。


「さっきの話、本当なんですか」

玲夢が千帆の手を優しく振りほどき、僕に真剣な眼差しを向ける。


「…うん、本当だよ」


「そうなんですね。私、須山さんの言う事を信じます」


「なに言ってるの玲夢!そんなの信じちゃダメよ!だって…だってそれが本当なら貴方は今夜死ぬことになるのよ!?」

千帆は涙ぐんでいた。


「さっきのメモに書いてあった事は全て本当の事でした。もし興信所に頼んで調べてもらったとしても、自己紹介の言葉までわかるとは思えません。」


みんな信じたくない真実を突きつけられて、言い返せないみたいだった。


「それに嘘ならそれはそれで私助かりますし、もし本当なら、助けてくれる為に須山さんはこうして、話をしてくださっているんですから。私、まだ行きたい事もやりたい事もたくさんあるんです。だから須山さんお願いします!私を助けて下さい」


今度は玲夢が僕に頭を下げた。


それを見た千帆と彩花は顔を見合わせ、気まずそうに席にそっと座った。


「須山、俺には状況がよくわからないから、お前にあった出来事をまず一から聞かせてくれないか」

林が冷静に問いかけてきた。


僕は今までにあった出来事をかいつまんで話した。

なるべくオブラートに包んで話したが、どうしても玲夢にとっては

聞きたくない話の筈だ。


「なるほどね。それでこれからどうするつもりだ?」

僕の話を聞き終わったら、林が質問をした。


「敵から玲夢をかくまえる場所に連れていこうと思う。尾行がいればそれも追い払うつもり」

それを聞いた林は少しうつむいて、考えているようだった。


「警察に相談したらいいんじゃないでしょか」彩花が言ったが、それに対して大江が


「それは難しいと思うよ。だって警察に、なんて相談するの?これから人殺しが私の家に来ます!助けて下さい!って言ってどれ程効果があるかわからないし」


考えても結局、有効な手立ては思いつかないまま時間が過ぎていき、沈黙が続いた。



「皆さん、私の為にありがとうございます。でももう大丈夫です。」

「…最後は何か楽しい話をして過ごしたいです」

あきらかに無理をして言っている。

流石の僕でもそれはわかった。


「なに言ってるのよ玲夢!きっと助かる方法はある筈よ」

千帆の言葉はどこか不安げだった。


「そうだよ玲夢!いざとなれば玲夢をどこかのホテルで一部屋借りて、ほとぼりが冷めるまで、ひそかに隠す事だってできる。」


「なんで私がそんなコソコソ逃げなくちゃいけないんですか!私そんなカゴの中で暮らしたりするのは、もう嫌なんです」

「それだったら死んだ方がましです。どうせ生き物はいずれ死ぬんですから」


その玲夢の言葉でまた沈黙が続いた。


「それなら、悪いけど死を選んでもらおうか」

林のこの言葉で玲夢の運命は決まったのかもしれない。





それからしばらくして僕たちは店を出た。

そして二次会をすることもなく、それぞれの帰路についた。


帰りの電車内、ふるえる玲夢の手をそっと握った。

「やっぱり家まで送っていくよ」

「嬉しいけど、大丈夫です。私と一緒に歩いてたら須山さんも私の両親のように巻き添えになるかもしれませんし」


そう言って、残り少ない車内の時間をたわいもない話をして過ごし、僕は最寄り駅で降りた。

そしてなるべく笑顔で玲夢を見送った。


それに答えるように、玲夢も笑顔で手を振り返して僕たちは別れた。



その日の夜、玲夢は通り魔によって

後ろからナイフで刺され、白のワンピースが真っ赤に染め上げられ、路上で一人倒れた。


頭上には寝るには惜しいほど月が綺麗に輝いていた。



僕は一睡もすることなく、朝を迎えていた。


テレビを見ていると林からの電話が鳴った。


「須山、上手くいったぞ」


その言葉を聞いた瞬間、僕はガッツポーズをした。


「さっきの飛行機で中国に帰っていたよ。んで、そっちは無事なんだろうな」


「うん、お陰様で僕も玲夢も無事だよ」


「それは良かった。それじゃあ俺も家に帰るよ」


そう言って林は電話を切った。


僕は聞いたことを隣に座っていた玲夢に伝えた。


「良かったー!これで私、死なないで済んだんですね!」


「黒幕がわからないから、完璧には安心できないけど、これで一段落だね。あいつ等を雇った人も”殺人の偽装工作”をされたんじゃ、こっちに計画が筒抜けになっている事を察して、次は大々的には動けないはずだし、しばらくは僕の父の紹介で玲夢にボディーガードつけるから、安心して大丈夫だよ」


「本当に須山さんは私の命の恩人です。ありがとうございます。」


「僕だけじゃなくて、皆のお陰だよ。じゃなかったらこんな作戦、実行できなかった訳だし」


「そうですね!まずは林さんが作戦を考えてくれましたね」


「林が『悪いけど死を選んでもらおうか』って言った時は怒りそうになったけどね」


「え、須山さん、怒ってたじゃないですか」


「はは、だってまさか殺人の偽装工作をやろうって言い出すとは思わなかったんだもん」


「そうですね。そこから最終的に彩花さんの意見で引っ込みナイフと大量のケッチャプで通り魔を偽装しようってなったんですよね」


「僕が玲夢をスタンガンで眠らして血まみれの床に寝かせようって言ったら「アニメの見過ぎ」って大江に言われたんだよね」


「スタンガンなんて痛いの嫌ですよ」


「コソコソ逃げるより死んだ方がマシって言ったくせによく言うよ」


「それとこれとは別です」

顔を見合わして笑った。



「でも実際に大江さんに刺された時、本当に怖かったんですよ。ナイフ引っ込みの分かってても、私が倒れた後も、大江さん何回も刺してから逃走していったんですから。あれ絶対やり過ぎですよ」


「まぁ、あいつもテンパってたんだろ。それに本当の通り魔に玲夢は確実に死んだと思い込ませる為に必死だったんだと思うよ」


「犯人からしたら、自分と同じ服装の人が先にターゲットを殺しちゃうなんて予想もしてなかっただろうからね」


「実際、凶器を持ち歩いてる訳ですし、お巡りさんに職質されたら一発アウトですもんね。だから死亡確認する前にあわてて、犯人は現場から立ち去った訳なんですね」


「そんでその犯人の後をこっそり林に尾行させて、僕は急いで帰宅して、車で玲夢を回収して今に至ったわけだよね」


「みんなにはいくら感謝しても、しきれませんよ」


「そんなお礼なんていらないよ。あー安心したら一気に睡魔襲ってきたし、寝ようかな」


「私もどっと疲れが出て、ゆっくり眠りたいです」


「それじゃあ、そこのベッド使っていいよ、僕はこっちのソファで眠るからさ。起きたらお家まで送っていくよ」


「そんな悪いですよ」

という玲夢に遠慮するな、とベッドを譲ってそれぞれ横になった。



「そういや玲夢に聞きたい事あるんだけどさ、初めて玲夢に会った時は玲夢に『昔会ったことある』って言われてさ、二度目の時は『初対面です』って言われたんだけど、あれはどういう事だと思う?」

カーテンを閉めて、テレビを消し、うっすら暗くなった部屋で

天井を見つめながら、思い出したように質問をした。


「ふふ、私そんな事言ったんですね」

そう言って笑った玲夢は身体を起こして、こっちを見て髪をかき上げた。

カーテンの隙間から光りがうっすら刺す部屋で僕に見えた玲夢の側頭部に

付いているのはキクラゲなんかじゃない、僕の愛する獣耳だった。


「私、昔も須山さんに命を助けてもらった猫のレムです」


僕の胸に、弓矢で貫かれた様な衝撃がはしった。




登場人物より一言


須山 尚樹 (27)

三次元より二次元が好き!

須山自動車社長の息子で現在、他会社の自動車会社勤務。

「あれから一ヶ月して玲夢と水族館に行った。色々な魚を見て、美味しそうとヨダレを垂らしてた彼女はやっぱり猫なんだと思う」


林 浩宇 (27)

住他不動産東京支店営業。

「林の正しい発音はリムだけど、日本人は皆『リン』って呼んでくる」


大江 雄馬 (27)

OONAMIスポーツ杉並支店トレーナー

「肉体改造の最大の敵は自分の甘さだ。変わりたいあなた、是非OONAMIスポーツ杉並支店へお越し下さい!」


松山 千帆 (27)

株式会社セーオー化粧品宣伝部エース

社内での信頼も厚い常にクールな才媛。将来は自分の会社を持ちたい!

「事件のあった週明けに玲夢が新人の後輩に『週末何してたんですか?』って聞かれてた。それに対して玲夢が『んー強いて言えば生きてたよ』と、無駄のない回答に感動してしまった。あの子はきっと出世するわね」


前田 彩花 (24)

株式会社セーオー化粧品宣伝部3年目

「服にも年齢制限があることを知った。女の子って服が似合わなくなる速度が思春期の子供と同じなのよ。だからお金掛かって大変なの。つまり食事は男のオゴリでしょ♪」


古垣 玲夢 (23)

株式会社セーオー化粧品宣伝部2年目

獣耳をもち、人間社会に溶け込む元猫。

「先輩達が忙しいと猫の手も借りたいって嘆き出す事があるんです。もう2年も貸しているんだけど、変化はないみたいです」




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ご愛読ありがとうございました。

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